32話 人形は操り手を待ち望み
「無茶ばっかりしてるんだね」
「タワーの外で生まれ育った者が、タワーの中で生きようとするなら、無理や無茶をしない訳にはいきません。 それでも無謀はさけています。能力だけを考慮するなら、二十八階に残ってゲリラ戦をすることができなかったわけではありません。ですがアンナロイドで物量に任せられては、分が悪いのはいなめませんので」
アタシは二十九階への下りエスカレーターに身を任せ、アタシの腕にしがみついている小夜に、別れてからの三年間のことを、ざっくりと説明している。三十階でエスカレーターの警備に当たっていたタワー護衛隊の人達は、総勢10名になったこの大所帯をすんなりと通してくれた。
むしろ小夜が「お勤めご苦労様です。歌柳院小夜、スタッフ共々、皆様を慰安しに参りました!」と声をかけると、全員揃ってだらしない顔になった。
「皆さんもお疲れ様です」と、なんのチェックもせずに労ってくれさえしたのには、警備体制これでいいのかと不安になったけどね。
「えへへ。でも、あの時の約束憶えていてくれてすごく嬉しい」
言いながらアタシの腕に頬をスリスリしてくる。
……クソッ、可愛いな!
なんなんだ、このいたいけな小動物は。
アタシはあえてそっぽを向き自分にも言い聞かせるように宣言する。
「あの時にも言いましたが、あくまでも自分の為です。それに貴女の横に並び立つのは、夢の過程でしかありません。いずれきっちりと抜かしていくので、そのおつもりで」
「うん♪ 待ってる♪」
ダメだ。完全に都合の良い受け取りかたをしている。
「本当にただのメイドなのか、あのお嬢ちゃんは? 顔の広さと度胸がただ者じゃない気がするんだが」
「ボク、歌柳院様と何度か一緒に仕事させてもらったことあるけど、あんなにリラックスしてる歌柳院様見るの初めてだよ」
「まぁ物怖じするような奴じゃないからな。たいていのヤツとは打ちとけんだろ」
「日ノ本さんのメイドさんですからね。あれくらいでないと務まらないと思います」
後ろが好きたい放題言っているが、無視だ、無視。
勝負はこれからなんだから。
ここまでは運にも恵まれて順調にこれた。
でも、この先は難しい。
二十八階へのエスカレーターは、おそらく下層と同じようにシャッターが下ろされているだろうし、見張りもいるに違いない。
ダクトは危険な香りがありすぎるし、配線配管のある空間を経由するとしても高さの問題がある。
しかし、いまだテロリストの要望も、事件解決への進展も見せていないなんて、ちょっと静かすぎやしない?
ジュピターはいまどうしているんだろう?
勇樹君は楽勝のようなことを言っていたが、あれからもう結構な時間が経っている。
手間取っているのか、失敗したのか。
「突破口はやはりジュピターだと思うんですよね」
「え?」
アタシの心を読んでいたかのような亀ちゃんの言葉に、アタシは思わず振り返る。
「あ、すいません。背中が、なんとなく焦っていらっしゃる気がしたので」
頭を掻きながら照れくさそうに言う。
「テロリストにいっぱい喰わされていることも含めて、今回のジュピターの行動には疑問符がいくつもあります。ダクトで落されたことは腹立たしいとは思いますが、飛鳥さんの目的を達するうえで、本当にジュピターと協力することは不可能かどうか、もう一度検討してみるべきだと思うんです。いえ、もしかしたら彼の方は、それを検討し始めているのかもしれませんよ?」
亀ちゃんがアタシの前、この下りエスカレーターの終わりである二十九階を指さす。
そこにはアンナロイドが二機、アタシ達の到着をじっと待っていた。




