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定年と縁の切れ目とおひとりさま

作者: デギリ

その日3月31日を以って山本吾郎は定年退職となった。役員まで出世できた彼は、社長から退職辞令を渡され、御礼の言葉を述べて花束を受け取る。そして吾郎は夕方に同期の仲間と軽く飲んでから帰宅した。


今日は、三人の子供が退職のお祝いをしてくれるという。

吾郎は、子供達がそんなことをしてくれるとはすっかり大人になったものだと感慨に耽りながら家の玄関を開ける。


「定年ご苦労様でした」

出迎えた孫達がそう言って好きな日本酒を渡してくれるのを受け取りながら、吾郎は感激して涙が出そうになるのを抑えて、「ありがとう」と孫を抱き上げる。


自室に入って急いで着替えリビングに向かうと、そこには高そうなすし桶やお酒が並んでいた。

そして、妻の千佳子、長男の進一とその妻の奈々と孫、長女の久里子と夫の祥太と孫、次男達司とその妻美久が並んでいた。


「お父さん、定年までご苦労様でした」

一人を除き皆が声を揃えてそう労ってくれる。


「みんな、ありがとう。おかげさまでなんとかここまで勤め上げられたよ」

吾郎がそう言うと、進一が音頭をとり乾杯をする。

そのあと、ガヤガヤと歓談が始まり始めるところで、突然妻の千佳子が大きな声を出す。


「みんな聞いて!私から言いたいことがあるの!」

千佳子は最初から不機嫌そうに黙り込んでいて、吾郎も子供達も不審に思っていた。

そこにこの発言であり、和気藹々とした雰囲気は一変した。


「あなたはこれからも私に炊事洗濯などの家事をやらせるつもりでしょうが、もう嫌。これまで子育て、家事と一人でやってきました。私もここで定年として後は好きにさせてもらいます。

これまであなたは仕事仕事と家のことを全部私に押し付けて、自分は遅くまで飲んで帰り、出張と言って好きなところに旅行して好き勝手にしてきて。

この恨みをずっと心に秘めてきましたが、もう残る人生はあなたと縁を切って好きにします。

今日、退職金が入ったでしょう。それも含めて財産の半分を渡してもらいます」


そう長々と述べた後、どこかに電話をしてその画面を出す。

そこに出てきたキツそうな中年女性はいきなりとうとうと話し始める。


「私は女性の権利を守る会の田沢です。

長村千佳子さんの話を聞き、その不当に搾取された生活に気づいてもらい正当な権利を守るためにアドバイスをさせてもらいました。

あなたが山本吾郎さんですか、千佳子さんへのこれまでの搾取を反省して、彼女に正当な報酬を与え解放しなさい!」


長村というのは妻の旧姓だ、名字も使いたくないほど俺との結婚生活が嫌だったのか、吾郎はあまりの展開に頭がついていかずにそんなことを考える。


「お母さん、こんな日にそんなことを言わなくてもいいでしょう。

それにお父さんが仕事で頑張ってくれたおかげで私達はお金の苦労をしていないでしょう。仕事するのは大変なのよ」


「それに親父は休日は家族とよく出かけていたし、困ったときは助けてくれたよ。

オレがイジメにあったときや絵里が教授にセクハラされたときには親父が助けに来てくれて解決したし、家族のことにも一生懸命だったぞ」

長女と長男が反論する。


「オレも前の会社がブラック企業でメンタルがやられたときに親父が激怒して掛け合ってくれたぞ。

母さんよ、アンタ、家族のことに他人を介入させないでくれ。

田沢さんか、アンタも非常識だな。他所の家のことに口を出さないでくれ」

感情家の次男は怒った口調で言う。


「何よ、あんた達はお父さんの味方なの。

私が専業主婦だったからって働いた方が偉いというの!

