42話 猛き鳥は、北風に背中を押され舞上がる
「マスター、とりあえずこの場を離れることを提案する。熱感知が十二名の接近を捉えた。テロリストだろうが、これとは別にアンナロイドも複数機いるとみて間違いない。我らは熱感知にはかからぬようコーティングが施されているからな。アンナロイドは我とは違い、自立行動型のAIではない。妨害電波を使えば、遠隔操作を阻害し、行動不能に追い込むことができよう。もっとも直接指示をだせる者がそばにいては、意味がないがな」
ランスが私の呼び名を突然マスターに切り替えている。
まぁいいか。困るものでもないし。
「わかりました。まずは校舎内に入り、敵を分断して各個撃破を行います。そこの中継器の袋を回収してください。余計な警戒をされても面倒ですから」
「向かわないのか、学園に?」
冬児さんが不思議そうに声をあげるが、説明の時間が惜しいので、アタシと中継器の入った袋を持ったランスは移動を開始する。
置いて行かれてはたまらないと、冬児さんも慌ててついて来た。
「正面から突っ込みたければどうぞ。妨害電波を使っても、アンナロイドも熱感知はできるみたいですから、一度切り抜けても追ってきてくれますよ」
共同戦線の継続は構わないが、面倒を見てあげるつもりはない。ついてこないなら、冬児さんとの関係はそこまでだ。
「いや違うんだ。君はほら、日ノ本家のお嬢様の救出が目的だろ? 戦闘をさけてこっそりと移動するものだと思ってたから」
伊邪那岐学園とは違い、単純な一文字型の校舎内に入りこんだ私たちの足早な歩調に合わせ、冬児さんが言い訳するように意見を述べる。
「詳しい話は省きますが、琥珀お嬢様は人質として監禁されている訳ではありません。テロリスト……春暁様と行動を共にしている可能性が高いのです。下手をすれば、琥珀お嬢様自身の抵抗も考えられます。
私がすることは救出ではなく強奪です。敵本拠地に戦力を集中されても面倒なので、ここでできる限り敵の数を減らします」
「そ、そうなのか? 良くわからんが、戦闘になるということだな。……よし、わかった」
青ざめた顔でそんな事を言う。熱くないのに汗もかいている。緊張しているのか?
ああ、そういうことか。わかった。
冬児さんは、おそらく戦闘訓練を受けたことはあっても実戦経験はないな。
もっとも、アタシも師匠と殺し合いをしたことがあるだけで、ほぼないに等しいけど。
ジュピターの懸念は当たっていたことか。
冬児さんに春暁さんほどの器量はなさそうだ。度胸に関しては、琥珀お嬢様の十分の一もないだろう。
それでもここまで来たのは、名家三十六家のひとつに名を連ねている者の矜持というやつかもしれない。身内の恥は身内でそそぐ。面倒くさい考え方だ。
「ご無理はされなくて結構です。戦闘に参加されなくても、ついて来るのを拒んだりはいたしませんので」
邪魔さえしなければそれでいい。
「いや、そんな訳にいかないだろう! 君が、並みの少女じゃないのはわかった。それでも女の子を闘わせて、後ろでのほほんとはしてられない!」
へぇ~。アタシがランスを担ぎあげるのを見ても、女の子扱いはするんだ。
三つある階段の内、玄関の目の前にある中央階段で最上階を目指しつつ、横で一緒に駆け上がる冬児さんの横顔を盗み見る。
顔つきがそれなりに凛々しい。どうやら嘘や冗談ではなさそう。
少しだけ見直した。
『美』が抜けていたのは気に食わないがな!
「わかりました。ですが私の前には立たないでくださいね。私は師匠とは違いますので、誰かを避けながら敵を攻撃するなんて器用なマネはできません。まとめて薙ぎ払います」
「き、気をつける」
アタシが力強く宣言すると、凛々しかった顔が一瞬で引きつった。




