44話 烏合の衆は、猛き鳥に糞を浴びせられ
「止まれ! 抵抗しなければ危害は加えない。こちら中央階段。目標を発見。だがおかしい。三人いる。 ……おい。どうした? 応答しろ!」
中央階段二階から三階に向かう途中の踊り場で、アタシ達と遭遇したテロリスト達が、急に繋がらなくなった無線に動揺している中、ランスを先頭にして階段を駆けおり、彼らとの距離を詰める。
テロリストの内一人が果敢に発砲するが、弾はランスの身体にはじかれ虚しく床に落ちた。
ランスをアンドロイドと認識していなかった彼らが、驚愕の表情を浮かべるがもう遅い。
ランスの身体に隠れるようにして彼らに接近したアタシは、彼らの前に躍り出るなり、ひとりの鳩尾に肘を叩きこみ、相手がくの字になったところで、今度はうなじの辺りに肘を打ちつけて床に這いつくばらせる。
ランスは両手で残りの二人の顔を口を塞ぐような形で掴み、アンナロイドに指示をだせないようにしたうえで、二人の後頭部を床に打ちつける。二人がすぐに動かなくなる。
その間、行動を共にしていたアンナロイドはというと、特に抵抗を示すことなくこちらの行動を見守っている。
ジュピターやランスのような自立型のAIと違い、アンナロイド達は受動型AI。
外部から指示を受けることで、初めて思考し行動するタイプ。
おそらくついて来い以外の命令を、事前に受けていなかったのだろう。
「ランス、アンナロイドに命令権所有者との連絡が取れないことを確認し、貴方の指揮下においてください」
妨害電波で遠隔の指示を防いでいる今なら、元々アンナロイドよりも上位個体であるランスなら、命令権を奪えるだろう。
「イエス・サー!」
ランスがアンナロイドの対話を始めた中、冬児さんが燃やさなかったカーテンを片手に階段を下りて来る。
「猿轡とかに使えるだろ?」
拘束か……。じっとしている訳にいかないことを考えると、止めを刺した方が良いと思う。
でも将来を考えると、できるだけ手を汚すのは控えた方がいいか。
「ありがとうございます」
カーテンを受け取ったアタシは、背中の鞄から果物ナイフを取り出して、カーテンを手ごろなサイズにカットしていく。
冬児さんにも手伝ってもらって意識を失くしている3人を速やかに拘束し猿轡もかませる。
「マスター、右側のチームが間もなく到着する。左側はどうやら消火を試みているようだ。これなら、ここで待ち伏せても合流前にやれる。戦力が増えたからな。このアンナロイドも指揮権はマスターに譲渡したぞ」
「承知しました。名前を」
「ジャスミンと申します」
アタシの問いにアンナロイドが淀みなく答える。
「ジャスミンは必ずランスの十五メートル以内の範囲で行動しなさい。その上でこれから現れる集団の内、人間の命を奪わずに口を封じなさい。実力行使は許可します」
「ジャスミン、了解しました」
アタシ達は今度は先程とは逆に階段を駆け上がった。
上がりきったところで、廊下の右側から移動してきたチームと鉢合わせする。
今度は味方アンドロイドが2機。
ここのテロリストメンバーに対しても、アンナロイドに指示をだす間を与えずに、容易く制圧に成功した。
さらには廊下左側のチームも、消火終了後に、のこのこと中央へと移動してきたので、これも難なく制圧する。
「マスター、順調だな!」
周囲に三機のアンナロイドを侍らせ、ランスはご満悦だ。
はっきり言って順調すぎる。
運が良いと言ってしまえばそれまでだが、この程度の相手にあのジュピターが侵入を阻まれていたとは思えない。
「ジャスミン。先程まであなた方の最高命令権を保有していたのは、風御門春暁様ですね?」
「いいえ。シークレットネーム『ムラサメ』様です」
ああ。そう言えばそう名乗っていたんだっけ。
「あなた方に、ここに来るように指示したのもムラサメですか?」
「いいえ。アンナロイド単機で行動している機体以外は、随従するよう指示された方の指示に従うよう、ムラサメ様より命令を受けておりました」
「彼らは、ムラサメからここに来るように指示を受けたのですか?」
「事前の会話より推測いたしました結果、ムラサメ様との連絡がつかず、独断での行動と思われます。 当学校玄関前で合流された方々との合議の末、私どもが熱感知で感知いたしました、2体の生命体の確認及び捕獲をおこなうと決定されました。我々アンナロイド6機は、それぞれ随従を指示された方々の指揮下に入るよう指示を受け、現在にいたります」
やはり予測通り。
事前に随従以外の指示を受けていなかったから、テロリスト達がアタシ達に鎮圧されるのをそれぞれ黙って見守っていてくれたというわけだ。
それにしても、春暁さんと連絡がつかないとはどういうことだろう?
さすがにあの巨大照明が落下した音は、伊邪那岐学園にも届いているはず。
リーダーである春暁さんが、確認するよう指示をださないのはおかしい。
妨害電波装置の有効範囲は半径十五メートル。
学校に来る前の彼らの通信を妨害することはできていないはずだ。
師匠がなにかしでかすにしても早すぎるし……。
アタシの知らない所で、なにかが起きている?
そんな不安めいた予感が、アタシの胸の中を埋め尽くした。




