45話 鳥のさえずりに朝日が昇る
「待ち構えているな」
一階と二階の間の踊り場に出る直前で、ランスがそう口にする。
それも当然か。すでに三チームとの連絡が取れないことは確認済だろう。これまでのテロリストとは警戒度合いが違うはず。
二階の窓から遊撃隊を出すという手もあるが、あまり時間をかけたくない。
「ランス、他にこの学園に近づいて来る者はいますか?」
アタシが問いかけると、ランスはこれまでと違い、少しばかり悩むような仕草をみせる。
「一人だけ正門の方から近づいて来ているような気がする。かなり慎重に行動しているのか、聞こえる音はごくわずかだ。奴らの仲間にしては、周囲を警戒しすぎかもしれんな」
彼らの味方ではない?
師匠か?
いや、今さら戻って来るような理由があるとは思われない。そもそもまったく物音をたてずに移動しそうだからな、あの人の場合。
「まだ校門近くなら、不確定要素が接近する前に片をつけましょう。ジャスミン、コリアンダー、ラベンダーはこれまで通りランスから15m以内の距離を保った状態で、敵アンナロイドの動きを封じなさい。今回はすでに指示を受けている可能性が高いですからね。ランスはこれまで通り先頭でテロリスト鎮圧、私も貴方に隠れるようにして接敵します。冬児様は援護を」
指示に全員が淀みなく返事をし、すぐさまランスと三機のアンナロイドが踊り場を曲がり一階へと向かう。
校舎に響く銃の乱射音。
やはり今回は相手もしっかりと迎撃態勢を敷いていた。勧告なしでのいきなりの発砲。
だが、当然ランスたちはそんなモノでは止まらない。
比較的破損しやすいと思われる視覚レンズのある眼だけを覆い隠して、突進する。テロリストたちを庇うように、三機のアンナロイドが前にでるが、指示通りジャスミン達がそれぞれの個体に飛びつき、アタシとランスの道を切り拓く。
ランスは先頭でまだ無駄にサブマシンガンを乱射していたテロリストを拳一発で黙らせる。
背後から飛び出した私も、並んで銃を構えていたテロリストの銃口を腕で押し上げ、体格から男と判断し、すぐさま膝で股間に痛烈な一撃を加える。
「う、うわぁぁぁぁ!」
床に転がる6機のアンナロイドと2人のテロリスト。
戻ってこない仲間のことも含め、ちょっと訓練を受けただけの素人では、精神的に耐え切れない事態におちいったのだろう。
残された一人は、悲鳴を上げたかと思うと銃を捨てて逃げ出す。
ちっ、面倒な! 仲間なんて呼ばれたら最悪だ。
冬児さんはまだ踊り場。狙うには角度が悪い。
逃げたテロリストは、すでに玄関の扉を開け外へと飛び出そうとしている。
アタシかランスが追うしかない!
そう思い、股間を抑えてうずくまる男の頭を踏んづけたときだった。
一発の銃声と、先程のテロリストの悲鳴が続けざまに私の耳を打つ。
アタシは、扉の前で足を押さえて悶え苦しんでいる、テロリストの先にいる人物に目を向ける。
黒服の上からでもわかる鍛え上げられた肉体。鋭い眼光の奥にほのかにたゆたう優しげな光。
「飛鳥君か⁉」
「旭山さん⁉」
テロの起きた日の朝、伊邪那岐学園の校門前でわかれた、琥珀お嬢様の専属ボディーガード『旭山則之』さんだった。




