43話 猛き鳥は馬槍を烏合の衆に向け嘲笑う
中央階段で最上階の三階まであがったアタシたちは、真っ直ぐに階段正面の教室にはいる。
「マスター、来たぞ。見える範囲では、先程言った通りテロリストが十二名。アンナロイドが六機だ。隊列は組んでいないな。バラバラだ。いや、いま集合し始めたか。だが動きが悪い。情報ではある程度の訓練を受けているということだったが……」
窓から校門の様子を確認していたランスが、不審そうに私に報告する。
気にはなるが、原因を探るだけの余裕はこちらにはない。
統率がとれていないという事であれば、それにつけこむまで。
「ランス、着火できるような装備はありますか?」
ランスは無言で人差し指を上に向けて、右手を差し出してくる。
人差し指の先端が割れたかと思うと、ランプのような火が灯った。
「よろしい。急いで各教室のカーテンを剥いで、各階段前で燃やして下さい。まずこの教室のカーテンを剥ぎとって中央階段前に置き、貴方は右奥の階段前、私は左奥の階段前でカーテンを燃やす」
アタシの指示にランスがニヤリと笑って頷く。
「我も熱感知が惑わされることになるが構わんな?」
「集音感知に切り替えて中央階段に集合しなさい。そこでここのカーテンを燃やします」
「イエス・サー!」
敬礼をしたランスが、あっという間にカーテンを剥ぎとると、楽しそうに教室から出ていく。
本当に楽しんでいるのだろう。
治安維持担当だもの。お行儀の良い人だらけのタワー内では、ほとんど出番がなかっただろうからな。ちょっとしたことならアンナロイドで解決できてしまうし。
要するに、これまで退屈していたわけだ。
時間を無駄にはできないので、アタシもすぐに教室を出て、中央階段前にカーテンが置かれているのを確認すると、ランスとは反対方向に向かう。
「最終的に中央階段に集合するのか? 相手が分散してきたら挟撃されないか?」
アタシにくっついて来た冬児さんが、当然の疑問を口にしたので、アタシは足は止めずに、口早に説明する。
「相手はこちらを逃がさないように、間違いなく分散してくるでしょう。連絡も取り合えると思っているでしょうしね。アンナロイドもランス同様、熱感知で私と冬児様の二人のことは把握しています。各階段と出入り口である玄関。均等に四組に分かれたとしても、彼らの数的有利は揺るぎません。発見と包囲に全力を傾けるでしょう」
一番端の教室に入り、窓に設置されているカーテンを、力任せにすべて剥ぎとり、廊下の左端の階段前に運ぶ。
「集団から真っ先に離れるのは、中央階段を登るチームです。私達はランスの持つ電波妨害装置で他のチームへの連絡を遮断したうえで、まずそのチームを速やかに潰します。その後は状況次第です」
背負っているバッグから食用油と携帯用ガスコンロを取り出し、カーテンを燃やす。
廊下の反対側からも火の手が上がり、ランスが中央階段に向かってきている。
「そんなに上手くいくか? 階段をあがるタイミングを合せるかもしれないだろ?」
中央階段側に移動しながら、わかりきったことを言ってきた。
「最初から不利な状況です。ある程度の賭けはしなければなりません。私は誰かさんとは違い、これ以上のことは思いつきませんので」
先に中央階段前に到着したランスが、カーテンを燃やし始める。
「文句は捕まるなり死ぬなりしてからでお願いいたします。冬児様は中継器をここに設置する準備を。
私達が離れた後なら、この辺り一帯の支配権をジュピターが取り戻そうと関係ないので」
「わ、わかった」
冬児さんは、不安そうな様子を見せながらもこちらの指示に従う。
「マスター、十八個体分の足音が玄関から侵入してくるのを確認した。足音の違いから、その内玄関に待機したと思われるのがアンナロイド3機、テロリスト3名。各階段にアンナロイド1機とテロリスト3名ずつと均等に別れたと判断できる」
カーテンへの着火を終えたランスが、アタシの横に並んで報告してくる。
「素人ですね」
「まったくだな」
ランスがすぐに同意を示した。
中継器を床に設置している冬児さんに、未来のトップアイドルの笑顔を向けてあげる。
「良かったですね。勝ち目が見えてきましたよ」




