51話 翼持つ白虎はその尾に馬槍を巻き付けて
「そういうことだ。私は会っていないがセフィロトの時田。事件後、行方不明の犯人グループの三人を除けば姿を確認できていないのはヤツだけだ」
「フフン。つまりグランドマスターは、時田がテロの主犯を逃がしたのではないかと疑っている訳か」
「証拠はないがな。一番早いのは本人に聞くことだ。正直に話すかどうかはともかく、会えばなにかわかることもあるだろう」
「それでマスターにアポを取らせたのだな」
ふたりの会話を聞きながらアタシは大きくため息をつく。
「どうしたマスター。疲れたか?」
お前のせいだと言ってやりたかったが、琥珀お嬢様が正式に自分の護衛役として雇い、ジュピターも認めたとあってはアタシがなにを言っても無駄。
「旭山さんに問題があったとは思えませんが」
アタシはもう何度目になるかわからない不満を琥珀お嬢様にぶつける。
お嬢様はアタシがベリーショートに整えた頭を掻きながら苦笑する。
ノーネクタイのカジュアルスーツ姿で長い足を組む姿はまさに男装の麗人。まだ十五歳でありながら、老若男女問わず歓喜の悲鳴をあげさせること間違いなしだ。
「旭山は優秀だし、私に対しても献身的ではある。ただやはり日ノ本家の護衛だ。父や兄と私を天秤にかければふたりをとる。私には私側に立つモノが必要だからな。そんな折、ジュピターにクビにされた治安維持特化型アンドロイドが、お前を頼って転がりこんできたではないか。これを活かさない手はない。父も旭山を手元に戻せて嬉しそうだったしな。これまでタワー管理AIから、アンドロイドの個人使用を許された者はいないから、日ノ本家の立場の優位性を示すことにもなると考えたのかもしれん」
アタシは腹立たしい想いを胸に、なぜかドヤ顔でふんぞり返っているランスを睨みつける。
コイツ、タチの悪いことにテロ事件が終わった後も、電波妨害装置を手放さなかった。当然連絡がつかないアンドロイドに、ジュピターもタワー護衛隊も治安維持を任せることはできない。新たな治安維持特化型アンドロイドが配備され、ランスの権限も奪われることになった。
自業自得だ。
そのまま他のアンドロイドたちに捕縛されて、スクラップにされちまえば良かったのに!
よりによってふつかで退院したアタシの前に姿を現すとは!
しかもどういう風の吹き回しか、わざわざアタシを迎えに来た琥珀お嬢様と鉢合わせするとは計画的だったとしか思えん。
でも電波妨害装置を使っているから、情報を集めるのは難しかっただろうからたまたまだったんだろうな。ちなみにいまコイツが身体にセットしている電波妨害装置の効果範囲は、コイツの身体を覆う程度でしかない。日ノ本家で用意したモノだ。アタシたちのスマホまで邪魔されては困るからね。
「フッ。私もお前も自身の境遇に抗う者だろう。ジュピターの支配から脱却したいと願うランスが、お前に惹かれたのはある意味、必然と言っていい」
ランスを睨み続けるアタシに諭すように語りかけ、続けて彼に視線を移す。
「ランスよ。翼は化け物並みの回復力だが、怪我明けには違いない。お前には期待しているぞ」
「任せてくれ、グランドマスター。このランス、拾われた恩は忘れん。グランドマスターのこともマスターのことも、身を粉にして守ってみせよう」
ふたりの暑苦しい会話に、ランスをにらむのをやめ、視線を広げた自身の手のひらに落とす。
お嬢様は化け物並みと言ったが、違う。
化け物並みではなく化け物だ。
摩擦で焼けた指先はすでに何事もなかったかのように可憐な美少女の指先に戻っている。手と足の指先を犠牲にし、クッションも敷かれていたとはいえ、27階から15階まで落ちたというのに、それによる怪我はいっさいない。
一番の重症であったはずの左足の銃創も、弾は自然に傷口からはきだされ、今では傷口が完全に塞がっていた。
本当に気持ち悪いよね。
だけど小さなころからこうだったわけじゃない。
十三歳くらいから、なんだか身体が妙に軽く感じるようになって、決定的に自分が強くなったのだと悟ったのは、師匠に殺されかけたときだった。




