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白虎の翼  作者: 地辻夜行
3章 星空の落とし物
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69話 時は動きだし、人形に命を吹き込む

 姿は以前画像でみたことのある雌ライオンに似ている。ただその体格は二倍以上で、上顎から地面につきそうなほどの二本の長い牙が見える。

「うわー! あれ、サーベルタイガーじゃない⁉ 本物じゃないよね? バイオかな? あ、でもなんか体表が剥げている所あるね。アンドロイド? いや、人型じゃないからロボットか」

「ロボットだな。我と同じように熱感知を防ぐコーティングがされているようだ。それに箱の影にもう二体いるぞ」

 教授の歓喜の声にランスがすぐに言葉を返し、いつでも対応できるように身構える。その動きに応えるように残り二体が姿を見せる。箱の上のヤツとはまったく姿が違う。一体は八本の足を持つ巨大な蜘蛛、もう一体は六本足の巨大蟻。どの個体もよく見れば、外装が所々剥げ、中の金属製の骨格が覗いている。

「なぜ不意打ちをかけてこない。作業者は皆姿を確認する間もなく、襲われていたのだろう?」

「ああ、そうだね。見た感じかなりこちらを警戒しているようだね。シンさん、わかる?」

「知るか。考えられるとしたら、こっちのお人形さんだろ。自分たちと同じ存在に戸惑っているってところじゃねえか」

 わかってんじゃねえか。

 なんてツッコミを入れる前に、箱の上にいた四本足が跳ぶ。

 コチラで最初に動いたのは、半分空気と化していた山本さんだ。突き出された両手に拳銃が現れ、二丁の拳銃が火を噴く。しかし乾いた音と共にロボットの表面に小さな火花がちっただけで、効いている気配はない。

 赤く光る目を教授にターゲッティングし牙を剥く四本足に、ランスが宙で飛びつき、そのまま一緒になって地面に転がる。

 アンドロイドとロボットがもみ合う派手な音を合図に、残りの二体のロボットもこちらに向かってゆっくりと動き出した。

「一華、お前は教授と琥珀お嬢様を守って後退しろ」

「私は鈴火お嬢様を!」

「アイツら相手じゃ、お前が鈴火に護られんのがオチだ」

 師匠に反抗する意思を見せた山本さんだったが、簡単に言い負かされる。腹いせのようにアタシを睨んできた。

「ソイツだって!」

「コイツは、お前より強い。外も中もな。この間までそこまでじゃなかったが。成長期ってのは恐ろしいな」

 声だけを聞いていると笑っているようで、緊迫感を感じない。本当に焦ったり動揺したりってないのかな、この人。

「いいから早くしろ。鈴火と翼は協力して蟻を。蜘蛛はオレが始末する。わかってると思うが、まともに殴り合うなよ」

 鈴火お嬢様が楽しそうに、胸の前に右拳を左の手のひらに打ちつけ、一歩前に出る。

「あいよ。狙い目は間接だね」

 アタシはすまし顔で鈴火お嬢様に並ぶ。

「私が右側でよろしいでしょうか?」

「アハハ、翼は話が早いね。OK。アタシが左脚」

「翼、無茶しすぎるな。一応怪我明けだぞ。お前は」

 アタシたちの邪魔をしないように後退する琥珀お嬢様が、意外にも心配してくれるが、残念なことにこのあり得ない身体は完治していて、テロの時の怪我の影響は微塵も感じない。

 とにかくアタシは請け負った六本足ロボットの右側の三本の脚に集中する。

 ギシギシと余り状態のよろしくなさそうな音を出しているが、それでも人間を遥かに勝る速度でこちらに迫る。

 アタシも負けじと距離を詰める。こっちだって伊達に人間離れしている訳じゃない。一気に距離が縮まった所でアタシは蹴りを放つ。

 ただし蟻型ロボットに対してじゃない。

 アタシはランスの股間を蹴り上げた女。コイツらの硬さは身をもって確認済みだ。

 アタシが蹴ったのは土がむき出しになっていた地面。アタシの黒の革靴がまるでスコップのように、表面のみを踏み固められた土を抉り取る。

 蟻の右前足が綺麗にその穴に落ちる。他の五本の足で支えているから、身体がこちらから見て若干左前方に傾き動きが鈍った程度。

 それでもアタシたちには充分な隙だ。

「戦闘センスも悪くない」

 鈴火お嬢様がその一瞬の隙を逃さず、笑いながら蟻の左前足と左中足をそれぞれ脇に抱え込み、そのままアタシの方向に、蟻ごと前転するようにして蟻の身体をひっくり返した。

 アタシの目の前に飛んで来た鈴火お嬢様を見てみれば、脇に抱え込んでいる蟻の足が本来の方向とは逆方向に折れ曲がっている。転がりながら折ってみせたらしい。

 見たところかなり老朽化しているようだし、関節は他の部位よりも固くないとはいえ、簡単にへし折れるモノではないだろうに……。見た目通り、パワーはアタシより遥かに上っぽい。

 真下に目を向けるともがくようにギリギリと頭を動かしていた蟻の頭が、アタシに向けられてピタリと止まる。口が開くと、そこからノズルが伸びた。

 背中に悪寒が走る。アタシは咄嗟に足で蟻の顔の向きを強引に変え、そのまま踏みつけた。

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