父親が家族のことを助けるのは当たり前でしょう。

それに田沢さんは口下手の私を助けるために話をしてもらったの」


「そうです。社会で働いていない女性はよくごまかされて泣き寝入りするので私達が助力しているのです」

千佳子や田沢が反論する。


それに対して子供たちが言い返そうとするときに、吾郎が口を挟む。

「もういい。

母さんが俺といるのが嫌なら仕方ない。じゃあそうしよう。

しかし他人にこんな話は聞かれたくない。誰か電話を切ってくれ」

それを聞いた次男が母のスマホを取り上げて通話を切る。


「退職金を半分渡せばいいんだな」

「他にも財産があるでしょう。その半分よ」

これまでおっとりとした主婦だと思っていた千佳子が鬼のような形相で吾郎に迫るのを見て、子供もその嫁や婿もドン引きである。

険悪な雰囲気に幼い孫たちは泣き出した。


「おいおい、退職金のかなりは住宅ローンの返済だ。それ以外は教育費やなんだとあんまり貯金ができないとお前が言っていただろう。

それ以外の俺名義の株などは俺の親の遺産をもとに投資したものだぞ。あれは夫婦の財産じゃない。代わりにお前の親の遺産はお前のものだ」


確かに山本家は三人の教育費、住宅ローン、更に千佳子がグルメで旅行好きだったため貯金はそれほどない。そもそも家計を握っていたのは千佳子なのでそう言われると反論できない。

「わかったわ。退職金の半分でいいわ」

「そうすると俺のもとにはほとんど残らないな。その代わり家は俺のものだぞ」

「こんなところじゃなくて、もっといいところに女友達とシェアハウスするからそれはいいわ」


あっという間に離婚と財産分与が決められていく。

子供たちは唖然としているが、長女が口を挟む。

「お母さん、そんな簡単に離婚を決めてもいいの?これまで何十年も連れ添ってきた仲じゃないの。

お父さんも家事なんかしたこともないのに、お母さんが居なくなったら生活に困るわよ」


それに対して両親が答える。

「私は今まで男性優位の家庭を当たり前と洗脳されてきたの。お友達の助けでようやくそれがおかしいとわかった。これからはおひとりさまとして女友だちと余生を楽しく生きていくわ。

誰が死ぬまで夫の世話なんかするものか!

それからあなた達も孫の世話を押し付けないで。

もう子育ては卒業したの。体のいい家政婦代わりに使うのはやめて!」


「そう言っているんだから好きにさせてやらなければ仕方なかろう。

生活なんぞどうとでもなる。お前たちに迷惑はかけん」


子供たちは自分たちにも火の粉が降ってきて驚く。

確かに孫の世話も頼んだが、喜んでくれていると思っていたのが家政婦代わりになどと言われて憮然とする。


長男は次男にこっそりと言う。

「親父はブチ切れてるな。オレのことで学校に怒鳴り込みに来たときもあんな感じだった。怒ると冷静な口調になるんだ」


「オレの前の会社に抗議しにきた時もそうだった。

もう離婚しかないね。親父はいいけど、お袋は変な団体に騙されてないか心配だ。ずっと家にいて、困ったら親父を頼っていた世間知らずなのに」


「しかしあそこまで言ってしまったらもう取り返しはつかない。お袋も色々と思うところがあるんだろうが、親父だって一生懸命働いてきて、その節目の日を台無しにされたんだ。覆水盆に返らずだな。

そして見ろよ、久里子の顔を。

お袋に一番頼んでいたのはアイツだからな。険しい顔をしているぞ」


「姉さんはお袋と一番仲が良さそうで、しょっちゅう家にも来ていたけど、まさかあんな言われ方をするとは思わなかったのだろう」


そんなやり取りをしている間に話は進み、千佳子は身の回りのものをもって家を出るといい、財産分与と離婚は後ほど弁護士を立てて行うこととなった。


千佳子が家を出ると、白けた空気が漂い、吾郎は子ども達にもう帰るように促す。


子供達とその配偶者は、吾郎に気落ちしないように声をかけて帰っていく。


「定年退職したけれど再就職の話も来ていたので、ペースを落として働き、母さんと旅行でも行きながら老後を過ごそうと思っていたのだが、どうするかな」

吾郎は呟くように言う。


帰宅の車の中で進一と妻の奈々が話す。

「親父、大丈夫かな。

これまで台所にだって立ったことがない昭和の男だからな。

長年連れ添ってきたお袋に後足で砂をかけるようなことをされて気落ちもしてるだろう。

なるべくマメに顔を出してやるか」


そういう夫に奈々は答える。

「お義父さんもお気の毒に。

なんならうちが同居してもいいわよ。

そうすればあなたも心配しなくてすむでしょう」


「でも、今まであまり顔を出したがらなかったのにいいのか?」

「お義母さんが細かい人だったので、色々と注意されたからね。

子供だってよほどの時しか頼んでないわ。それをあんな言い方されて!

