プロローグ
この世の中は不平等だ。私はそれを生まれながらに知っている。
体が弱く、度々倒れたり手術で入退院を繰り返してきた私は中学卒業まで碌に友達もできなかった。
高校生の時に一度大きな手術をする必要があるみたいだが、それでも私が高校を生きて卒業することは難しいそうだ。なので生きる気力がわかない。希望もない。
そんな私でも好きなものはある。ゲームだ。特にRPG。物語の主人公になって世界を冒険する。そんなゲームに私はハマり、暇な時間はいつもゲームをやっている。
高校二年生になってしばらくした頃、いつものように病院のベッドの上でゲームをしている私のもとに彼女はやってきた。
「おつかれー紫苑。元気にしてたー?」
そう言って彼女はベッド横の机の上に持ってきた差し入れを広げる。
彼女の名前は向日葵。高校に入学してようやく初めてできた友達だ。
きっかけは高校に入学してしばらくの頃、倒れてそのまま病院に運ばれた私に荷物を持って届けにきてくれたことから。
「おつかれー向日葵。今日も検査の時間以外はゲームだよ。」
「ふふ、やってるねー。そういえば私が紫苑のもとに通うようになってもう一年くらい?」
「そうだね、嬉しいけど、別に私のためにいつも来なくてもいいのに。花の女子高生でしょ?彼氏の一人や二人侍らせてスイーツ片手に映えの写真を撮っているもんじゃないの?」
「いやいや、彼氏2人作ったらダメでしょ。だめだよね?」
「さぁ?」
「ていうか、一年も関われば私がそんなことするようなキャラじゃないってわかるでしょ!まったく!」
「ふふ、ごめんごめん。冗談だよ。」
「もうー。まぁその、紫苑と一緒にいると気が楽なのよ。こんな軽口を言い合える人なんていないんだから。」
「いい子ちゃんめ。普段とキャラ違いすぎ。」
「それは言わない約束!」
そう、普段の向日葵は優等生キャラなのだ。可愛くて勉強も運動もできてしかも誰にでも優しい。実家も太い。才色兼備。もともと荷物を持って来てくれたのだって、その優等生ムーブで持ってきてくれたのだ。頼まれたら断れないだけみたいだが。
「いやー最初はびっくりしたよ。初めてクラスで見たときはずっと笑顔で敬語でしか喋らない人なんだなーって思ってて。怒るとあんな感じなんだね。」
「またその話~。しょうがないじゃん。あの時私もイライラしてたし、荷物持ってきてあげたのにいきなり悪口言ってくるし。」
「う~、ごめん。私も倒れてまた高校でも入退院を繰り返すのかなって、私もイライラしてたのに、ほーんと素敵な笑顔で話しかけてくるんだもん。」
向日葵にいってしまったのだ。何もかも持ってるのに、私を馬鹿にしてるのかって。そんな自分を偽って大変だなって皮肉気味に。
「まぁあの時は私も悪かったわね。お互い様よ、、、。でもこんなこと言うのも恥ずかしいけど私にかみついてくる人ってほんとに珍しいというか、、ちょっと嬉しかったというか、、。まぁそれはいいのよ!それよりもねぇ、手術が近いってほんと?」
「、、、うん。」
彼女の言う通り、手術は近い。しかも生死を分ける大きな手術。
「、、、、。ねぇ、卒業旅行さ、一緒にヨーロッパ行こうよ!」
私にとって残酷なことを向日葵は言う。でも
「うん!行きたい!あのね、行きたいところがあって――――。」
そうして二人で行きたいところを探す。将来どうなるかわからない私にとって未来の話は残酷だ。でも、、、、でも私にとっては嬉しいのだ。今まで関わってきた人、家族ですら、もう長くは生きられないような態度をとってくるなかで彼女だけが当たり前のように未来の話をしてくれる。それに私がどれだけ救われたか。この一年、ずっとそのような態度で接してくれるから大人になったらやりたいことを夢想できるようになった。だから手術をうけようと思えた。正直、向日葵に対して、友達以上の感情はあると思う。手術が終わるまでの秘密。
「あ、そうだ、紫苑。さっきまで何のゲームしてたの?あ、もしかして最新の?」
「そう!今日発売の『君は世界で一つの花』!面白いよ!!ヒロインが――。」
「まって!まって!ネタバレしないで!私も近いうちに買うから!」
さっきまでやっていたゲームは今日発売の『君は世界で一つの花』。いわゆる乙女ゲーってやつなのだが、私の注目ポイントはそこじゃない。乙女ゲーのくせにオープンワールドなのだ。そう、オープンワールド。大筋は魔王を倒す話なのだが、ストーリーも攻略対象の攻略も好きな順番で進めてもいいし、なんなら難しいがストーリー無視していきなり魔王を倒しにいっていいのだ。好きな攻略方法でエンディングが変わる。誰と魔王を倒すかでエンディングが変わるのだ。今日発売なだけあってまだ全然進んでいないが、このゲームを攻略することが最近の楽しみである。
「向日葵、手術が終わってお互いゲームクリアしたら一緒に感想を話そうよ!」
「いいよ!いやー楽しみだね!、、、その、、、手術はいつ?」
「来週かな」
「そっか、、、。再来週、元気になった時にまた来るね。その時までにはクリアしとく!まずは買うところからだけど。」
「うん、ありがとう!楽しみにしてる!」
そういって彼女は荷物をまとめて帰っていった。
――手術当日。
麻酔で意識が遠のくなか、明日に想いを馳せて眠りにつく。
この世の中は不平等だ。私はそれを生まれながらに知っている。
私―、『花園紫苑』は二度と目が覚めることはなかった。