レモンあるいは君の唇
@kyn_ntsmさんと短編を交代で書くミッションで書いた習作です。
お題はこちらから。
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お題はこちらでした。
「レモンの味」
「純粋な瞳」
「甘える」
真昼の暑さに根負けした君に連れ込まれたのは緑色の屋根のカフェだった。外のテラス席には犬を連れたご婦人方が喋り込んでいるが、犬は遠くに目をやりながら舌を出している。その息は暑さで白く色づきそうだった。
「なんで、レモンとか梅干しとか見ると、ヨダレってでてくるんだろうね。」
そう言う君の指はレモネードに飾られてた薄切りのレモンを摘んでいる。洒落た君の飲み物は、エメラルドとトパーズを溶かしたような色をしていたが、その色はすでに君の身体の中だ。
「パブロフの犬だっけ?」
「なんか違くない?それ。」
「そうかも。」
ベルが鳴ったら餌を与えるという条件を与え続けた犬は、餌がなくてもベルの音を聞くだけでヨダレをだすようになったとか。
「レモンを食べたことがない人は、たぶんヨダレはでないよ。」
無意識で反射的に起こす反応なら、学習してないものに何も感じないだろ。
たしかにと、こんなどうしようもない会話に真顔で頷く君はなんなのか。
そんな君は指先のレモンを唇に挟む。何色ものせてないそれにするりと這う赤へ視線が吸い寄せられてしまう。それだけで、少し乾いた僕の口内に生ぬるくて柔らかいあの感触が蘇った。僕のよりずっと小さいそれは少し物足りなくて、でも、甘くて
「何みてんの」
そのジト目は暑さのせいだけではないだろう。
邪な僕の学習記憶を流すように水出し紅茶を飲み干し、一言。
「すみませんでした。」