24話 時は無情に、鳥が羽ばたけるかを値踏みする
アタシと真雪さんが、お互いに驚いた顔を見合わせる。
「翼じゃねぇか。日ノ本家のメイドになったお前がなぜここにいる? 格好を見るに、クビになったわけじゃなさそうだが」
横になったままのアタシに代わり、真雪さんが口を開く。
「このメイドさん、上から降ってきたんですよ。それより師匠、この娘知ってるんですか?」
「ああ。ちょっと前に日ノ本家のメイド選抜訓練があってな。そこの戦闘技術講師として呼ばれたんだが、こいつはその時の生徒さ」
「いっ、いまのメイドって戦闘技術いるんですか⁉」
「俺も初めて聞いたさ。なんでも専属になる予定のお嬢様が、戦闘技術も科目に加えるよう希望したんだってよ。護衛は別にいるだろうに、なんとも酔狂なことさ」
まだ声を出すのが多少辛いので、二人のやりとりを黙って聞いていた。
この男性の名前は時田進。知り合ったきっかけはいま本人が言った通り。
なんでも新進気鋭の警備会社『セフィロト』という所のエースだそうだ。
お嬢様専属ボディーガードである旭山さんの話では、その会社のメンバーは全員化物みたいな人達らしい。
メイドに選ばれなかったらウチに来いと誘われた話をしたら、顔を引きつらせていたっけ。
そう言えば旭山さんはいまどうしているのだろうか? 帰りのホームルームが終わったことを、ラインで伝えた時間を考えて、二十八階の電気が消えた頃には、ゲート前で待機していてもおかしくなかったのだが、伊邪那岐学園の運動場に囚われていた人質の中にはいなかった。
「しかしなんだって上から……。ああ、占拠したフロアは学区エリアか。人質の中に日ノ本家のお嬢様がいるんだな。さしずめ助けを呼ぶために、ダクトから他のフロアへの脱出を図ったってところか」
「違います」
ようやく胸が楽になってきたので、師匠の言葉に声を絞り出す。
「うわ。まだ喋んない方がいいって!」
ありがたい言葉だったが、アタシは真雪さんの言葉を無視させてもらった。
おそらくアタシにはあまり時間がない。
琥珀お嬢様が条件付きとはいえ、テロリストと手を結んだことが余計な人間の耳に入る前に、お嬢様をテロリストから奪わなきゃ。
琥珀お嬢様のいまの立場が揺らぐのは、アタシにとってあまりよろしくないからな。
だから、可能ならばタワー管理部隊なんかが突入する前になんとかしたい。
そのためなら、利用できるものは利用しないと。
「師匠がここにいるのは、二十八階にいる人の救出かなにかですよね?」
師匠は一応会社員だ。
しかも会社は別のタワー。
ここにいる理由は仕事以外には考えられない。ボランティアでなにかする人では決してないからな。
「ご名答。依頼主やら細かい内容は言えんがな」
「組みませんか? アタシも内容は言えませんが、二十八階に戻る用事があるので。
アタシがそう提案すると師匠は値踏みをするように、アタシを見てくる。
「ふむ。情報は持ってそうだな」
「この通気ダクトをつたって二十八階にいくのは難しいと思います。ジュピターが自ら解決に乗り出しましたが、他者の介入を嫌っているようです。アタシもそれで落されました。二十七階から二十八階までの間に、罠を仕掛けてある可能性があるかと」
「あー、もうアイツが動き出したか。そいつは面倒だな。ただでさえ一般市民は二十階より立ち入り制限かけられてんのによー。それで、お前はどうなんだ? 誘ってくるってことは、別の侵入ルートを持ってんのか?」
「いいえ。でも思いつくかもしれない人に心当りがあります。どうします?」
「いいだろう。本当に使えるルートだったら、侵入までは一緒に行ってやるよ。それでいいんだろう?」
にやりと笑う師匠にアタシがうなずく。
「いやいやいや! ダメですってば! メイドさんですよ⁉ 怪我人ですよ⁉」
真雪さんが、アタシと師匠の取引に介入してくる。
「真雪、うるせえ。そもそも、お前だって勝手について来たんじゃねぇか。翼、動けるんだよな?」
面倒だったが、もう一度うなずく。
「それなら問題ねぇ。コイツが動けるってことは戦えるってことだ。おバカなお前にもわかるように、コイツの実力を説明するとだな。格闘技の大会ならたぶんお前が勝つ。殺し合いなら絶対にコイツが勝つ」
「アタシはおバカじゃないですよ!」
「アタシはそんな物騒な人間じゃありませんよ」
真雪さんと同時に文句を言いつつ、アタシは胸ポケットからスマホを取り出す。
良かった。壊れてない。
アタシは電話帳の中からひとつを選びコールする
相手はすぐに出た。
「飛鳥さん! 御無事ですか⁉ いまどこですか⁉」
なんだか思っていたリアクションと違う。
まぁ、いいか。
「胸に響くので、少し声を抑えて頂けますか。亀戸様」




