63話 鼠、飛鳥にのって空を所望
背筋が寒くなり、アタシは教授から顔をそらす。そのアタシの目が鈴火お嬢様の姿を捉える。
外気反応性特異体質。一種の病気みたいなものだ。
ネットで調べた限りでは、タワー外生まれタワー外育ちの、一部の男子に見られる体質。この体質を持つ男性は、通常の人間とは比べものにならない身体能力を発揮するそうだ。ただし生まれながらにこのような性質を見せるわけじゃない。思春期……十三歳から十五歳に発症するものであるらしい。
日本で発症した者のほとんどは、将来を約束される。日本三十六名家の一家『黒曜堂』家によって隕石発掘場の採掘陰として高給で雇われるってのが定番。
これ以外のことは記載されている情報からは読み取れなかった。いやこういう体質を持つ存在がいることさえ知らない人の方が多いんじゃないだろうか。タワーの内も外も。アタシも師匠に教えられるまでは自分の身体になにが起きたのかわからなかったからな。
私の調べた限りでは、これまで女子の中にコレを発症した例は記録されていなかった。
アタシ自身のことも、日ノ本家のメイド選抜訓練中に発症したせいか、記録としてはどこを探しても載っていない。
だからアタシは自分が女子としては初めてで特殊なんだと、異物なんだとそう思っていたのに……。
鈴火お嬢様の年齢は、見た感じ二十代後半といったところだろう。
アタシよりも十年くらい早く存在していた女子の外気反応性特異体質所持者。
タワー外の環境が影響しているのではないかという仮説がたてられているこの体質を持つ人が、なぜ日本三十六名家のお嬢様の中にいるのか、さっぱり理由がわからない。
「ごめん、ごめん。話がそれちゃったね。気を取り直して今日の依頼に関して軽く話しておこうか」
アタシが顔をそむけたことを気にしたのか、教授が一際明るい声で本題にはいる。
「みんなも知っての通り、世界中に建てられた百八の各タワー都市の近郊には、そのタワー都市建造に使われた資源を採掘した、二百年前に緩衝着陸したと言われる隕石が存在している。当然『黄昏』のそばにもあるのだけど、今回はその隕石の採掘場の調査を峰ちゃんに頼まれたって訳さ」
教授はお茶で口を湿らせ話を続ける。
「隕石採掘現場の最前線にいるのは、当然二人と同じ外気反応性特異体質の人。男だけどね。その作業員が得体の知れないモノに襲撃されたって言うんだよ、四人。幸いにも全員命に別状はなかったみたいだけど、かなりの重傷だったらしくてね。最初は過去にそういった事件があったのかっていう問い合わせだったんだよ。でもタワーPCのデータベースにも、寝頭庫の書庫にも似たような案件さえなくてね。これはもう現地調査するしかないと血が騒いじゃってね」
興味を抑えられないといった様子で、座ったまま足をバタバタさせる。
「とはいってもさ、さすがに恐いじゃない。僕は鈴火ちゃんを知ってたからね。特異体質の屈強な男が四人も重傷を負っちゃうような事態だもの。最初は大神家に依頼しようかとも思ったんだけど、大神家の本拠は『銀嶺』だし、タワー外の業務にも積極的じゃないからね。それに大神家じゃ、対人は期待できるけど、得体の知れないモノに対応できるか不安あるでしょ?」
鈴火お嬢様が胸を張ってうなずく。
「それでウチに依頼したって訳だね。時田さんも来るってことは、社長もこの依頼には胸騒ぎがするってことかな」
「そうだね。彼、勘が良いからね。お月さんがやろうとしたことでも、ダメだと感じたらとめる。日ノ本のお嬢様達の同行もOKしたってことは、いろいろと面白いものがあるってことだよね。いやー、楽しみだなぁ」
さも嬉しそうに語った教授が立ちあがる。
「さて、そろそろ行こうか。『黄昏』の隕石採掘場はフェリーに乗る必要があるんだよ。今から向かえば丁度良い時間だろう」
お嬢様方も一度お互いの顔を見てうなずきあうと、お茶をテーブルにおいて立ちあがった。




