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白虎の翼  作者: 地辻夜行
1章 誰が為の物語か
12/76

12話 因間(いんかん)とは、其(そ)の郷人(きょうじん)に因(よ)って之を用う

「残りの三%に当たったということでしょうか?」

「いえ、それにしては彼らの体制が整いすぎている気がします」

 小声でのアタシの問いかけに、亀ちゃんも小声で返してくれる。

 カモミールちゃんの誘導に従い、メインストリートから細い路地の道半ばまで来たときだ。

 路地を抜けた先の正面の道から5人。あっと思って立ち止まった時には、アタシたちが入ってきたメインストリート側から3人。

 ガスマスクのような物をつけた武装集団が、満を持して現れた。

 間違いなくこの人たちが、アタシたちがテロリストと呼んでいた集団だろう。

 左右にはそれぞれ建造物を取り囲む塀があり、踏み台も見当たらないこの状況では、カモミールちゃんとアタシ以外は、乗り越えることは難しそうだ。

「カモミールちゃん、これはどういうことだ!」

 興奮した鈴木さんが、先頭で立ち止まった彼女の肩を掴む。

 瞬間、彼の身体が宙に浮き、きれいに路面へと叩きつけられる。

 カモミールちゃんに一本背負いをされることなど全く予想していなかったのだろう鈴木さんは、受け身も取れず、うめき声をあげ苦しそうに身をよじった。

 彼女は彼を蹴り転がし、うつ伏せにさせると片腕を取って鈴木さんにのしかかる。

「最重要極秘任務『千本桜桃華』様のX地点への誘導、並びに千本桜家の最高戦力と記録される『鈴木健人(けんと)』の無力化に成功いたしました」

「ああ、ご苦労」

 正面に立ちふさがっていたテロリストのひとりが、カモミールちゃんの任務報告に応える。

「これはどういうことだ、カモミールちゃん。お前はジュピターの指示で動いているのではなかったのか?」

 琥珀お嬢様が当然の質問を投げる。

「マザー『ジュピター」からの応答なし。緊急事態マニュアルにより、日本国最高命令権所有家のひとつに所属するシークレットネーム『ムラサメ』様のご指示で、最重要極秘任務『プロジェクト・チェリーブロッサム』を優先して実行いたしました」

「カモミール、余計なことは言わなくていい」

「カモミール、了解いたしました。以後ミュートモードに移行します」

 アタシがテロリストのネーミングセンスに失笑を抑えていると、亀ちゃんがアタシたちにだけに聞こえる程度の声量で囁く。

「なるほど、つまり電波が復旧したのは、このフロア内だけのみということですね。ジュピーターからの指示は彼女たちに届いていないということですか」

「ああ、しかもテロリストか人質の中に、お姉さまよりも上の命令権を持つ者がいて、命令したと考えられるな」

 テロリストの中に上流階級の人間がいるかもという言葉に、驚きを禁じ得なかったが、なんとか顔にはださずに済んだ。

 だってそうでしょう?

 苦労しなくても人より上の立場にいる人が、わざわざ自分の立場が揺らぐような行為をする意味がない。

「孫氏曰く『因間いんかんとはその郷人きょうじんってこれを用う』。フロア全てのアンドロイドは、一般市民ではなく彼らの仲間と考えられます。機能回復自体が彼らの仕業なんですね。カモミールちゃんから僕達の情報を送られてすぐに、捕獲作戦を指示した。やられましたね」

「いいえ。まだです」

 桃華お嬢様が、珍しくはっきりと他者の言葉を否定した。

「鈴木!」

 桃華お嬢様の鋭い声が飛び、完全に身動きを封じられていると思っていた彼が、カモミールちゃんを背負ったままバネ仕掛けのように立ち上がり、空いている手でカモミールちゃんの首を掴む。カモミールちゃんに捕まれていた鈴木さんの右腕から嫌な音が聞こえた。

「お嬢様、後ろから!」

 痛みを感じさせない彼の力強いイケボに、アタシたち4人は弾かれるように、もと来た道へ向かって駆けだす。

 反射的に背後を塞いでいたテロリストが武器をかまえた。

「撃つな!」

 正面にいたテロリストの一人が叫ぶ。

 この隙をつき、アタシたちの隙間をぬって、鈴木さんにぶん投げられたカモミールちゃんが無表情で飛んでいく。

 カモミールちゃんは、中央にいたテロリストを巻き込んで、道路の向こうへと吹き飛んだ。

 でも、まだ二人いる!

「飛鳥!」

 琥珀お嬢様が、体勢を低くして私を一瞥する。

 ああ、もう! このお嬢様は! わかりましたよ! やればいいんでしょ! やれば!

 琥珀お嬢様が右の、アタシが左のテロリストの下半身に重いタックルを仕掛ける。テロリスト共々アタシたちふたりは路上に転がる。

「琥珀ちゃん!」

「飛鳥さん!」

「止まるな!」

「行ってください!」

 アタシたちの必死の声を聞いて、亀ちゃんが止まりかけた桃華お嬢様の手を引いて連れて行く。

 ふたりの姿は、すぐにもと来た道へと消えていった。

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