25話 鳥が突き割る亀の甲羅は、吉兆か凶兆か
「胸に響くって……まさか怪我したんですか⁉ まだ、別れてから2時間くらいしか経っていないのに、いったいどんな無茶したんですか!」
どうしたんだ? 亀ちゃんのヤツ、いつからこんなツッコミをいれる性格に?
アタシの知ってる亀ちゃんなら「わ~、たいへんそうですねぇ~」とか「孫子曰く『戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり』。戦うことを考えちゃいけませんよ」とか言いそうなんだけど?
それに、伊邪那岐学園にいる時までは、状況を楽しんでいる気配すらあったのに、ずいぶん慌てているようにも感じる。
亀ちゃんの方にもなにかあったのだろうか?
まぁいいや。緊急時の知恵という一点に関して言えば、亀ちゃんは頼りになる。いまは頼らせてもらおう。
桃華お嬢様に頼ることも考えたけど、いろいろ背負っている物が多すぎるし、立場上、正攻法をとらない訳にもいかないだろうから、搦め手希望のいまのアタシにはそぐわない。
「ですから大きな声を出さないでください」
文句を言いつつ、師匠たちにも会話を聞かせる為にスピーカーに切り替える。
「ご、ごめんなさい!」
本当に様子が変だ。
「事情を説明いたしますので、お知恵をお貸しいただきたいのです」
アタシは亀ちゃんの返事を待たず、一方的に勇樹君とジュピターのこと、師匠と真雪さんとの遭遇、アタシの希望を簡潔にまくしたてる。
電話の向こうで、亀ちゃんが盛大にため息をつくのが聞こえてきた。
「わかりました。ホント飛鳥さんは、ほっといたら無茶をしますよね。いまは何階ですか?」
アタシは答えをもらおうと師匠の顔を見る。
「15階だよ」
真雪さんがすぐに答えてくれた。
「聞こえました。それでは1階のタワー出入り口ゲート前で合流しましょう」
「なんとかなるのですか?」
「二十七階から上に行く手段は、もう時間がかかるのと目立つのとしか残っていないと思います。だったら、二十九階から下に行くしかありません。ただ、ジュピターが積極的に動き出したというのなら、どんな選択をとるとしても、時間の猶予はないのかもしれませんが」
「とりあえずは、できるだけ早くで構いません。ですが、いまはエレベーターは使えないのでは?」
「二十八階に停まることと、通過することはできないみたいですね。ですが、それ以外の区間は使えるようです。ですから下層から二十九階に行くには、いったんタワーの外から屋上へと向かい、屋上から下層に向かうエレベーターに乗るしかありません。飛鳥さんは、琥珀さんと関わりあいのある方の電話番号などは、ご存知なんですよね?」
「ええまあ。でもタワーの外からどうやって屋上へ?」
「詳しいことは合流してからにしましょう。時間がおしいし、無事な姿を見ないと安心できません」
そう言って一方的に通話を切ってきた。
よくわからないが、協力はしてくれるようだ。
「外から屋上にか。だとしたら上流階級が所有しているヘリを使うしかないと思うがな。でも日ノ本家の力は借りられないんだろ?」
「お嬢様が切り捨てられる可能性がでてきますので」
「上流階級の人達って、本当に面倒臭いね」
真雪さんが露骨に顔をしかめる。アイドルで美人。言い寄ってくる上流階級の坊ちゃんやおっさんは多いんだろうなぁ。
「とにかく移動しましょう。会えば説明してくれるでしょうから」
「ふむ。なかなか面白そうな奴だな。はてさて、どうやって二十八階まで連れてってくれるのかな?」
「わかりませんが、きっと孫子さんがなんとかしてくれますよ」
師匠と真雪さんが怪訝そうな表情を見せる中、アタシは呼吸を整え立ち上がった。




