感想とは
楽しんで頂けたら幸いです。
※戦争の話がまた少し出てきます
「聞いてたんだ」
「ごめん…」
廊下に出た後、洋平は慌てて謝罪した。
「ううん、全然」
瀬奈はあっけらかんとした表情だった。それどころか、
「話の内容、聞こえてたんだよね?」
と尋ねてきた。そうだと洋平は返す。
「先崎くんは、どう思った…?私の考え」
意外にも洋平の意見を知りたいようだ。え、と洋平は一瞬驚いたがすぐに答える。
「実はさ…俺も同じようなこと考えてたんだ」
え、と今度は瀬奈も同じように声を上げた。その顔には明るさが灯っていた。
「ほんと?」
「あぁ、俺も同じでただ内容に圧倒されてさ…。まず事実を受け入れるのに精一杯だった」
洋平はそう言って講演内容を思い出す。
『手も足も首もない、内臓は飛んでうじ虫が湧いている遺体があった』
『空襲で防空壕に避難していた時,「開けてくれ」「中に入らせてくれ」と叫んでいた人達は皆真っ黒焦げの丸太のように焼け死んだ』
『空腹でたまらず毒草を食べて、口から泡を吐きながら死んでいった人もいた』
全く想像が付かなかった。
「今の自分の生活からこんな遠くかけ離れた人がいるのかって…位置が非対称?だなって思った、物理的な意味じゃなくて。わりぃ、日本語変だよな」
「ううん、分かるよ。私も全く同じ」
瀬奈はいつになく力強い声で同意した。
「こんな自分の全く知らない世界があったんだって、まずそこからだった。だから書けなかった。戦争の悲惨さが分かったとかそもそもそれ以前の話だった」
瀬奈は本気で悩み、考えているのだろう。真面目な面持ちだった。単に感想文を書くのが面倒だから白紙で出したのではない。
むしろ、誰よりも熱心に特別授業の講演会に取り組んでいる。
うん、うんと洋平は相槌を打ちながら彼女の目を見て、話を一言半句も聞き漏らしたくないと一心に傾聴した。
「感想文を後で書くようにって言われたら、そのためにまるで頭をシフトチェンジして『あ、今言ったこと感想文に書くようにしよ』とか考えるのが嫌で。感想文を書くためにじゃなくて、本来は感想が浮かんだからそれを文章にして残すものなのに」
そういう決まりだろうから先生に文句言ってもしょうがないんだけど、と瀬奈は付け足す。
洋平は彼女の話の内容に、真剣な表情に引き寄せられていく。
「感想とか共感することってきちんとした文章を書くことじゃなくて、いつまでも心に留まっていることじゃないかな…。無言とか書かないことだって表現の一種な気がする」
瀬奈も口数少ない時に、何かを表現してたのだろうか。彼女だけ音声を流すスピーカーでないことは、そこに理由があるのだろうか…?
「あ、ごめん、私ばっかり長々と喋っちゃって。うざかったよね」
瀬奈はハッとした後、慌てて謝ってきたが、
「まさか!…むしろ俺と同じ考えで嬉しい」
と、洋平は少し恥ずかしくなりながら返した。
瀬奈も少し頬を赤く染め、そのまま2人で少しの間笑っていた。
思えば、瀬奈とここまで長く話したことは今まで無かった気がする。彼女は口数が少ない日の方が多いけれど、その心の中では色んなことを悩み、考え抜いてるに違いない。
俺は彼女の心の内を聞けるような仲になりたい。今日ので少し近づけただろうか?
そう洋平は思った。
読んで頂いてありがとうございます!
皆さんは、『感想』や『共感』とはどのようなものだと思いますか?




