私の下着が見たいのですね
その日は朝から雨が降っていて、やる気がまったく出なかった。
こんな日、みんなにもあるよね?
会社や学校にいくとき、雨が降っていたらマジ憂鬱……みたいな。
傘じゃ守れない雨量なら尚更そうだ。
……あ、俺は引きこもりだから雨が降っていようが降っていまいが関係なかったわ。
「でもぼたぼたうるせぇよなぁ。餅かよ」
「そんなしょうもないツッコみは置いといて、誠道さん。今日は闇オークションにいきましょう」
「いくかバカ。ってか、お金はどうすんだよ」
ゴブリン退治でお金は少しだけ貯まった――わけがなくすべて借金返済に充てた。
が、まだ完済はできていない。
その状況でオークションなんていう、大金が狂喜乱舞で飛び交う場所にいくなんてありえない。
「しかも、普通のオークションならまだしも、闇オークションて」
絶対やばい商品のオンパレードだろ。
仮にそんな場所にいって商品を落札できたとして、違法品とか強盗品とかだろ。
「俺、さすがにやだよ。異世界で檻の中に引きこもるのは」
「でも通気性がある分、家より檻の方がましという意見も」
「ない」
「まあそう強情にならずに。頭を柔らかくして考えてみましょう。悪行はばれなきゃ悪行じゃないというのが世界の常識です」
「罪悪感を持っているのが人間としての常識ですけど?」
「引きこもらないのが人間かつ世界の常識ですけど?」
「それは言わない約束だろ! そもそも俺たちにはお金がないだろうが」
「お金の心配なら必要ありませんので、ご安心ください」
「……どういうこと?」
まさか宝くじでも当てたの?
「なにを驚いているのですか? 私は優秀な美人メイドですよ?」
優秀かどうかは疑問が残るが、今はそんなことどうでもいい。
金だ、金。
自慢げに胸を張るミライはつづけてこう言った。
「実はですね、借金をすればタダでオークションに参加できます!」
「よくそれで優秀なんて言えたなぁ! とにかく、俺はオークションなんかにはいかないからな」
俺は強めに宣言して、ベッドでふて寝を決め込む。
「そうですか。かしこまりました」
ミライは残念そうにそう言った後。
「はぁ。せっかくどんな人でも読むだけで必殺技が覚えられる魔本が出品されるという情報を得たというのに。しかも、覚えられる魔法が【服が透けて見える】という魔法なのに」
「よし! 今すぐ出発だ!」
すでに廊下に出ている俺は、部屋の中でぽかんと突っ立っているミライに、早くしろと視線を送った。
なにちんたらやってんだよ。
俺は見ての通り、さっきからずっと準備万端でいるってのにさぁ。
「おい、早くしろってミライ。こうしている間にもオークションの開始時間は刻一刻と迫っているんだぞ。遅刻して会場に入れなかったらどうするんだ」
「誠道さん……」
ミライがひどく冷たい目をしている気がするけれど、そんなのを気にしている場合ではない。
「そんなに【服が透けて見える】魔法で私の下着姿を見たいのですね。……えっち」
ミライは顔を赤らめて、自分の大事なところを隠そうと腕を体に巻きつかせる。
「勘違いするなよ。俺は多くの必殺技を習得したいという、純然たる向上心から行動を起こしているのだよ」
「変な言葉遣いになっていますけど?」
「なにを言っているのだね。紳士になったと言いたまえ」
「変態紳士の間違いでは?」
「いいかねミライくん。これは最善の策なのだよ。服の中を透視できれば、誰かが暗殺にきてもすぐに凶器を見つけることができるじゃないか。それに、僕みたいな品行方正清廉潔白謹厳実直な男以外の、いやらしい思想を持った者がその能力を手に入れてしまえば、世の女性は安心して外も歩けない! ああ、なんと嘆かわしいことだろう」
「でも、お金がないのでだめなんですよね?」
「これは将来への投資だよ。読むだけで技を身につけられるんだ。若いうちは自己投資を惜しむなって、数多くの著名人が推奨している格言だからね」
「誠道さんがインフルエンサーの言葉を都合よく解釈して謎の自己肯定に勤しむ人だったとは。まさにザ・ニートじゃないですか」
「さぁいこうミライ! この街の秩序が乱される前に! 男には絶対に譲れないときがある!」
「私の裸を見るためですか?」
「そうだ! ……じゃなくて街のすべての女性の裸を! ……でもなくてこの街の秩序を守るために!」
あぶないあぶない。
危うく本心が漏れるところだった。
こうして俺は、「私以外のも見たいのですね……」と、謎のため息をついているミライを引き連れて、この世界の秩序と女性の安全安心な生活を守るべく、闇オークション会場へと向かうのだった。




