29話 鳥のさえずりは風に乗り
驚いたことに、機体を操縦していたのは冬児さん本人。
春暁さんと親戚と言われれば、確かに納得できるだけの面影はある。ただ無精髭の分だけ、春暁さんより年上に見える。
冬児さんの指定で、アタシは彼の隣の助手席に、皆はそのまま後部の座席につく。
機体が着陸した時と同様に静かに離陸する。
「まともに戦えそうなのが、ひとりしかいないように見えるが?」
「ふたりですね。貴方の横にいます」
おもむろに問いかけてきた冬児さんに、アタシは間髪入れずに答え返す。
冬児さんが、横目でギョロっとにらんできた。
「冗談はよせ」
「試してみますか。貴方を再起不能にしたとしても、飛ばせますので」
冬児さんの目に不信感が露わになる。いまさら上に連れてってもらえないのも面倒だな。
本当に奪っちゃうか。
「あー、分家のニィちゃん。アンタとは一度、『黄昏』で親父さんと一緒に会っているんだが、覚えてないか?」
スピーカーから流れてきた師匠の声に、冬児さんは後部座席を映しているモニターに目を向ける。
「まさか時田さんか⁉ セフィロトの⁉」
モニターの中の師匠がニヤリと笑う。相変わらず笑い方がいやらしいな。
「憶えていてくれてなによりだ。話は変わるが、そこのお嬢ちゃんは歳こそまだ15だが、俺の教え子でな。自分の目的に必要と感じれば殺しもいとわんヤツだ。かく言う俺も、あと一歩でやられるところだった。少なくともいまの抵抗できない状態で敵に回すのは得策じゃないな」
ちっ。まだ根に持ってた。その後ボコボコにしてきたくせに。
冬児さんはまだ訝しげだったが、とりあえずは納得することにしたようで、ひとつうなずく。
「わかりました。横の二人はサポートですか?」
「ああ」
「師匠!」
真雪さんが文句を言おうとするが、師匠がすぐに言葉をかぶせる。
「お前はダメだ。これは格闘技の大会じゃない。基本は潜入任務だが、場合に寄っちゃ人を殺す必要がある。お前にゃ無理だ。そもそもお前、民間人だしな。大人しくサポートにまわれ」
「は~い」
不貞腐れた声ではあったが、素直に折れた。
自分でも非情になりきれない性格であるとわかっているのだろう。
それでいい。汚れなくても輝ける人は汚れなくていい。
「それでは、サポート役が2名、潜入を実行するのが3名で良いですね」
やっぱりそうくるか。
「やはり一緒にお越しになるんですね」
「驚かないんだな」
「上着の下が不自然に膨らんでます。武装されているのが一目瞭然です。操縦されている姿も、訓練を受けている者のソレです」
「なるほど。時田さんの教え子というのはダテではないということか」
ようやく、冬児さんの目にこちらを認める様な色がさした。
「こっちとしても、本家の坊ちゃんの暴走をほっとくわけにはいかないんでね。だが一人では、さすがにどうしようもなかった。君と同じさ」
「わかりました。とりあえず潜入までは共闘でお願いします」
「そうしてくれると助かるよ」
アタシ達の同盟が成立したのを祝うように、アタシ達の乗ったVTOL機が、遂に『蒼穹』の屋上エアポートに到着する。エレベーターより快適だった。
二十八階までの道のりは、まだ課題が山積みだが、とりあえず同行者をまた一人増やし、スタート地点に立つ。
ここからだ。
アタシは必ず、琥珀お嬢様を引っぱたく!




