73話 ネズミは白虎に想いを託す
予想以上の光景に、思考がストップしていたアタシの耳に、アタシと同じように呆然と立ちつくしていた、琥珀お嬢様の疑問が届く。
「採掘場にロボットを持ち込むとしたら、普通採掘を補助するモノだろう。たださっきのヤツらを見る限り、ここにあるのはそういうモノじゃないだろう。明らかに戦闘を想定したモノに見えた」
「実際そうだと思います。劣化していましたから処理できましたが、正常な状態だったなら対処できなかったでしょう」
なんとなく胸に残っていたわだかまりを伝えてみる。
「やはりそうか。……ここに隠したのは不要になったと同時に、悪用されないためなのだろう。戦力的に取得者に野望を抱かせても不思議はないからな。ただ、少なくともアタシたちが習う歴史の中には、こんな物騒なモノが必要になる時代も、ならなくなった契機も記されていない」
お嬢様が忌々しげに地面を蹴る。
「それにアイツらも最近までは、コイツらと同じように並んでいたのだろう。なんで今になって動いたかだ」
頭の働きを促進させようとするかのように、自身の額を指先でトントンと叩いている。
「通ってきた穴の長さもそれなりにあった。アイツらが休まず掘り続けても数日はかかったとみていい。……その数日前にはなにがあった?」
闇の中でお嬢様の目が光ったような気がした。
「まさか『蒼穹』でのテロが関係していると?」
アタシにはまったく関連がありそうに感じられんのだが、お嬢様はそう疑っているように見える。
「さあな。根拠なんてないし、私たちが世界で起きていることのすべててを知っているわけでもないしな。ただ、はっきりしているのは、タワー都市完成から存在していると言われている管理AI達が、目の前のコイツらのことを知らないとは思えないってことだ。そしてあのテロは、そんな隠し事をしているAI達に反抗する側面が垣間見えたのも事実なんだ」
そう言って、ロボット達を悲しそうな目で見つめていた。
「とにかくここに動かないロボット達がいるのはわかったから、後は準備を整えて、もう一度調査に来るだけなんだけど……彼らに伝えちゃったら、お峰ちゃんに電話で報告入れちゃうよね。できればそれは避けたいな~。調べられなくなっちゃうかもしれないからさ」
「なぜでございますか? 調査は黒曜堂様からの依頼でございましょう?」
アタシが尋ねると、教授は「そうなんだけどねぇ」とこめかみの辺りを掻いた。
「やはり教授もコレについては管理AIも知っているとお考えですか」
お嬢様は教授の言葉の意味を理解したようだが、アタシはわからず首を捻る。
「報告は必要だ。だが電話とかの通信技術を使えば管理AIも内容を知ることになる。アイツらにとってコレが不都合なモノなら、妨害が入る可能性があるってことだ」
師匠がアタシの頭を捻り元の向きになおす。
「それならば教授。私が届けますので、手紙をお書きになってはどうでしょうか。『セフィロト』の者達は教授と共に残らねばならないでしょうが、私達は『黄昏』に戻ります。『蒼穹』に帰るのは明日で充分。『黒曜堂』家のある『銀嶺』は『黄昏』から地下鉄で三十分もかからない。たいした手間ではありません。無論、黒曜堂家に立ち寄るならば、事前に連絡せねばならんでしょうが、私は幼少期に峰様にお会いしたことがあるますから、懐かしくて会いに来たと言っても、さして不思議はないでしょう。少なくとも、電話の内容で管理AIに疑念を抱かせることはない」
教授がポンと手を打つ。
「それいいね! 管理事務所に戻ったらすぐにしたためるから、お願いしちゃってもいいかな?」
「喜んで」
お嬢様と教授が笑顔を見せあう。
やれやれ。コレに付き合って面倒事は終わりと思っていたら、まだまだアタシの気は休まらないようだ。




