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理想の上司とパワハラまがい

「へっ、自分たちから人気のない場所にきてくれるとは、飛んで火に入る夏の虫だな。ボディーガードもいねぇみてぇだしよぉ」


 一番体格のでかい髭面の男が一歩前に出た。


 まじかこれ。


 いつの間に、剣や槍や斧を持った男どもに囲まれてしまったのだろう。


「この闇オークションに参加する金持ちどもは用心深いと聞いていたが、俺たちゃほんとラッキーだぜ」


 聖ちゃんと背中を合わせながら、まずったなと思う。


 ごろつきどもが闇オークションという絶好の機会を逃すはずがない。


「くそ、……どうする」


 万事休すかもしれない。


 俺には【新偉人】というクソステータスしかないし、そばにはジツハフくんと金の亡者だがか弱い女性もいる。


 頼みの綱の聖ちゃんも、聖剣ジャンヌダルクが壊れている今は、ただの妹系少女だ。


 【昼夜逆転しがち】で目くらまししている間に逃げられればいいが、こんなに大勢の人間を一斉に足止めはできない。


 いったいどうしたら……。


「おい、ジツハフの姉」


 俺は姉弟が抱き合っていた方を見る。


「この状況を打開できる方法を一緒にかんが……って、すでにいねぇじゃねぇか!」


 そこには誰もいなかった。


「くそぉ、あいつらどこいった?」


 それに答えてくれたのは、ごろつきの中のひとりだった。


「あいつらは、『お前らの方が金持ってるから』って教えてくれたから逃してやったぞ」


「ふざけんなぁあああああ!」


 あの金の亡者姉弟、今度見つけたらただじゃおかねぇぞ。


 こんな絶体絶命の状況を丸投げしやがって。


「お前ら、終わったな」


 ごろつきのリーダーが俺たちを見下すような笑みを浮かべ――というより怒りをかみ殺すような表情をしている。


 あ、これ、みすみす対象を逃がした部下にキレてるやつだ。


 その怒りも俺たちにぶつけられる理不尽なやつだ。


「誠道さん。私がこいつらを引きつけますので、弱いあなたはその隙に逃げてください」


「弱い言うな! 幼い女の子を置いていくなんて、そんな真似できるかよ」


「おい引きこもりのしょうもない変態男。いったい私のどこを見て幼いと判断したんですかっ! 胸ですかっ? 私はもう中学生ですよ」


「そんなことでキレてる場合じゃねえんだよ!」


「そう騒ぐな。ここにいる全員逃がしゃしねぇって」


 ごろつきのリーダーが剣を構える。


「いや、すでにあんたの無能な部下が二人も逃がしちゃってるだろうが!」


「俺の部下をバカにするんじゃね! 部下のミスは上司の責任だ!」


「こいついい上司になる素質持ってやがんのに、なんでごろつきなんだよぉ!」


 責任を部下に押しつけるでおなじみの日本の上司のみなさーん。


 あなたがたが無駄に高い賃金をもらっている理由を考えたことがありますかー?


「覚悟しろよ。お前ら殺っちまえ!」


「「「おう!」」」


 ああ、これ、終わったな。


 ごろつきたちが俺たちに襲い掛かろうとした――まさにそのとき。


 眩い光があたりを包み込んだ。


 俺はとっさに目を閉じる。


 ごろつきたちも「なんだなんだ?」とざわついている。


「これ……聖ちゃんの技?」


「いえ、私じゃありません……あっ」


 聖ちゃんから驚きの声が上がる。


 恐る恐る目を開けると、俺たちの前に神々しい白い光を放つ聖剣ジャンヌダルクが置いてあった。


 しかも完品。


「……は?」


 目が点になるとは今の俺のことを言うのだろう。


 いや、だって聖剣ジャンヌダルクはまだジツハフくんが持っていた。そもそも壊れていたはずでは?


「まあいい。聖ちゃん! とにかくこれでこいつらを!」


「はい!」


 聖ちゃんが聖剣ジャンヌダルクを拾い上げ、ごろつきのリーダーに向かって構える。


 しかし、ごろつきのリーダーは余裕しゃくしゃくの態度を崩さない。


「へっ、ちょっと驚いちまったが、こんな小娘が、しかもこの大勢相手になにができるってんだ」


「クラスキおやびん!」


 ごろつきのリーダーの言葉を遮って、手下のひとりが慌てたような声を出す。


「なんだよ。チャック」


「この幼く見える外見と白く光る大剣。こいつ、あの【愉悦の睾丸女帝】です!」


「な……に」


 チャックの言葉を聞いたクラスキおやびんは、聖剣ジャンヌダルクを構えた聖ちゃんをじろりと見て。


「たしかに! ひぃいいいい!」


 それまでの威厳が嘘のような情けない悲鳴を上げた。


「……いや【愉悦の睾丸女帝】ってなんだよ! 急展開の最後が睾丸かよ!」


「そうだ。私があの【愉悦の睾丸女帝】だ」


「聖ちゃんはまんざらでもない感じで名乗らないで。二つ名として受け入れないで」


「いいかお前ら。人を襲っていいのはな、人から睾丸をむしり取られる覚悟をしている者だけだ」


 ごろつきどもを鋭い目で睨みつける聖ちゃん。


 いや、あなたはいったいなにを言っているんですか。


 決め台詞なんだろうけど、格好いいと思えないのはなんでなんだよぉ!


「ひっぃいいいっ」


「すみませんでしたっ」


「おい! お前は顔がちょっとだけ中性的だから、取られたっていいだろ!」


「は? ふざけんな! お前こそゲイになってもいいかもなぁって言ってたじゃねぇか! 手術代浮くぞ!」


 クラスキおやびん以外のごろつきたちが慌てふためきながら、我先にと逃げはじめる。


「おいお前ら! 俺を置いて逃げるなぁ!」


 クラスキおやびんが逃げていく仲間を一瞥したそのとき。


「お前は、どっちからむしり取られたい?」


 聖ちゃんは、すでに彼の首元に剣先を向けていた。


「ひっぃぃいっ。どうか、どうか右側だけは、右側だけはぁぁぁぁああ」


 クラスキおやびんも顔を涙でぐじゃぐじゃにしながら逃げていく。


 あの……クラスキおやびん。


 そこはさ、右側だけはじゃなくて命だけは、ね。


「……ふぅ。とにかく、なんとか危機は脱したな」


 俺は安堵の息を吐く。


 過程はどうあれ、【愉悦の睾丸女帝】心菜聖のおかげで、殺されずにすんだ。


「ありがとう聖ちゃん。まさか脅しただけで逃げてくような連中だとは思わなかったよ」


「脅し……?」


 聖ちゃんはぽかんと首を傾げた後。


「まあでも、襲ってくれば正当防衛でいろいろできるチャンスでしたね」


 ニッコリ笑顔でそう言った聖ちゃんを見て、背筋が震えあがる。


 今失言したら【愉悦の睾丸女帝】になにされるかわからないので、俺は黙ることにしますね。

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