40話 飛ぶ鳥、遂に大空に飛び下りる
アタシ達は通路から大きく外れ、配線が網の目のように張り巡らされている箇所を慎重に歩く。
やがてたどり着いたのは、二十八階のギミック太陽である、巨大照明のひとつの真上。
「ご存知かとは思いますが、各フロアのギミック太陽は、点灯させる巨大照明を変更することで、陽の傾きを表現しております。こちらの照明は午後2時のギミック太陽です」
ジュピターが淡々と説明を続ける。
「相手に侵入を知らせることにはなってしまいますが、この照明を落下させます。その後、皆様にロープを用いて公立第六中学校運動場に降下していただきます」
「伊邪那岐学園との距離は?」
あまり土地勘のない冬児さんが質問する。
「直線距離にして一・七キロメートル。南西の方角となります」
「落下させるのはかまいませんが、落下範囲に人はいないのでしょうね?」
「あらゆる妨害作用が働いていますので、絶対とは言いきれません。ですが、この照明の位置は、テロリストが本部として使用している伊邪那岐学園、エスカレーター等の進入路、先程侵入に失敗した通気ダクトなどから程良く離れた位置にあるので、人を配置する場所としては不適切です。それは同時に、敵が駆けつけるのに時間がかかるということでもあります」
亀ちゃんの心配に、ジュピターは疑問の余地を残しつつ、これ以上の選択はないという意味合いを含めて回答する。
アタシとしては、この真下に琥珀お嬢様がいないことを祈るしかない。
ただ、テロリストの味方に加えられたとはいえ、信用されきっていないと思われるお嬢様が、春暁さんの目の届かない所に配置されるとは考えにくい。おそらくは大丈夫だろう。
アタシは善人じゃないからね。他の人のことはいないことを祈るだけ。いたらごめんなさいだ。
「これ以上の時間の浪費をしたくありません。落下作業を開始します」
中継器を突っ込んで若干重量を増したバッグを背負い、電波妨害装置のバッグを肩に掛け、巨大照明の傘の部分から下りる。
全員が巨大照明の傘から下りると、アンナロイドの一体が、このフロアの狭間の空間の天井部にある鉄骨部分に移動し、照明を吊り下げている超極太のワイヤーに触れた。周囲に目を向けてみると、すでに何本かのワイヤーが傘の上に打ち捨てられている。おそらくあれが最後の一本。
アンナロイドのふれた箇所から、金属同士が擦れる音とともに火花が飛び散る。
音が止むと同時に床に巨大な穴が生じ、少しして、凄まじいまでの衝撃音がアタシたちの耳を打つ。
間髪入れずに、ワイヤーを切ったのとは別のアンナロイドがロープを投下し、その先端をしっかりと握る。
アタシもアンナロイドの無駄のない動きに負けじと、素早くジュピターが支配するランスの背後にまわった。
「急いで降下を開始してください」
ジュピターが言葉を発する前に、師匠はすでに穴に飛び込んでいて、宙でロープを掴むと、スルスルと降下していく。
冬児さんはロープを持つアンナロイドの隣で穴の下を覗き込み、ごくりと唾を飲みこんでいる。
アタシはと言えば、後ろからランスの身体を持ち上げているところだった。
治安維持特化型だからだろうか、アンナロイドより若干重い。
「なにをされるのですか?」
冷静な声が上から降ってくる。
「気にしないでください。ちょっとした意趣返しです」
穴にランスの身体を穴に向かってぶん投げると、まだためらっている冬児さんを押しのけ、降下を開始した。




