62話 鼠が鬼と白虎の間をチョロチョロと
車は街の郊外にある庭付き一軒家へと入っていく。
「さあ、ここが爺さんの仮住まいだ」
山本さんが車を止めると、素早く車を降りて、後部座席の鈴火お嬢様が座っている側のドアを開ける。アタシも足元の荷物を引っ掴んですぐに降りたが、琥珀お嬢様側のドアは、すでに遅れることなくついてきていたランスが開けていた。
「おお、来たね。待ってたよ」
明るく人懐っこそうな声が上から降ってくる。
見てみれば二階の窓から顔をだした、頭の頂点がはげた小柄なお爺さんがブンブンと手を振っていた。アレが本日の依頼人の寝頭庫教授か。
「鍵は開いているから、入ってきて。僕もすぐ下りていくからね」
言いたいことだけを言って、教授が部屋に引っ込む。
「だそうだ。遠慮なく入らせてもらおう」
おそらくあれがいつも通りの教授なのだろう。苦笑した鈴火お嬢様が、先頭を切って家の中へと入っていく。アタシ達もそれに続いた。
中に入ると玄関そばの階段をドタドタと音をたてて、教授が下りてくる。
「いらっしゃーい。妙さーん、居間にお茶六つー!」
アタシ達に挨拶したと思ったら、すぐに奥の方へ向けて声を張り上げる。
「我はお茶は飲まんぞ」
ランスが困ったように言うと、またお爺さんがこちらを向いた。目が子供のように輝き口角が吊り上がる。
「そうか! 君が日ノ本家に下賜されたっていうアンドロイドだね! いいなあ、アンドロイドってタワーAIの管理になっているから、基本的に個人所有できないじゃない。うらやましいなー」
まるで子供のような反応に、鈴火お嬢様が苦笑する。
「爺さん、とりあえず話は中で頼むよ」
「ああ、そうだね。ささ、入って入って」
アタシ達は靴を脱いで家に上がり、教授に居間へと案内される。
居間ではお嬢様方がロングソファーに座り、ソファーを両側から挟むようにアタシと山本さんが、もちろんそれぞれのお嬢様側に立ち、ランスは居間の入り口の横に待機した。
教授は足の短いテーブルを挟んで、ソファーに向かい合わせに置かれていたロッキングチェアに腰を下ろす。
それを待っていたかのように、四十代くらいのメイド服のおばさんがお茶を運んできて軽く挨拶をしてくる。テーブルにお茶を置くとまたすぐに奥へと戻って行った。
「今日は申し訳ありません。呼ばれもしないのにゾロゾロと」
琥珀お嬢様が開口一番、教授に謝罪する。
教授は顔の前でとんでもないとでも言うように手を大きく振った。
「いいの、いいの。峰ちゃんが何人護衛連れてってもいいって言ったんだから」
「峰ちゃん? ああ、黒曜堂の」
「ばあさん、元気? 最近挨拶に行けてないからさ」
鈴火お嬢様の目はどこか懐かしむもののように感じる。
「元気も元気。有り余ってるよ。僕と違って当主なんだから忙しいはずなのに、これっぽっちも疲れてる様子ないね。さすが妖怪体力ばばあだよ」
「女傑として有名ですからね、黒曜堂のご当主は」
そう言えば、琥珀お嬢様と春暁さんが伊邪那岐学園の校長室で話していたときに、黒曜堂は当主が男性でないときもあるみたいなこと言っていた気がする。今がそうだったんだね。
「アタシが外からタワーに戻る時も力を貸してくれたのはあの人だしね。頭があがらないよ」
「どうせなら『セフィロト』に依頼すればって言ったのも峰ちゃんだしね。おかげで、あの有名な日ノ本さんのお嬢さんに会えるは、珍しい上流階級付きのアンドロイドを見れるは、鈴火ちゃん以外の女性の外気反応性特異体質の子に会えるは、よいことづくめさ。さすが妖怪幸運ばばあだよ」
教授がアタシに目を向けてニンマリと笑った。




