機会
教室で洋平は瀬奈と話す機会を模索していた。
スピーカーに見えてしまう原因を探り、そして元の人間の頭に見えるよう戻したいからだ。
しかし、如何せん瀬奈と話す機会が無い。どうやったら自然に会話を始められるだろうか。
そしてもう1つ洋平を悩ます問題がある。『将来切符』だ。
自分の将来の夢を叶えるために記録していくプリントを、洋平はヒラヒラと手に摘みながら眺めていく。
プリントの記入欄には『将来就きたい職業・夢』『そのためには何が必要』『何を行動・経験するべきか』『今からできること』…などが載っていた。ご丁寧に担任のコメント欄まで付いている。
それを見ていると、洋平は段々腹が立ってきた。
俺は自分だけ人の顔がスピーカーに見えるようになって毎日気が滅入ってんだよ。呑気に将来の夢なんか考えられるわけねぇだろと心の中で毒吐いた、その時。
窓がガタッと音を立てて、教室にビュッと風が入ってきた。それによってプリントは洋平の手からすり抜ける。
あっと洋平は小さく声を上げた。プリントは教室の廊下側に進んでいく。その様子を洋平はただ見ていた。
やがて風は消えプリントは重力に負けて床に落ちた。
やれやれと洋平は自分の椅子から立ち上がってプリントを拾いに行く。
しかしプリントは誰かの手によって持ち上げられた。
「あ…」
先にプリントを拾った相手がいた。その人物は両手でプリントを持って洋平に差し出した。
「はい」
その人物は道谷瀬奈だった。




