72話 飛鳥も指示されれば穴に潜る
「まず我が先行する。危険がないようだったら呼ぶから、それまでは大人しくしていてくれ」
「心配すんな。この人は俺が見てる。頼むぞ」
「うむ。それなら心強い。任せてくれ」
「いやいや。僕、子供じゃないんだから」
アタシ達が追いつくと、師匠とランスが揃って疑わしそうな視線を教授に向けている場面に出くわす。
気を取り直したランスが岩壁に空いた、地面からアタシの太ももの高さくらいの横穴へと、四つん這いになり入っていく。
ん? ちょっとおかしいな。横穴の周りの壁だけ、岩壁というよりも人工的な壁に見える。
「元々通路だったのを塞いだとという印象だな」
アタシの横で琥珀お嬢様が、穴の周囲に散らばった壁の欠片を指さしながら、小声で呟く。
まさにそんな感じだ。昔の採掘作業者が塞いだのだろうか。とにかく目の前の横穴は、その塞いでいた素材を無理やりにくり抜いてできたモノのように見える。
これは、まあ、さっきのロボットたちがやったとみていいだろう。
アイツらはモデルとなっただろう生物よりは大きいが、それでも体高に関してはアタシのお腹あたりまでしかなかったからな。這って掘り進めればこれで充分に通り抜けできただろう。
ランスの姿が穴の中に完全に消えた。光源が減り広場がさらに暗くなる。
「あのロボットたちが、ここに前からいたのは間違いないとして、いつからなのでしょうか。腐食具合からして相当な昔だろうとは思うのですが」
あまり自分から口をきくイメージのなかった山本さんだが、闇が深くなって恐怖感でも増したのか、不安そうに言葉を漏らす。
それを受けて鈴火お嬢様が教授に尋ねる。
「教授の見立ては? いつかの時代の作業者が持ち込んだんだろうとは思うけど」
教授が困ったように頭をかいた。
「うん。自然に考えたらそうなんだけどね」
なんだか歯切れが悪い。
「おい! 大丈夫だ、汚れるのを気にしないなら入ってきてくれ」
ランスの声が、微妙になりつつあった空気を斬り裂く。
「この穴、アタシには狭いから一華と一緒にこっちに残るよ。念のために人が残ったほうがいいだろうしね」
そう言って鈴火お嬢様は箱のひとつにどっかりと腰を下ろす。添い遂げると言わんばかりに、山本さんがその横にひっそりと立つ。
「よし。行くぞ、翼」
琥珀お嬢様が張りきって、教授に続いて横穴に入っていく。
アタシは汚れるのを気にするのだが……。
意識が衣服の洗濯で一杯になりかけたが、なにがあるかに興味が無い訳ではないので、はいと短く返事をして続く。余談だが、ランスの軍服は身体の一部で、自身で浄化装置を起動させ、立ったまま清浄化できる。羨ましい限りだ。
「いやー、これはすごいね! 壊れたからここに捨てたって感じじゃないよね。起動を停止させたものをここに集めたってところかな。あー、逆か。ここに集めて停止措置したのか。どちらにしろ、あの三体はなんらかの要因で目が覚めちゃって、停止させられる前の任務に戻ろうとしたってところかな。いやー、これはこの後の調査が楽しみになってきたね~」
横穴から這い出たアタシに、教授のそんな言葉が降ってきた。
だいぶ暗さに慣れてきた目で周囲を確認する。隠し部屋みたいなモノの割にはかなり広い部屋のようだった。
いったいこの部屋になにがあるのだろうと、ランスのライトが照らす光景に目を移す。
思わず息を呑んだ。
「おい。貧相なケツが邪魔だ。早くどけろ」
反射的に足を後方に突き出したが、セクハラ師匠に事もなげに受け止められる。
「さっさとしろ」
不承不承、解放された足で立ちあがり、横穴から身体をどけた。
「ほう。墓場という雰囲気ではないな。保管庫か」
「そう、それ! 壁はさ、この場所を知られないために作ったのかもしれないね」
穴を出てすぐに立ちあがった師匠の感想に、教授がますますはしゃぐ。
壮観な眺めと言っていいのだろうな。コレは。
ライトが照らす先には、先程アタシ達が対峙したロボットと同じような働きをすると思われる、様々な動物の形をしたロボットが理路整然と並べられていた。




