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白虎の翼  作者: 地辻夜行
2章 空なき空を、白虎を求め、飛鳥舞う
22/76

22話 夢見る鳥は、夜の歌に墜落す

 結論から言ってしまうと、アタシは甘かった。

 無理。アレは真似できない。盗めない。奪えない。

 今のアイドルは、みんなあのレベルなのか?

 アタシはコンサート会場となった、特設会場の近くにある小高い丘の上にある公園で、ひとり涙を流す。

 実力差を見せつけられた悔し涙じゃない。そんな可愛い差じゃなかった。

 これは感動の涙。

『歌姫』と呼ばれていた盲目の少女の声は、コンサートが終わった今も、アタシの心を震わせている。

 初めてテレビで見たアイドルの比ではない。

 もしあの時見たのが彼女だったら、アタシは夢を見ることもなければ、異端児になることもなかったろう。

 あまりにもレベルが違いすぎた。まさに住んでいる世界が違う。

「バカみたいだ、アタシ」

 死にたくなった。

 タワーの外で生まれているというだけで、夢を見る資格などなかったのに、現実から目を逸らし、がむしゃらに自己鍛錬を続けてきた結果がコレ。

 やっぱりタワーの外で生まれた者は、タワーの中で生まれた者には敵わない。

 アタシは公園の外れにある雑木林に目を向ける。

 あの中であれば良い枝ぶりの木もあるだろう。トレーナを脱いで枝に結べば紐代わりになる。

 アタシの足が、雑木林へと向かいかけた時。

「こんにちは。あなたは、この街の方ですか?」

 アタシの耳から背中にかけて電流が流れた。

 この声。間違えるものか。忘れるものか!

 アタシは止まるんじゃないかと思った心臓に発破をかけて、声の主の姿をさがす。

 いた。

 街へと続く階段を上り終えた、杖をつく一人の少女が。

 盲目の『歌姫』歌柳院小夜(かりゅういんさよ)

 本物だ。姿は真似できてもこの声は無理。普通に挨拶をしただけだというのに、超一流合唱団の賛美歌を聞かされてる気分だよ。

「あの、大丈夫ですか?」

「な、なにが?」

 アタシはまた感動に支配されそうな心を必死に否定しながら、不機嫌そうに問い返す。

「涙の流れる音が聞こえました」

「は⁉ 冗談だろ?」

 ヤバ、心の声が外に出た。

 タワー外の者がタワー内の者にこんな物言いは不敬罪に問われかねない。しかも彼女は上流階級だ。

 だが『歌姫』は笑って、胸の前でグッと握り拳を作ってみせる。

「私、耳の良さにだけは自信があるんですよ!」

 いや、その前に声に自信もてよ!

「ここに来るのにも、ちょっと杖を使えば、問題なく来れました。杖を突く音や、舌を打った音の反響で、自分の周囲の状況を判断するんです。スゴイでしょ!」

「反響って、コウモリかよ」

 ヤバい、ヤバい、ヤバい! この声に負けたくないって想いが強すぎて、今のアタシはなにを口走るかわからない!

 ほら、さっきは笑って許してくれた『歌姫』が、キョトンとしてる。

 だが次の瞬間には、大笑いし始めた。

 あれ?

「ホントだ。アタシ、コウモリみたーい♪」

 なにがそんなに楽しいのか、『歌姫』は手を打ってはしゃいでいる。

「フゥ~。こんなに笑ったの久しぶりです。あの、良かったらあちらのベンチに座りませんか?」

『歌姫』は微笑みながら、アタシ達から少し離れた位置にあるベンチを指さす。

 本当にわかるんだな。

 必要ないかとも思ったけど、アタシは『歌姫』の手を引いてベンチに座らせ、その隣に腰を下ろした。

「ありがとうございます。えっと、自己紹介がまだでしたね。私は―――」

「知ってる。『歌姫』だろ?」

「違いますー! そんな名前じゃありませんー!」

『歌姫』がむくれて抗議してくる。

「歌柳院小夜」

 様をつけ忘れた事に気付き不安になったが、続いた彼女の表情がそんなものを吹き飛ばす。

「そうで~す♪」

 満足そうに破顔し、力強く頷く。さっきから表情がコロコロと変わって可愛らしい。

 きっとこの娘は歌がなくとも、アイドルとしてやっていけるに違いない。

「あなたは?」

「飛鳥翼」

「翼さんですか。良いお名前です。それにとても素敵な声。力強くて、周りに勇気をくれる声。私とっても好きだわ」

「そりゃどうも」

 悪気がないのはわかるが、彼女に良い声と言われても嫌みにしか聞こえない。

「ねぇ。良かったら一緒に歌ってみません? きっと嫌なことも忘れられますよ」

 彼女はまったく屈託のない笑顔で、アタシに生き地獄のような提案をしてくる。

 アタシは逃げることもできず、阿呆のように口を開けているばかりだった。

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