75話 白虎よ、未来を得たくばこの峰を越えて行け
峰様は組んでいた腕をほどくと、自身の両膝をポンと打つ。
「ウチの主な生業に関してはわかるかい?」
琥珀お嬢様の頭が小さく縦に動いた。
「基本は隕石からの資源採掘、管理業務を政府から完全に委託を受けていらっしゃいます。他には採掘を許可されている鉱石や大蛇森家の木材を加工した家具を中心とした工芸品を卸していらっしゃいますよね。最近では宝石を含めたアクセサリーの分野にも進出していらっしゃると聞き及んでおります」
峰様から拍手と笑顔がお嬢様に送られる。
「三十六名家の女は、当主を継ぐヤツ以外じゃ、こういったことに興味を持ってる奴はまずいない。最初の以外は答えられないのが当然なんだけどね。上出来だ」
獲物を見つけた捕食者のように舌なめずりをする。ちょっと怖い。
「もちろん後継ぎとして保証するとわけじゃない。候補の一人として跡目争いに参戦しないかと言うのさ。アタシにも先に逝っちまった相方との間に四人の子供、十二人の孫、二人の曾孫がいる。成人してる奴らにはそれぞれ仕事をまかせているが、いまだアタシに後継ぎと指名させるほどの実力を見せていない。不本意ながらね。アタシが指名する前にくたばったら、後継ぎの指名は『マーズ』に一任している。半ばそうなると諦めてたところさ」
マーズか。たしか、この『銀嶺』の管理AIの名前だね
「あんた、七月の末に、日ノ本主催で三十六名家だけじゃなく、海外も含めて百以上の名家を招いての懇親パーティーが開かれること、聞いているかい?」
「え⁉」
お嬢様が驚きの声を上げるが、アタシも驚いていた。そんなの知らない。
七月の末。要するに学校が夏休みに入ってすぐだから、あと二ヶ月と少し。
もっとも、もう少し後に教えられたところで、お嬢様の準備をお手伝いするだけのアタシはちっとも困らないのだが。
「やっぱりね。一昨日に、その詳細を含めた招待状を送付すると、執事長に連絡があったばかりだから、そうだろうとは思ったよ。獅童の坊やが、あんたにいちいち了解を得るとも思えなかったからね。坊やとしては急遽売れ残りになっちまったあんたで、取り逃がした風御門に代わる名家を釣ろうという魂胆なんだろう。でもあんたとしてはつまらないだろう?」
「甚だ不愉快ですな」
感情を隠すことなく鼻を鳴らしている。そりゃまあそうだろうな。お嬢様からすれば、一難去ってまた一難だ。
峰様がクスリと笑う。
「そうだろう。あんたに関しての話を聞いただけでもそう感じるんじゃないかとは思っていたが、実際に会って確信したよ。あんたは他の人間が飼い慣らせる器じゃない。琥珀とはよく名付けたもんさ。バラバラにして組み直せば白虎の王の中の王だ。あんたは誰かの下につくことを良しとしないし、相応しくもない」
峰様の眼鏡の向こうの瞳が怪しく光る。
「いますぐ返答をしろとは言わないよ。候補のひとつとして頭に収めといておくれ。あたしも直々にパーティーには出席させてもらうからね。さっきも言った通り、こっちは候補の一人として呼ぶだけさ。でも、ここならあんたは闘える」
少しの間ピクリとも動かなかったお嬢様が、姿勢を正す。
「……わかりました。情報のご提供感謝いたします。承りましたお話しも、ひとつの指針として、自身の進む道を慎重かつ好戦的に探りたいと思います」
お嬢様の背中に、炎が立ち昇ったように見えた。




