缶蹴りで友達が持ってきた缶コーヒーがどう見てもただのお姉さん
「ハヤト! 缶蹴りやろうぜ!」
「オッケー!」
学校が終わると、オレ達はいつも近所の公園で缶蹴りをするのが日課となっていた。この日はオレと悪さ仲間のヨシオ、ユウヘイ、マサシの四人だ。
「ちょっと汚ねぇけど、草むらに空き缶落ちてたからこれにしようぜ」
「缶コーヒーか? 大人ってやつはチキューを大事にしねーのな」
ヨシオとユウヘイが空き缶を足で蹴飛ばす軽い音が聞こえた。
ただ、四人が集まりヨシオが足げにしている物が、どう見てもお姉さんにしか見えなかった。
「鬼決めすっぞー!」
「ウィーッ!」
「ッシャー!」
どうやら三人にはそれがお姉さんに見えていないのか、オレの目が腐ってしまったのか、はたまたお姉さんで缶蹴りをしないといけない法律がいつの間にか出来たのか。さっぱり分からない。
「──ハヤト! なにぼーっとしてんだ!? ははぁん。さてはお前、今日の給食のプリンじゃんけんに負けたの結構きてんのか!?」
「お、おぉ……ああ、まあな」
「ダッセーなおい!!」
「ハハハーッ!!」
そうこうしている間にも足げにされるお姉さんは、膝を抱えて横になり、少し悲しそうな顔でオレを見ている。
「ボク……アタイが見えるのかい?」
「……!?」
聞こえた。ハッキリとお姉さんの声が聞こえたが、それはすぐにじゃんけんのかけ声にかき消された。
「じゃーん、けーん、ぷぉい!!」
「シャーオラッ!!」
「ウィーッ!」
ヨシオの一人負け。
ヨシオはこの世の終わりのような叫び声をあげた。
「うっし! ハヤト蹴れよー」
「──えっ!?」
体育座りのお姉さんと目が合う。まるで感情の起伏を感じさせない、とても寂しい目でオレを見てくるお姉さん。思わずつばを飲んでしまう。
「ボク、蹴りなよ。アタイの事は気にするな」
「……そ、そんなっ」
とてもそんな悪いこと、出来るわけがない。
見ず知らずのお姉さんを蹴り飛ばすだなんて……!!
「アタイは所詮、小汚い缶コーヒーが化けた姿なのさ。見えない方が普通なんだよ……ちょいと寂しいけどね」
「お姉さん……」
「大丈夫さ。アタイ、こう見えて微糖なんだけど、世の中そんなに甘くないの……知ってるから」
この前お母さんがお父さんに言っていた。微糖は実はめちゃくちゃ甘いって。
でも、お父さんはブラックコーヒーを飲めないんだ。
「ハヤトが蹴らないなら俺が蹴るぜ!?」
──カコンッ
「あ゛ーっ!! 脛! 脛を蹴るなってば!!」
お姉さんは脛を押さえながら公園の隅へと飛んでいった……。