27話 衢地(くち)には則(すなわ)ち交わりを合わす
「ちょっと待ってください! 風御門家に協力を頼むなんて、できるわけないじゃないですか!」
「連絡先が登録されていないのですか?」
「い、いえ。執事長に、琥珀お嬢様がいつご挨拶に行く気になってもいいように登録しておけと言われていたので……」
「うん。それなら問題ありませんね」
いや、大ありだろう。相手は首謀者の家だぞ。協力するわけがない!
「孫子曰く『衢地には則ち交わりを合わす』」
亀ちゃんが例の孫子トークを始めると、真雪さんがおずおずと手をあげる。
「ご、ごめん。意味わかんない」
正直に言うとアタシもだ。
特に気分を悪くした様子もなく彼は続ける。
「衢地とは、いろんな勢力が介入しやすい場所と理解していただければ結構です」
「二十八階が、いまはそうだということか?」
「はい。主な勢力としては、テロリスト、ジュピター、千本桜家が中心となる上流階級、そして僕達です。タワー管理部隊なんかは上流階級勢力と考えて良いと思います。僕たちはいま単独では何もできません。別の勢力と手を組む必要があります」
「それはわかります。ですが、テロリストの首謀者は風御門家の方なのですよ。琥珀お嬢様強……救出に力を貸してくれるとは思えません」
「え? テロリストに上流階級の人がいるの? なんで?」
真雪さんが驚きの声をあげる。そう言えば説明してなかったな。
「人間の平等と自由の為だそうですよ」
「意味わかんない」
アタシの言葉に、彼女は首をかしげる。
その気持ちには激しく同意だ。
「とにかくです。テロリストはもちろんですが、飛鳥さんのお話しを聞いた限り、現状ではジュピターと手を組むのも難しそうです。となれば、残りは上流階級。孫子曰く『上兵は謀を伐つ。其の次は交わりを伐つ』。一番良いのは相手の意図、考えを潰すことですが、上流階級の武力制圧をとめる術は僕らにはない。ならば、決して一枚岩ではない上流階級のどれかを、僕ら側に引きこみ協力させることが必要です」
パチパチパチと師匠が楽しそうに拍手する。
「なるほど。言いたいことはわかった。確かに坊主は賢いな。だが実際に、風御門家をこちら側に取りこむことはできるのか?」
亀ちゃんが、また真剣な眼差しを眼鏡越しに、アタシに向ける。
だからそれはやめい!
無駄にドキドキする!
「可能性は充分にあると思います。でも実際に説得できるかどうかは交渉次第でしょう。同じような立場の方でもない限り、当主の方を交渉の舞台に引っ張りだすこと自体がたいへんですから」
亀ちゃんが天井を見上げる。その目は二十八階を見ているのだろうか。
「予測ではありますが、今回のテロは春暁さん個人の行動であって、風御門家自体は関わっていないと思います」
師匠がすぐに相づちをうつ。
「まぁそうだろうな。タワーの恩恵を一番に受けている上流階級の、名家三十六家のひとつが、自分たちの存在をひっくり返しかねない主張をするわけがない。あくまでも個人だろう」
「ええ。そしていま風御門家は追い込まれています。春暁さんが首謀者かどうかはともかく、テロに関与していると千本桜家に糾弾されて。もっとも証拠がない状況ではありますが、ご長男の思想に当主の方がまったく気がついていなかったとも思えません」
「心当たりがある以上、表沙汰にしないという条件を出されれば、言いなりになってうごくしかないか」
今度は黙って頷く。
「人質の中には、次男とはいえ皇家の方と、婚約を結ぶ予定だった日ノ本家の長女までがいる。千本桜家から情報が伝わっていれば、強制的に尻拭いさせられるでしょう。ですが突入しても春暁さんがいなければ、まだごまかしがきく。風御門としては正規の部隊が突入し、本人の身柄を確保されてしまう前に、私兵を送ってなんとかしたいところでしょう。ですが他の家の監視が強くて動けないと思います」
「しかも風御門が強いのは医療系だしな。こういったことへの対応は弱い」
ようやくアタシにもわかった。亀ちゃんが何を言いたいのか。
「つまり、私が風御門家の私兵を務めればよいのですね。本人が声明を出したり、正規の部隊が春暁さんを目撃する前に、春暁さんを琥珀お嬢様ごとテロリストから強奪しろと」
アタシの物言いに、彼が苦笑しつつうなずいた。




