56話 輝きを放つのは太陽か?それとも月か?
セフィロト本社ビルの最上階。
エレベーターから一番離れた廊下の突き当り。他のどの部屋と比べても一際立派な扉。アタシたちは今この扉の前にいる。
この先にあの師匠が一目置いているらしい、セフィロトの社長と副社長が待っているそうだ。ちょっと緊張するな。
もちろん乙顔さんは、気持ちの準備ができるのを待ってくれるわけもなく、すぐに扉をノックする。
「社長、日ノ本琥珀お嬢様をお連れいたしました」
「はいはい。待ってたよぉ。いいよ、いいよ。入ってきて」
ずいぶん軽い調子の男性の声が部屋の中から返ってきた。
苦笑する乙顔さんによって扉が開け放たれる。
アタシの目の前に冗談のような人らしき姿がふたつ。
身長は百四十センチメートルくらいだろうか。
ただ丸い。太っているというより丸いのだ。
とっても艶と張りのある、様々な大きさの風船をくっつけたようなそんな体型。
それがふたり。顔立ちがとても似ているからおそらく双子だと思う。髪型や服装から、執務机の向こうの革張りの黒イスの上に仁王立ちしている方がおっさん、執務机の横で妙な貫禄を放っている方がおばさんであることがわかる。
「ようこそいらしてくださいました。日ノ本琥珀様、風御門冬児様。そしてお連れのおふたかた。私、この『綜合警護会社セフィロト』で副社長を務めております『安生地 月』と申します。どうぞよろしく」
副社長は身長の割には大きく丸い足で、跳ねるようにお嬢様の前まで来るとお嬢様に握手を求める。
お嬢様はそれに応え彼女の手を握るが、驚いたように目を見開くと手をすぐに放し、もう一度改めて手を握る。それを何度も繰り返す。表情がどんどんだらしなく緩んでいく。どうやらかなり心地良かったらしい。
月と名乗った副社長はそういったリアクションに慣れているようで、嫌がる素振りを見せることなくされるがままに身を任せている。
「それとそっちは一応、双子の兄で……」
「ハッハッハ。社長の『安生地太陽』だ。存分に崇めたまえ」
副社長がお嬢様の手が放し、嫌そうに男性の方へ顔を向けると、おっさんが仁王立ちしたまま、丸みを帯びた腕を偉そうに組んでふんぞり返る。
副社長は一足飛びで執務机の横へと立ち戻り、おっさんが仁王立ちしている椅子を蹴り飛ばした。
ポヨンという、およそ人が床に落ちたとは思えない音をたてて、社長が床に這いつくばる。
「い、痛いじゃ―――」
社長が文句を言いきる前に、副社長は彼の丸い顔に、自身の丸い足を容赦なく踏み下ろし口を封じると、こちらを振り返ってにっこりと微笑んだ。
「ミーちゃん。任務明けに迎えに行ってもらって悪かったわね。もういいから、帰ってゆっくり休んでちょうだい。また明後日からお得意様が待ってるからよろしくね」
副社長の労いの言葉に、乙顔さんも笑顔で返す。
「気にしないで、お月さん。おかげで貴重なモノをいくつも見れたから、むしろ役得だったわ。それでは皆さん。私はこれで」
二度と忘れることができないだろう、美しい笑顔をアタシたちの脳裏に刻み込み、乙顔さんは颯爽と社長室を出ていく。
乙顔さんが社長室を出ていくと、副社長に勧められるがまま琥珀お嬢様と冬児さんがソファーに腰を下ろし、その背後にアタシとランスが控える。
「ほら、太陽。いつまでそんな所で転がってるの。ボールじゃないんだからさっさと席に着いて書類仕事を再開なさいな。お嬢様たちのお相手は私がするから」
「ええーっ! 僕もお嬢様とお喋りしたい!」
「黙れ。ごちゃごちゃ抜かすと、顔の一部へこませて二度と転がれないようにすんぞ」
謎の脅し文句に、社長は涙目になりながら椅子に座り、渋々と執務机に積まれている書類の一枚を手に取った。