お義父さんなら家のことに口を出さないし、話も合うので問題ないわよ」


「ありがとう。助かるよ。じゃあ早速話してみる」


久里子と祥太も家に帰り、先程の騒動を話していた。

「お母さんがあんなことをするなんて、ビックリよ。

変な団体によく行っていることは知ってたけど、人の家庭を壊すようなところに入っているとは知らなかったわ。

お父さんだけならともかく子供も他人扱いするなんて、人が変わったよう」


「それでどうするの?

お義母さんに説得するとか、お義父さんになにかしてあげるとかしなくていいのか」

夫の言葉に久里子は考えてから話す。


「お母さんは完全に洗脳されてるみたいだから暫くは言っても仕方ないでしょう。

お父さんは気になるけど、こちらも子供の面倒をお母さんに頼れなくなるからね。ちょっとお父さんまで手が回らないわ。自分で頑張ってもらいましょう」


そして手を組んで天井を仰いで呟く。

「もう少ししたら両親と同居して孫の面倒を見てもらいながら、あの家を貰うつもりだったのだけどなあ。あの家はお父さんが決めたのだけど、交通の便もいいし、買い物にも学校にも近くて便利。それに広くて住みやすい。随分と値上がりしてると思うわ。

でもお母さんがいれば家事を任せられるけど、役に立たないお父さんと同居はしんどいかな」


翌日、長男の同居の申し出の電話に吾郎は答える。

「一晩考えたんだが、俺も家のことをやらなさすぎたかなと反省してな。

まだ老後も長い。しばらく休みがあるし家事もやってみるよ。まずは料理学校に申し込んでみるつもりだ。

それに暇もあるし、孫の面倒ならいつでも見るから、奈々さんにもよろしくな。

今どき義理の親と同居してくれるなんて有り難いことだ。いい妻をもらったな」


そして電話を切った吾郎は、伸びをして、やるぞと声に出す。

妻に三行半を叩きつけられて一時は落ち込んだが、気分を切り替えた。

単身赴任をしたことはないが、同僚は慣れれば一人も楽しいものだと言ってた。

一つ、頑張ってみるか!


その頃、千佳子は豪華なシェアハウスの一室で寝転んでいた。

「あぁ、朝御飯の支度も掃除も洗濯もしなくていいなんて幸せ」

ここはすべて雇いの料理人やハウスキーパーが行ってくれる。


今日は千佳子の自立の日の祝いだと、田沢やボス格の下野がパーティをしてくれる。千佳子は朝食をとると、ジムに行き、友達とランチを兼ねてお喋りに興じる。

(毎日が楽しかった学生時代に戻ったようだわ)

