学校
高校に到着した。洋平の目には、学校の人間も例外なく全員頭がスピーカーに映っていた。生徒も、教師も。
すでに教室にいるクラスメイトも多分に漏れず、洋平と同じく教室に取り付けられているスピーカーだった。見慣れた空間は異様な光景に変わった。
「はよ、先崎」
声が聞こえた方へ振り返る。当然、洋平に挨拶してきた人物の頭もスピーカーだった。お前は誰だ、と心の中で突っ込む。気が滅入りそうだ。
顔で人を判別出来ない。だが登校して1番に声をかけることや声のトーン、背格好からしておそらく仲の良い友人の津原かと予想した。
「あぁ、おはよ…津原…」
自信は無い。洋平は尻すぼみに友人の名前を言った。合っているだろうか。
「そういや今週からさ…」
相手は気にも留めずそのまま話し始めた。どうやら合っていたようだ。洋平はその事に少しだけ安堵した。
だがスピーカーであることに変わりは無い。
この現実を信じたくない洋平は津原の頭に、スピーカーに手を伸ばした。
感触は洋平と同じく、人の顔そのものの柔らかさだった。
「うお!?何だよ!?」
津原は叫びながら体を仰け反った。
「いや、悪い…」
慌てて洋平は津原の顔から手を離す。
「キモッ何?」
「なんかさ…人の顔、変じゃねぇ…?」
洋平は恐る恐る問いかける。
「あ?変って何が?」
「いや、別の物に見えるっつうか…」
津原は訝しげな声をあげた。どうやら洋平にだけ、人の頭がスピーカーに見えてしまっているのだった。
「お前朝からどうしたよ、先崎」
「…」
友人から自分の名前を言われて、洋平は思った。
そうだよな。俺は先崎だ。
人の頭がスピーカーに見えるようになっても、俺は先崎洋平のはず、だ。
そうだよな?
続々と教室にクラスメイトが登校してくる。その様子を見ていても全員例外なく頭がスピーカーであった。
気色悪い。この場にいたくない。
自分の席に着いていた洋平は立ち上がって教室から出ようとした。もはや人の顔を見たくなかった。
教室から廊下へ足を一歩踏み出した時、
「あっ」
斜め下の方向から軽い衝撃が洋平の体に走った。