10話 人形は電気の糸で踊りだす
「まずいな」
明るくなった倉庫内で、天井に設置されている防護カメラを見やり、鈴木さんがぼやく。
ボヤキでもイケボだとカッコよく聞こえてしまうのが不思議だ。
「お嬢様方を起こします」
「頼む」
彼は外への警戒を強め、アタシは仮眠を取っていた3人を、声をかけながら肩を揺すり、起こしていく。
「ん、何かあったか?」
「そろそろ移動ですの?」
「もう、朝? あれ、僕の部屋じゃない?」
若干1名殴りたくなる奴がいたが堪えた。
「電気が復旧いたしました。……ああ、電波もですね」
もしかしたらと確認してみたスマホの電波のマークは、見事にアンテナを3本たたせ、使用に問題がないことをアピールしている。
「なるほど。いつでも発見される環境が整ったということか」
「急がなければならなくなったということでございますわね」
「他のフロアへの移動手段はすべて見張られているでしょうね。ふぁ~」
亀ちゃんが盛大な欠伸で締めくくった。
やはり一発殴っとくべきだったか。
「ここから一キロメートルほど北西に進んだ先に、このフロアの設備所があります。そこにタワーを縦に繋げる通気ダクトがありまして、その中を通って脱出します。さすがにこのフロアから上層に向かうのは皆さんの体力では難しいでしょうし、下層まで真っ直ぐに向かうのはかなり危険を伴いますので、この下のフロアに私が先行して下り、ここにあるネットをそこに張って、皆さんが落下して行かないようにしようと思います」
鈴木さんは外への警戒を続けたまま、振り返らずに言った。
「さっきの空間からは行けなかったの?」
「申し訳ありません、お嬢様。壁で遮られておりまして。ダクトが剥き出しになっているのは、設備所内のみになります。点検口も設備所内にはありませんので、フロア通路から行く必要があります」
「そこにも見張りがいることを考えなくてはいけないな」
「そうですね。ただ設備所って、作動する機械自体しかないはずですよ。設備を操作したり、カメラの映像を監視したりするのはフロアの中央にある制御所のはずです。限りある人員を割いてまで、見張りは立てていないんじゃないですかね。特にフロア防護カメラが起動し始めた今では」
やや楽観的な亀ちゃんの言葉に、琥珀お嬢様が「そうか」とうなずく。
それにしても、平常時ではまったく使えなさそうな情報はしっかりと蓄えているな。
便宜上テロリストと呼ぶが、彼らが現れて一番生き生きしてるのは亀ちゃんだね。
ひ弱なくせに物騒なことこのうえない。
「問題はどのルートで向かうかということですわね」
「最短を通りたいと思います。彼らがどこにどれだけいるかわからない以上、様子を見ながら一番時間のかからないところを選ぶのが良作かと」
鈴木さんのイケボが若干不安げに揺れたが、まるで彼を後押しするような冷静な声が続く。
「現在、テロリストと思われる不審人物は四十六名。そのうち十名が伊邪那岐学園に待機しております。
エレベーターホールに4名。エスカレーター前に八名。四ヶ所の非常階段扉前に四名ずつ計十六名。ホバー使用で巡回をしていると思われるものが二名ひと組で四組おります」
直立の姿勢で唐突に語りだした置物に、アタシたちは揃って目を向けた。