千佳子はこれからの日々が楽しみだった。


それから一ヶ月、吾郎はイキイキと過ごしていた。


再就職先は週に3日の勤めとして、他の日は料理学校に通い、家事をして趣味の登山に仲間と行ったりしているとなかなか忙しい。

進一と奈々は時々子供を連れて様子を見に来るが、予想以上に元気そうで安心する。

「奈々さん、暇を持て余しとるから忙しい時は海斗と桜の送迎くらいできるぞ。あんたも仕事もあって忙しかろう」


「ではお言葉に甘えて、時々お願いします」

進一達の家は近い。吾郎は勤めのない日には進一の家に行き、孫の保育園への送迎を行う。

帰りは両親が帰ってくるまで家で預かるが、お腹の減った孫たちにご飯も作ってやるようになる。

「じいちゃん、これは美味しくない!」

遠慮のない孫たちに美味しく食べさせるために料理学校に通うのにも熱意が入る。

吾郎はだんだん料理に作る楽しさを感じてきた。


ある日、迎えに来た進一と奈々が、海斗と桜の食べている夕食を見て目を丸くする。そこらのレストランよりも美味しそうに見える。

「これ、親父が作ったのか?」

「ああ、よければ味見してくれ。奈々さんもどうだ」


では、と食べ始めた二人だが、その美味しさに驚く。

「親父、これは美味いな!」

「お義父さん、これはお金をとれるレベルですよ」


そう言われて吾郎は照れたように笑う。

「一人では作り甲斐がないが、孫が美味しそうに食べてくれると嬉しくてな。

お前たちも時々食べてくれ」


一方、千佳子はシェアハウスで遊び暮らしていた。

「あの人もちゃんとお金を入れてくれたし、これで一安心ね」

7桁の数字が記入された通帳を見て、千佳子は大喜びである。


「長村さん、今日は楽しいところに行きましょう」

上機嫌で離婚した夫から財産分与されたことを話す千佳子に田沢と下野が寄ってくる。


その晩、歌舞伎を見た後、豪華なディナーをとり、更に二人は千佳子を夜のケバケバしい店に連れて行く。

「ここはどこ?」

不審がる千佳子に二人は言う。

「ここは一流のホストクラブよ。若くていい男が傅いてくれるの。楽しいわよ」


「「いらっしゃいませ」」


若くて綺羅びやかな男達が頭を下げる。

席についた彼女たちに傅き、機嫌を取るように話しかける。


周りの男たちの中で、一人の男が千佳子の目にとまる。

竜司と名乗る男が千佳子のお気に入りとなる。


それから千佳子は連日のようにホストクラブに通い、竜司に勧められるままにボトルを入れ、フルーツを頼み、湯水のように金を使った。

偶に我に返ってこんなにお金を使って大丈夫かと心配になるが、田沢や下野は「これまでの何十年のご褒美よ。少しくらいの贅沢をしてもいいのよ」と唆し、竜司も泣きついてくる。


しかし、翌月のカードの引き落とし額を見て流石の千佳子も青ざめた。

「こんなに使ったんだ!これじゃもう龍司に会いにも行けないわ」


それを田沢にこぼすと、彼女は下野を連れてきて千佳子に言い始めた。

「長村さん、確かにホストクラブは楽しいけれどお金がかかるわ。

でも私達は通い続けていられるの。その秘訣を教えてあげるわ」


それは要するに凄腕のファンドマネージャーにお金を預けて投資してもらい、その収益をバックしてもらうということであった。

「それで私達は年に何千万も儲けているの。

あんまり人には言わないのだけどあなたなら仲間にしてもいいと思って」


千佳子は投資などしたことがない。全部夫に任せていた。

こんな話を聞くと一も二もなく飛びつく。

「私も入れて!お願い。

これでまだ竜司に会えるわ」


それを聞き、田沢と下野はニヤリとして、じゃあここにお金を振り込んでねと言って去る。


千佳子はまず試しにいくらかの額を振り込んだ。

それから暫くそのファンドからは相当の収益が振り込まれ、安心した千佳子は手持ちのお金を残して全額を振り込む。


数ヶ月後、田沢と下野が「大変よ!」と駆け込んできた。

「あのファンド、投資に失敗して倒産しちゃったの」


「えっ、じゃあ私のお金はどうなるの!」

「もう返ってこないわね」

「えっ!えっ!」

千佳子は言葉が出てこない。


次に下野が冷たく言う。

「長村さん、悪いけれどここのシェアハウスのお金払えるの?

払えなければここでハウスキーパーをやってもらうからね。

ちょうど次の人を探していたの」


食事、掃除、クリーニング付きのこのシェアハウスの家賃は相当に高い。

ほとんど無一文になった千佳子に払えるわけがない。


どうしようと混乱のまま、知らぬ間にホストクラブに行き、竜司を探していた千佳子は、店の近くの路地で竜司と下野が話しているのを聞く。


「あのばあさん、いい金蔓だったのに、もう身ぐるみ剥いだのかよ。

もっとオレに稼がせろよ!」

「ごめんね。だけどアンタにしなだれかかるのを見て我慢できなかったのよ。

予定より早いけど、その分アンタにもバックするからさ」


「チッ、このクソババアが。

また新しいカモを連れてこいよ」


それを聞いた千佳子は騙されていたことがわかり、呆然とする。

千佳子がうまい話というのを友達から聞いて乗ろうとすると、世間には騙そうとする奴がいっぱいいると夫が言っていた意味がよくわかった。

(世間の荒波から私は守られてきたのね)

