58話 光の先みて白虎の瞳は爛々と
社会見学?
琥珀お嬢様の後ろで、アタシは訝しむ。
だって依頼に関しては、日ノ本家のお嬢様相手であろうが言えないと言ったばかりではないか。なのに仕事を見てみるかと言うのは明らかに矛盾している。
「もちろん、同行した際に見聞きした事柄に関しては、口外しないと、お連れの方も含めてお約束していただいたうえではありますが」
「是非、お願いしたい! 約束もするし、させる。ただ学校が四日後からあるから、できればそれまでに参加できるのなら嬉しいのだが」
副社長の言葉の意図を、まったく疑うことなくお嬢様は即答した。
アタシとしては嫌な予感しかしない。なんかまた厄介ごとに巻き込まれそうなそんな予感がする。
「ウフフ。その点はご心配なく。明日なんですけどね、丁度と言って良いかはわかりませんが、特に秘密裏に行うようなことでもない護衛の仕事が一件ありまして」
「元々『黄昏』に一泊する予定だった。私にとっては渡りに船だが、依頼人は構わないのか」
お嬢様が尋ねると、副社長は苦笑交じりに頷く。
「年配の男性なんですけどね。ちょっと変わった人なんですよ。自分の話を若い人に聞かせるのも大好きでしてね。それが琥珀様のような聡明な方なら、議論を交わしたくて仕方ないでしょう。お名前は琥珀様も御存じだと思います。『寝頭庫智水』歴史教授」
「ああ。名前だけは知っている。学生の時分には、すでに跡目を弟に譲っていたらしいから、パーティー会場などでは会ったことはないが。依頼人は彼か」
「あー、あの人か。俺は何度か会ったことあるな。人付き合いの良い人じゃなかったが、確かに気に入った相手にはずっと喋っていた印象はあるな」
冬児さんも知っているということは、そのお爺さんも三十六名家の人なのだろう。お嬢様がお嬢様だから仕方ないのだが、面倒そうな知り合いが増えるな。
「明日の朝に、今回の護衛任務につくウチの特級と上級の二人を迎えに行かせますから、二人の指示に従ってくださいな。百聞は一見にしかず。ウチの成功した秘訣が掴めるかもしれませんよ。冬児様もご一緒されますか?」
「いやいや。俺は行かないよ。ここに来たのも流れみたいなモノだから。明日は仕事があるし、それにココが引き受ける依頼なんて厄介ごと以外に想像がつかない」
両手を突き出し大きく首を横に振って断っている。まあ、あの師匠が所属する会社の仕事だからな。気持ちはわかる。正直、アタシも遠慮したい。
「うむ。私は了解した。ただできれば、やはり会社立ち上げから、ここまで大きくできた過程の話も聞きたいな」
「素晴らしい! その希望は僕が叶えようじゃないか! 是非、本日のディナーをご一緒に!」
またもや椅子に仁王立ちをかました社長だったが、副社長ににらまれスゴスゴと座り直し書類に判子を押していく。
「まあでも、一緒にお食事というのは良い提案ですわね。ウチの阿呆も喋りたくて仕方ないみたいですし、お嬢様さえよろしければ、十八時にホテルの方にお迎えにあがりますよ。お泊りは日ノ本第一ですよね?」
お嬢様が快く承諾し、アタシたちと『セフィロト』経営陣とのファーストコンタクトは終了した。




