61話 鬼は白虎にかく語る
「とりあえず地下の駐車場に行くよ。今日の目的地はタワーの外だからね」
これはちょっと予想外。てっきり『黄昏』の中での仕事だと思っていたのだが。
「琥珀は智水の爺さんのことは知ってるのかい?」
「三十六名家の方でも有名ですからね。お名前と物好きだという噂ぐらいは。ただ実際にお会いしたことはありません」
「うん。まあ寝頭庫家の連中は、全員好奇心の塊みたいなモノだから変なのばっかりだよ。ただあの爺さんはその中でも別格だね。あの爺さんの研究対象は歴史なんだけどさ。熱心に調べてるのがタワー都市建築が始まった200年前の頃。酔狂だよねぇ」
鈴火お嬢様が語りながら、アタシ達について来るように促す。
「ですが、そういった情報は記録されているのではないのですか? いまさらなにを調べるのでしょう?」
アタシが鈴火お嬢様の背中に語りかけると、またお前かといった様子で山本さんが振り返りにらんでくる。もちろん気にしない。
鈴火お嬢様は歩みをとめずに笑う。
「アタシもそう思う。ただ爺さん曰く『データベースに嘘は書かれていないかもしれない。だがそれは事実であっても真実ではない。僕が知りたいのは事実ではない。僕にとっての真実なのだよ』ってことらしい。そんでもって今回は200年前の出来事に関連する現地調査なんだってさ」
琥珀お嬢様がクスリと笑う。
「噂通りの方ですね。でも気持ちはわかる気がします」
それを聞いて鈴火お嬢様は豪快に笑う。
「そりゃお前さんが爺さんと同じ探究者だからだろうな。こっちは目の前の困難をぶち壊すので精一杯さ。翼だったか。アンタもそうだろう?」
「ええ、まあ」
アタシは軽く肯定する。
なんだろう? さっきの「アタシと同じ」発言もあってか、アタシも鈴火お嬢様にはなんだか近いものを感じる。
ホテルを出てエレベーターで地下の駐車場へ来ると、『セフィロト』の持ち物という車に案内される。
「ああそうだ。言い忘れていたが、時田さんも現地で合流するってさ」
運転席には山本さんが乗り、助手席にはアタシ。
後部座席にふたりのお嬢様が載り込んだところで、鈴火お嬢様がそう口にする。ちなみにランスは重量オーバーの為、走ってあとをついてくることになった。
「ほう。教授がお待ちのところに直接ですか」
期待していなかった人物の名前がでて、琥珀お嬢様が興味深そうに言葉を返す。
その間に、山本さんは車をスタートさせタワーから出る。どんよりと曇った空が目に映る。ちらりと再度ミラーに視線を移すと、ランスが涼しい顔で車の後ろについて来ていた。腐ってもアンドロイドだなと感心する。
「いや。さっきも軽く言ったけど、今回、智水の爺さんはフィールドワークに出るんだよ。そのフィールドワーク先。『黄昏』建設用の鉱石を取り出した巨大隕石の中だよ」
「巨大隕石!」
琥珀お嬢様がアタシでもビックリするほどの大声を上げる。鈴火お嬢様は琥珀お嬢様のリアクションが面白かったらしく、また大笑いする。
琥珀お嬢様もさすがに恥ずかしかったのか、顔を赤らめて身体を縮こまらせる。
「す、すいません。でも隕石へは鉱石の発掘作業に携わる者以外、立ち入り禁止ではありませんでしたか? 情報を残さないため、アンドロイドさえも使われていないと聞いていますが」
アタシは視線はフロントガラスの向こうの曇り空に向けたまま、二人の会話に耳を傾ける。
「ああ。黒曜堂家が取り仕切ってるわけだが、鉱石情報も採掘量も極秘とされてるな。これは海外でも同じで、一部の関係者以外には知らされないらしいね」
「それなのに今回は入れるのですか?」
「そういうことだ。それも爺さん一人だけでなく、護衛付きでいいってさ。人数制限がつけられてもいないってことで、ウチに依頼が来たってわけ」
二人の話を聞いているうちにアタシの目には見覚えのある風景が見えてくる。
アタシの生まれ育った街は『蒼穹』近郊だから別物だけど、雰囲気がそっくり。
「おっ。着いたよ。あそこが教授がいま拠点としている街さ」
アタシと車を運転する山本さんの間に、鈴火お嬢様の逞しい腕がにょきっと伸びて、懐かしささえ感じる街を指さした。




