67話 時は気まぐれに飛鳥を抱く
「さて、いよいよだね。うーんワクワクが止まらないよ!」
二人の男性が見張りについている隕石採掘場の入り口を前で、教授が興奮を抑えられないといった様子で叫ぶ。
「教授も隕石の中に入るのは初めてですか?」
琥珀お嬢様が地図の情報をインストールしたランスに、先頭を歩くように指示してから教授に話しかける。
「もちろん! お峰ちゃんも管理の手配をするだけで、ほとんど入ったことないんじゃないかな。今は採掘と言うよりも、不法採掘をさせないために警護をさせてるだけらしいしね。だから効率の良い採掘場所を調査する必要も、今はとんどないんだって。ああ、でも今の『蒼穹』の隕石は採掘してるはずだね。いろいろと修理が必要なんでしょ?」
「なるほど。修理でもなければ新たに隕石の鉱石を採掘する必要はないということですか」
教授は目をそらし、意味深に笑う。
「そうだね。必要ないのか必要とさせないのかは微妙なところだと思うけど。採掘開始時代からリサイクル技術もしっかりと進めていたみたいだしね」
教授は琥珀お嬢様の肩をポンと叩く
「これを議題にあげちゃうとキリがないから、とりあえず中に入ろうか。お喋りの続きは歩きながらでもできるしね。ランス君、とりあえず主要採掘ポイントの最深部に向かってくれるかな」
ランスはひとつ頷くと、中へと進んでいく。すでに事務所から連絡を受けているらしい見張り達は、渋い顔をしてはいたが、特に咎めることなくアタシたちが中に入るのを見送る。
隕石の中は通常の建物の廊下のように見える。採掘場と聞いていたから、洞窟みたいな風景に木材化なにかで補強しているような風景をイメージしてたんだけど全然違った。
アタシ達の進む足音と教授とお嬢様達の明るい話し声が隕石内に響き渡る。さっそくお喋りの続きを再開させる教授はとっても活き活きしているように見えた。琥珀お嬢様が熱心に聞くものだから嬉しくて仕方ないのだろう。
会話を耳の端で聞きつつ、アタシは師匠と共に集団の最後尾を歩いていた。
「師匠も隕石に入るのは初めてなのですか?」
師匠はアタシを見ることなく口を開く。
「ああ。そもそも隕石内で問題が生じたという話自体初めて聞くしな。教授の話じゃ歴史的に見ても初だろうってさ。お前もタワー外にいた時にそんな話、一度も聞いたことないだろう?」
「ええ。もっとも私の住んでいた街は『蒼穹』の隕石のある場所とは離れていましたし、そんな話があったとしても、情報は流れてこなかったでしょうけど。なにせネットもテレビもありませんからね、タワー外には。アタシがタワー外でテレビを見たのは、後にも先にも幼少の時の一度きりです」
アタシの言葉に、師匠は顎をさすり、考えるような素振りを見せる
「外の世界にテレビ持ち込んだホームレスだったか。その後は会っていないんだったな」
「はい。元々幼少の頃でしたので、場所自体をちゃんと覚えていなくて……」
選抜訓練の時にも少しだけ触れた話だ。師匠には訓練で半殺しされてるのに、なんか色々話しちゃってるな。
「ところで、亀戸様のお兄様とはどこでお会いしたのですか? ……春暁さん経由ですか」
師匠が眉を顰めて、横目でアタシを見おろしてくる。
「あまり勘が良すぎると早死にすっぞ」
「言い寄ってくるのは、男だろうと死だろうと、片っ端から跳ね除けないと、夢も満足に目指せない身の上なので」
負けじと言い返すと、師匠がアタシの頭に手を置いて、少しばかり乱暴に撫でまわす。
「やめてください。髪が乱れます」
アタシの言葉には耳を貸さず、撫で続ける。でも、なんとなく跳ね除ける気にはならなかった。
「俺は無駄に時間を使う趣味はないからな。助けてやらん」
師匠の手がアタシの頭から離れていく。ついその手を目で追ってしまう。
「だが名前ぐらいは使わせてやるさ。これでも顔は広いからな。名前ひとつで事態が好転することもあるだろう」
「……どちらかと言うと、悪化することの方が多いのではと思いますが」
「それは否定せん」
口角を少しだけ持ち上げ、師匠はそのまま黙り込む。
アタシも、もう特に話すこともなかったので、そのまま楽しそうに進んでいくお嬢様達の背中を追う。
そのまま十分くらい歩いただろうか。先頭を歩くランスが前を向いたまま、アタシたちに注意を促してくる。
「そろそろ作業員が、初めて正体不明のモノに襲われたとというポイントだ。気を引き締めてくれ」
少し緩みかけていたアタシの気持ちが、その言葉で瞬時に引き締まった。




