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白虎の翼  作者: 地辻夜行
3章 星空の落とし物
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64話 鬼のかざす腕で猛き鳥は羽休め

 フェリー乗り場の駐車場に停め、船に乗り込んだアタシたちは、全員揃って甲板に立ち、もう目前にせまった隕石採掘場前に作られた街を眺めていた。たぶん師匠はもうあの街にいるのだろう。乗船時に他の乗客は確認したが、師匠の姿は見えなかったからな。

 まあ、再会したところであの人から得られる情報はなにひとつとないと思うけどね。のらりくらりと躱されるのが目に見える。

 それにしても、あの街にはアタシと同じ体質の人がたくさんいるということらしい。みんな男だけど。

 アタシの生まれ育った街は『蒼穹』からそう離れていない所にあるから、隕石の存在も当然知っていたけど、そういう体質の人が中心に雇われているということは知らなかった。

 この体質は遺伝によるものではない。現にアタシの家族にアタシと同じ体質の人はいないし、なにより……。

 アタシの視線が自然に鈴火お嬢様に向いてしまう。

 その鈴火お嬢様がアタシの視線に気づき、クスリと笑うとアタシに歩みよって来た。もちろんその背後には山本さんがいる。

 ちなみに琥珀お嬢様とランスは少し前方で教授とお喋りに興じていた。

「アタシのことが気になるかい」

「……失礼いたしました」

 鈴火お嬢様にというよりは背後の山本さんに向けて謝罪の言葉を発する。この人、アタシに向ける視線が、ホテルからずっと鬼のようだからな。

 怒りの矛を収めそうもない山本さんに、どう誤魔化そうかなと考えていると、鈴火お嬢様が山本さんを振り返る。

「一華、すまんが琥珀たちの所に行っててくれるか。この娘とふたりで話がしたい」

 山本さんは一瞬だけ顔を(しか)めたが、自身の仕えるお嬢様に逆らうという意思はないようで、一礼すると琥珀お嬢様達のもとへと歩いて行く。

 琥珀お嬢様がこちらを見ていた。一度微笑むと、何事もなかったように隕石へと向き直り、教授たちと会話を続ける。

「すまないね。あの娘は幼いころからアタシと一緒にいてくれているから、アタシ最優先になっちゃってるんだよ。可哀想なことにね。何度も自由に生きろとは言ってるんだが、その度に泣きながらそばに居させてくれって言われたら、アタシも突き放せなくてさ」

 鈴火お嬢様が肩を竦めてみせる。

「体質のことお聞きしても?」

「ん? それは体質自体の説明かい? それともどうしてアタシがアンタと同じ体質をしてるかってことかな?」

 言葉が足りなかったか。

「自身の体質に関しましては、し……時田様にお聞きしてからタワーで調べました。後者に関してお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「すまん、すまん。わかってた。いいよ。別に隠しているわけじゃないからね」

 顎をさすりながら逡巡している。どう話すか考えをまとめているようだ。

 やがて転落防止用の柵に背中を預け、空を見上げながら口を開く。バキバキの腹筋が服の上からでも目立つ。

「アタシん()はさ、なんつーか古臭いしきたりみたいのがあってね。後継ぎ以外はタワーから出されんのさ。だからウチに分家は存在しない。それでも死ぬまでの生活費は保証してくれんだけどね」

 身体の向きを替え、アタシに背を向けて海を眺める。

「アタシは親の第一子だったんだ。けど2年後に弟が生まれてね。アタシは使用人の婆さんに預けられる形でタワー外で育った。一華はその婆さんの妹の孫でね。婆さんがアタシが成長しても世話させようと、引き取って一緒に育てたんだよ」

 そこで大きく息を吐く。

「まいっちゃうよな。そんな御大層なモンじゃないっつーの。ああ、ゴメン。話それたね。十四歳の時だよ。見てくれは親父似なんで元からこうなんだけど、その時から見た目以上に強力で丈夫な身体になっちまった」

 そんな自分に戸惑ってる時だったと、鈴火お嬢様が言葉を続ける。

「社長に会ったんだ。今から八年前。あの人が営業でタワー外に出ている時に偶然ね。変な人でさ。特に暴れてみせた訳でもないのに、婆さんと一華にしか教えてなかった、アタシの身体のことにひと目で気づいた。そのままスカウトさ」

「タワー外生まれでなくてもそういう方がいらっしゃるんですね」

 鈴火お嬢様は、親指でクイッと琥珀お嬢様と楽しそうに会話している教授を指し示す。

「これはあの爺さんが言ってたことなんだけど。生まれは関係ないんじゃないかって。この体質はタワー外の環境と人間の成長期が交じり合った時に、極少ない確率で起きる現象じゃないかってさ」

 柵から身を離し、天を仰ぐ。

「なあ、タワー外にあって、タワー内にないものって何だと思う?」

 なんだ、突然。

「……空とか、自然ですか?」

「ああ、うん。それは疑似的だけどタワーにも造られてるだろ。海も山も」

 まあ確かに海も山も、ワンフロア丸々使って再現はしてるな。

 要するに造られてもいないってことか。なんだろう?

「……申し訳ありません。思いつかないです」

「アレさ」

 鈴火お嬢様がすっと琥珀お嬢さまたちを指さす。

 いや違う。その先か。

 船は間もなく、二百年前に地球に緩衝着陸したという隕石に到着するところだった。

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