66話 時の残酷さに飛鳥は振り回される
アタシと師匠が入り口のドアを潜った時には、そこから伸びる廊下に、お嬢様たちの姿はすでになかった。
「奥にいった所の左手側に食堂がある。休憩所もかねているから、たぶんそこだろう。さっきも数人入っていってたしな」
アタシに顎でついて来いと示すと、言葉通り奥へと向かう。隕石の中で作業をする人たちが集まる場所のせいか、なんだか少し土臭い。
師匠の言っていた場所には両開きの扉があり、中からは数人の話し声も聞こえてくる。どうやら当たりらしい。
師匠は遠慮なく扉を開き、ズカズカと中に入っていく。
中にはお嬢様がた以外にタンクトップに作業ズボンといういかにも作業員ですといった出で立ちの人が四人、仲良く長テーブルを囲んで座っていた。
「いや、ホントによくわからんのですよ。獣のようだった気もするし、ただの黒い影って感じもする。ただヤバい。それだけは間違いない。入り口は交代で見張っているから、外から入ったとは思えないんですよ。そうすると隕石の中に元々いた生物ってことになる。だとしたらタワー内の方々が近づいちゃいかんです。危険すぎる。ちょっと時間はかかるが、他の隕石採掘場に応援頼んで我々が解決しますんでどうか……」
作業員の代表と思しき人が、テーブルに両手をつけ、教授に深々と頭を下げている。どうやら、調査は諦めてくれと言っているらしい。
ランスと山本さん同様に、座っているお嬢様方の後ろに立って見れば、作業者全員が頭や逞しそうな太い腕に包帯を巻いている。
どうも前線で働く作業員のようだから、四人ともアタシや鈴火お嬢様と同じ、外気反応特異体質のはずだ。腕っぷしには自信があるに違いない。
そんな人たちがもっと人を集めないとどうしようもない事態になっていると感じているようだ。むしろ怯えている気持ちさえも透けて見える。
「うんうん。僕らを心配してくれてるんだね。ありがとう。でも黒曜堂さんからも僕らには従うようにって指示きてるでしょ?」
作業員さんたちは揃って苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ですが、タワー内の方々にもしものことがあったら、アッシら大手を振って外を歩けなくなりますよ。黒曜堂様にはこちらから説明しますし、どうか今回はお引き取り願えんでしょうか」
声音はいまにも泣き出しそうだ。
その声にアタシの胸に苛立ちが募る。
この人たちも、鈴火お嬢様の後方に立っている山本さんも、千本桜家の桃華お嬢様に仕える山田花子さんも、タワー外で生まれ育った人間はみんなこうだ。タワーに住んでいる人間を神かなにかのように思っている。
仕方ないとはわかっていても胸糞が悪い。
アタシも幼少の頃に、アイドルの映像を見て夢を抱いていなかったら、タワーのアイドルを越えるんだと反骨精神を養っていなかったら、きっとこうなっていたんだろうと思うと余計にだ。吐き気さえしてくる。
「昨日も言ったがアンタらが気にすることじゃない。それに証明してみせたはずだな。この人の護衛はアンタらが束になるよりもしっかりしていると」
作業員の皆さんが、また揃って包帯を巻いた箇所を押さえながら師匠を忌々しそうに睨む。って、おい! もしかして、この人たちの怪我、隕石内の騒動での怪我じゃないのかよ。アンタがやったのか!
薄笑いを浮かべてアタシの隣に立つ師匠を、心底侮蔑の気持ちを込めて見やる。
瞬間、師匠がアタシの顔にアイアンクローをきめてきた。
痛い、痛い、痛い!
「今のアンタらがすべきことは、他所の採掘場に助けを求めることじゃない。さっさと地図を用意することだけだ。それとも今度はこっちの男と遊んでみるか。アンドロイドだけどな」
師匠がクイッと親指でランスを指し示すと、作業員さんたちがもはや同一人物による分身の術なんじゃないかと思うくらいの同じタイミングで口をポカンとあける。
アタシはその様子を師匠の指の間から、痛みに耐えながら眺めていた。




