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白虎の翼  作者: 地辻夜行
3章 星空の落とし物
55/76

55話 冬の寒さに飛鳥は白虎の尻尾で暖をとる

「いっ、痛いな! いきなり何をするんだ!」

「お嬢様のお気持ちをお考えください」 

 見ろ。琥珀お嬢様がとても嫌そうな顔をしている。

 当然だろう。思いもかけず婚約が破談になったというのに、こんどはその分家の人間から結婚を申し込まれるなど、一難去ってまた一難みたいなものだ。

「ちょっと待って! 誤解です! 違います。違いますよ、琥珀さん。貴女にではありませんよ!」

 お嬢様の顔色に気づいたらしく、慌てた様子で手をブンブンと振っている。

 求婚相手がお嬢様じゃない? 乙顔さんか? どちらにしろ高嶺の花だと思うぞ。

 アタシが半ば同情すると、冬児さんがアタシに向き直った。

「どうだろうか?」

「なにがですか?」

「いや、なにがって。だから俺と結婚してくれないかと」

「誰がですか?」

「君が」

 ……はいぃぃぃぃぃ⁉

 な、なに言ってんの、この人⁉

 なんとか口にだしては叫ばずにすんだけど、なんで三十六名家の人が使用人に求婚してんの? バカ? ひょっとしなくてもバカ?

「ロリコンですか?」

「違うって。俺まだ二十三だから」

「私はまだ十五歳です」

「いますぐにじゃないよ。君が成人しても俺まだ二十代だから。たいした歳の差じゃない」

 黙れ。そういう問題じゃない。

 クソッ。お嬢様の機嫌が一変し、いまはニヤニヤと笑っている。腹立たしい。

「申し訳ございませんが、私には私の目指すべき道がございます。他人様に関わっている暇はございません」

 とりあえず琥珀お嬢様の目前の危機は去ったとはいえ、根本的な解決にはなっていない、お嬢様の将来的な自由を勝ち取らせなくては、アタシの夢のスタートにすらたてないからな。

「ああ、アイドルを目指しているのだろう? 小夜さんから聞いたよ」

 む。いつの間にか小夜と連絡を取り合っているのか。まあ三十六名家同士だからな。交友関係を結ぶことは難しくはないか。少なくともアタシと小夜に交友関係があるよりはごく自然だ。

「それなら俺が手助けできる。こう見えても『黄昏風御門』の後継ぎだからな。『蒼穹』じゃなければいけないわけではないのだろう? 『黄昏』でデビューすればいい。各タワーのアイドルのコラボなんてよくある。小夜さんとも同じステージに立てるし、競い合うなら『全日本ランキング』で競い合えばいい。一タワーのランキングで競い合うより、そちらのほうが、華があっていいだろう。もちろん婚約に関しては君が良いと言うまで公表しないことも約束するよ」

 ほう。

「手伝わせるだけ手伝わせて、私が裏切るとは思わないのですか?」

「あのテロで一緒に行動をさせてもらえば、嫌でも人となりはわかるさ。君は約束を反故にしたりしない」

 まあ、アタシ自身に約束を破るような意思がないのは確かだ。それを言うとお嬢様との約束を蹴って冬児さんと組むこと自体がないのだけれど。

 第一、結婚が前提になっている限り、アタシがこの話を受けることは絶対にない。

 だがしかし!

 アタシはいまだにニヤニヤしているお嬢様に、はっきり見えるように口角を吊り上げてやる。

「そうですね。悪いお話ではないかもしれません」

「ほ、本当かい⁉」

「な、なんだと⁉」

 案の定、これまで余裕ぶった態度をとっていたお嬢様の顔色がかわる。

「待て、翼! お前、私との契約を反故にする気か!」

 お嬢様の発言にアタシは余裕をもって答える。

「契約? 私の記憶では、日ノ本家の長女たる『日ノ本琥珀』お嬢様は、たかだか使用人のひとりと本気で契約を結ぶことはないと記憶しておりますが」

「あ、あれは春暁さんの意識をお前から逸らすためにだな」

 琥珀お嬢様がしどろもどろになりながら言い訳を始めるという、たいへん珍しい光景にアタシはとても満足だ。

 アタシたちのやり取りを見て冬児さんが苦笑する。

「なんだ、そういうことか。いいさ。すぐにいい返事をもらえるとは思っていなかったからな。いまはこちらに、その意思も準備もあるというのを憶えていてくれればいいさ」

 どうやら先程のアタシの言葉が本気ではないとわかったようだ。ただ今のところ諦めてくれる気はないらしい。なんでアタシとの結婚なんて考えたのかはわからないが、実害がない限りは放っておこう。

 冬児さんの態度で、お嬢様も自分がからかわれたことに気づいたようだ。これまた珍しく顔を赤くしている。アタシもようやくお嬢様の扱い方に慣れてきたな。

「翼。あとでおぼえていろ。乙顔、足を止めさせてすまなかったな。茶番は終わりだ。案内を再開してくれ」

「いえ。とても楽しいモノを拝見させていただきました。私が見知っている主従関係とは、かなり違うようなのでたいへん興味深いです。ウフフ、さあこちらです。あと五分もかかりませんよ」

 乙顔さんが柔らかな微笑を浮かべ、再びアタシたちを導く。

 話は終わったろうに、冬児さんもついてくるみたい。まあ、お嬢様が文句を言わないのならアタシは別にかまわないのだが。

 乙顔さんの宣言通り、セフィロトの自社ビルというビルに二分ほどで到着する。

 無駄に長く感じた移動時間だったな。やれやれだ。

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