専業主婦で家のことに専念してきた彼女は世間の悪意を始めて知り、酷くショックを受けた。


もうシェアハウスに帰るのも嫌になり、娘の久里子のところに行く。

そしてこれまでの顛末を語り、娘に言う。

「お父さんも家のことができずに困っているでしょう。

頭を下げて家に戻らせてもらおうかしら」


勝手なことを言う母親に呆れ果てて久里子は言う。

「何を今更。あれだけ啖呵を切って家出してどの面下げて帰るの?」

「そうはいっても何十年も連れ添ってきたし、家の事もあの人は何もできないでしょう。ご飯も外食ばかりで身体を壊しているんじゃないの」


今更に夫の体の心配をする千佳子を見て、ため息をついて久里子は言う。

「じゃあ見に行こうか、お父さんの様子」


そして元の家に千佳子を連れて行く。

ちょうど夕方の食事時だった。

家の近くに行くと人が行列している。


「あれは何?」

そう聞く千佳子に答えずに久里子は更に進む。

すると自宅は改装されて、広い庭のあったところに洒落た小料理屋ができている。そこに人が並んでいたのだ。


「お父さん、あれから孫たちが褒めてくれるのを楽しみに料理に凝ったら、周りに店を出したらと勧められて、退職金の残りでお店を出して大繁盛してるわ。

兄さんの家族が同居して、奈々さんや達司の奥さんの美久さんも手伝って楽しそうよ。

私はお母さんがいなくなって育児と仕事が忙しくてお父さんを放っておいたら、私だけ除け者でこんなことになっちゃった」


久里子は更に千佳子を見て言う。

「そんなわけだから、今更お母さんが入る余地はないの。お母さん、奈々さんや美久さんと気が合わなかったでしょう。

もうお父さんもお母さんのことは口にも出してないし、気にしてないわ」


「今更、文無しになったお母さんを追い出すわけにもいかないし、家においてあげるけど、それこそ家政婦代わりに働いてもらわないと困る。

お母さんを騙した奴らは腹が立つし、弁護士に相談していくらかでもお金を取り戻すようにする。

だけど、私達に相談もせずにいいように騙されたお母さんが一番に反省するべきよ」


娘に説教されて、千佳子は何も言えずに下を向く。

どうやら数ヶ月の愉しみで、これまでに培ってきた家族の絆、信用、お金すべてを失ったことが実感されてきた。

これからの長い老後を気の強い娘の家政婦として家事に勤しまなければならないし、もう趣味の旅行や食べ歩きも行けまい。

それに比べてと、ちょうどお得意さんの見送りに出てきた夫の姿を見る。

仕事が変わったためか前よりも生き生きとして若返ったようだ。

横に二人の嫁や孫の姿も見える。皆、吾郎を信頼し、大切にしていることが見ていてもよくわかる。


(これじゃあ私が夫を解放したみたいね。

皮肉なこと)

千佳子は自分の思ってもみなかった結末に思わず苦笑いして、次に涙をこぼした。





定年退職の方が、奥さんに退職金を半分取られて離婚させられたのを聞いて思いつきました。

噂では聞きますが、実際にはどのくらいあるのでしょうかね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 割と娘も母親と似てて2人してざまぁでわろた
[一言] 妻達のひどいところは離婚を決意してから家事に手を抜きながら内緒で金を貯めつつ退職金が出たら行動に出るその悪辣さですね もちろん旦那は反省するべきところがあると思いますが実質破綻した時期を夫婦…
[一言] あ〜、ご近所にいましたよ「私の人生こんな筈じゃなかった」って捨て台詞吐いて熟年離婚した専業主婦さん。 「アレは旦那さんの台詞よね」と言うのが、知り合い一同の見解ですが。 挙げ句、「子供達と住…
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