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白虎の翼  作者: 地辻夜行
1章 誰が為の物語か
14/76

14話 春の陽気は、白虎の翼を迷わせる

「なんのことか、わからないな」

 リーダーがこちらを振り返らずに、琥珀お嬢様の言葉に答える。

「誤魔化すつもりなら、変声器くらいは使うべきです」

 ようやくリーダーが振り返った。

 アタシを挟んで、リーダーと琥珀お嬢様がにらみあう。

 実にいたたまれない。そういうのは2人でいるときにやってほしいね。

 やがて根負けしたのか、リーダーがやれやれと首を振る。

「君とは、数回しか会話を交わしていないと思ったんだけどね」

「正確には二回です。時間にすれば合計で五分にも満たないでしょう」

「それだけで相手の声を覚えていると?」

「こんなことを想定していたわけではありませんが、これからも関わり合いを持ちそうな相手の声ぐらいは、覚えるようにしています」

「本当に人質として使いづらい娘だね、君は」

 リーダーはおもむろにマスクに手をかけ、それを上に持ち上げるようにして取り外す。

 そこにあったのは、見覚えのある顔だった。といっても写真でだ。

 お嬢様のお世話をするにあたり、お嬢様の婚約相手の情報も頭にいれる必要があったのだが、その相手の写真とリーダーの顔が瓜二つ。いや、会話から察するに本人なのだろう。

「よろしいんですか⁉」

 リーダー……風御門春暁(かぜみかどはるあき)さんの後ろにいた4人のテロリストから驚きの声が上がる。

「もともといつかは(さら)す予定だったからね。早いか遅いかの違いだよ。問題ない」

「なぜこのようなことをしているかお聞きしても?」

 琥珀お嬢様の問いに春暁さんが口元をゆるめる。

「とりあえず移動しようか。我らの城に案内するよ」

 そう言って再び踵を返し、今度こそ表通りへと歩きだす。

「お嬢さん方をホバーまでエスコートして差し上げろ。丁重にな」


☆☆☆☆☆


「ようこそ。わが母校へ」

「それは現役生に向かって言う言葉ではありませんね」

 タワー内の各フロアで移動手段として使用されている、タイヤのない屋根なしホバーカーから降ろされたアタシたちは、我らが母校『伊邪那岐学園』ゲート前に立っていた。

 テロリストたちが乗りつけていたホバーカーは全部で三台。先頭のホバーカーからは、鈴木さんを担いだカモミールが降りてくる。

 アタシたちをエスコートする春暁さんは、もう先程までのガスマスクをつけるつもりはないらしく、憎らしいまでの爽やかな笑顔を向けてくる。

 ただ、その爽やかさとは真逆のような光景が、アタシの目を捕えて離さない。

 今朝……もう昨日か。とにかく登校して来た時には白かったはずのゲートの下部が、赤黒く汚れていたのだ。

 この校門前には、二人の守衛さんが常駐していたはず。その姿が見えないということは……。

「殺してはいないよ」

 アタシの視線に気がついた春暁さんが、言い訳するようにそう言って、開きっぱなしになっているゲートを通過し校庭内へと入っていく。

 正直なところ、その言葉を信じることはできなかったが、いつまでもそこにいる訳にはいかないし、後ろからもせっつかれている。アタシ達は黙って春暁さんの後を追う。

「とりあえず拠点としては高等部の校舎を使っている。

 重要な人質もあちらにご招待しているよ。

 それ以外でフロアにいた人達に関しては、運動場の方で大人しくしてもらってるんだ」

「わざわざご説明してくれるのですね」

 にらみつけるお嬢様に対しても、彼は笑顔を絶やさない。

「ああ。ホバーで考えていたんだけど、琥珀君には人質以外の、もっと大きな価値があると感じてね。いまのうちに手の内を晒しておこうと思ったんだ」

 春暁さんは名案を思い付いたというように、満面の笑みで語りながら、高等部の校舎へと歩みを進める。

「さて、僕の執務室に向かう道すがら、さっきの質問に答えておこうか」

 アタシがなんのことだと首を傾げると、隣を歩く琥珀お嬢様が口を開く。

「そうですね。理由をお聞かせ頂けるならありがたいですよ」

 彼が瞳を輝かせながら言葉を紡ぐ。

「僕がね。今回の聖戦を実行に移したのは、『蒼穹』を、いや日本。考えようによっては世界を救うためさ」

 春暁さんは、いたって真面目な顔でそう仰った。

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