14話 春の陽気は、白虎の翼を迷わせる
「なんのことか、わからないな」
リーダーがこちらを振り返らずに、琥珀お嬢様の言葉に答える。
「誤魔化すつもりなら、変声器くらいは使うべきです」
ようやくリーダーが振り返った。
アタシを挟んで、リーダーと琥珀お嬢様がにらみあう。
実にいたたまれない。そういうのは2人でいるときにやってほしいね。
やがて根負けしたのか、リーダーがやれやれと首を振る。
「君とは、数回しか会話を交わしていないと思ったんだけどね」
「正確には二回です。時間にすれば合計で五分にも満たないでしょう」
「それだけで相手の声を覚えていると?」
「こんなことを想定していたわけではありませんが、これからも関わり合いを持ちそうな相手の声ぐらいは、覚えるようにしています」
「本当に人質として使いづらい娘だね、君は」
リーダーはおもむろにマスクに手をかけ、それを上に持ち上げるようにして取り外す。
そこにあったのは、見覚えのある顔だった。といっても写真でだ。
お嬢様のお世話をするにあたり、お嬢様の婚約相手の情報も頭にいれる必要があったのだが、その相手の写真とリーダーの顔が瓜二つ。いや、会話から察するに本人なのだろう。
「よろしいんですか⁉」
リーダー……風御門春暁さんの後ろにいた4人のテロリストから驚きの声が上がる。
「もともといつかは晒す予定だったからね。早いか遅いかの違いだよ。問題ない」
「なぜこのようなことをしているかお聞きしても?」
琥珀お嬢様の問いに春暁さんが口元をゆるめる。
「とりあえず移動しようか。我らの城に案内するよ」
そう言って再び踵を返し、今度こそ表通りへと歩きだす。
「お嬢さん方をホバーまでエスコートして差し上げろ。丁重にな」
☆☆☆☆☆
「ようこそ。わが母校へ」
「それは現役生に向かって言う言葉ではありませんね」
タワー内の各フロアで移動手段として使用されている、タイヤのない屋根なしホバーカーから降ろされたアタシたちは、我らが母校『伊邪那岐学園』ゲート前に立っていた。
テロリストたちが乗りつけていたホバーカーは全部で三台。先頭のホバーカーからは、鈴木さんを担いだカモミールが降りてくる。
アタシたちをエスコートする春暁さんは、もう先程までのガスマスクをつけるつもりはないらしく、憎らしいまでの爽やかな笑顔を向けてくる。
ただ、その爽やかさとは真逆のような光景が、アタシの目を捕えて離さない。
今朝……もう昨日か。とにかく登校して来た時には白かったはずのゲートの下部が、赤黒く汚れていたのだ。
この校門前には、二人の守衛さんが常駐していたはず。その姿が見えないということは……。
「殺してはいないよ」
アタシの視線に気がついた春暁さんが、言い訳するようにそう言って、開きっぱなしになっているゲートを通過し校庭内へと入っていく。
正直なところ、その言葉を信じることはできなかったが、いつまでもそこにいる訳にはいかないし、後ろからもせっつかれている。アタシ達は黙って春暁さんの後を追う。
「とりあえず拠点としては高等部の校舎を使っている。
重要な人質もあちらにご招待しているよ。
それ以外でフロアにいた人達に関しては、運動場の方で大人しくしてもらってるんだ」
「わざわざご説明してくれるのですね」
にらみつけるお嬢様に対しても、彼は笑顔を絶やさない。
「ああ。ホバーで考えていたんだけど、琥珀君には人質以外の、もっと大きな価値があると感じてね。いまのうちに手の内を晒しておこうと思ったんだ」
春暁さんは名案を思い付いたというように、満面の笑みで語りながら、高等部の校舎へと歩みを進める。
「さて、僕の執務室に向かう道すがら、さっきの質問に答えておこうか」
アタシがなんのことだと首を傾げると、隣を歩く琥珀お嬢様が口を開く。
「そうですね。理由をお聞かせ頂けるならありがたいですよ」
彼が瞳を輝かせながら言葉を紡ぐ。
「僕がね。今回の聖戦を実行に移したのは、『蒼穹』を、いや日本。考えようによっては世界を救うためさ」
春暁さんは、いたって真面目な顔でそう仰った。




