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09話 コルナン氏の行方

 またまたタイトルを変えました。

 昨夜はご主人様の婚活パーティー。

 ま、結果はいつもの通りなんだけど、例の子爵公子様のご機嫌が悪くて大変だったそうです。留守番していたボクは、その原因になってそうな話を聞いてきました。


 「【蒼月の旅団】、臨時メンバーを入れて、どうにか子爵閣下の依頼をやりきったみたいですよ。なんでも『シルバーハウンドの毛皮を傷めずに一匹狩れ』って依頼だったそうです」


 シルバーハウンドは狼種が魔物化したモンスター。

 一般の狼とは牙の鋭さやパワーが増大した他に、毛皮が銀色に輝き、剣も矢も魔法も通りにくくなっているBランクモンスターです。

 とにかく厄介な害獣なのですが、その銀に輝く美しい毛皮は高級品とされ、貴族は傷のないそれを求めて大金をはたくそうです。


 「ちょうどシルバーハウンドがボスの狼集団が出現して、人や家畜に被害の出ている村があったそうです。で、二つのクエストを同時攻略したそうです」


 ここまで聞けば【蒼月の旅団】は報酬もギルド評価も上手く稼いだように思われますが。


 「ふぅん、あの状況からよく持ち直したわね。ま、アウグストもあれで切れ者だし。子爵様のおぼえもめでたく、【蒼月の旅団】はこれから強パーティーになるわよね。チッ」

 「それが、そうもいかなかったみたいなんですよ。今【蒼月の旅団】、クエストのせいで財政難になったそうです」

 「え? でも私が【蒼月の旅団】に居たころ、同じ依頼を受けたけど成功したはずよ。今さら難しいクエストでもないでしょう」

 「それはボクが囮になってうまく罠に誘導したからです。他に狼と追いかけっことか出来る人材、いると思います?」

 「あっ、いないわ。どうなったの?」

 「いちおう獣害討伐としては、シルバーハウンド率いる十匹の狼達を退治できたようですけどね。でも結局乱戦になっちゃって、やっとシルバーハウンドは倒したそうです。毛皮をボロボロにして」

 「あちゃー。ま、命あっての物種。子爵様のご機嫌よりパーティーの安全よね」

 「いえ、アウグストさん。最初『シルバーハウンドを無傷で倒せ』なんて指示したそうなんですよ。そのせいでパーティーの被害は甚大。アウグストさんはじめメンバーのほとんどが重症を負って、しばらくクエストに行けなくなったそうです」

 「ひ……悲惨だわ。それは『ざまぁ』ってお酒飲めないわね」

 「さらに! 借りてきた臨時メンバーが死亡。無能な指示を出したアウグストさん、高額の賠償請求をされたそうです」

 「もう追放された恨みも消えるくらい悲惨ね。こうなるとルナリアが心配になってくるわ。あの子、そんなパーティーに居て大丈夫かしら?」


 やはり気になったので、二人してギルドへ行ってみることにしました。

 来てみると、ギルドの片隅にルナリアさんとサリエリが居こごち悪そうに座っており、その向かいには何故かカスミさんが居ました。


 「カスミくん、どうしてここに居るの? それに【蒼月の旅団】は二人だけ? 他のメンバーはどうしたの」

 「ああ、【蒼月の旅団】がヤバいことになってるって聞いたんでな。来ちまった。で、今バルカンが代表でマスターと話してる最中だ」

 「バルカンが代表? リーダーのアウグストはどうしたのよ」

 「………………逃げちゃった」 


 かすれるようなルナリアさんの声。

 え? まさか、この状況の責任もとらずにアウグストさんが?


 「未熟はしょうがないがな。こういった踏ん張りどころで逃げるんじゃ、クズだと言わざるを得ないな。アウグスト、バカ野郎が」

 「ふふん、ずいぶん同情的だなカスミ。この【蒼月の旅団】のリーダーに何か思い入れでもあるのか?」

 「……いや、ただの一般論だ。それよりサリエリ、お前はどうすんだ?」

 「僕はもともと半年間の期間限定メンバーだ。契約期間より早いが、リーダーが逃げてしまったのなら抜けても問題ないだろう。すでに目的も達したしな」


 後で知ったのですが、アウグストさんは【蒼月の旅団】を強パーティーにするために、金銭で高ランク冒険者をスカウトしたり、サリエリくんの伝手で貴族界に縁を作ろうとしてたようです。

 その工作に多くの金銭を使ったため、【蒼月の旅団】にはかなりの借金があることが発覚。ご主人様を追放したのも、少しでも支出を減らすためだったようです。

 さて、その責任者のアウグストさんが逃げてしまったため、借金は残りのメンバーにかぶせられてしまいました。

 ルナリアさんとバルカンさん、どうするんでしょう。


 「目的? そういや公爵家坊ちゃんのお前が、冒険者なんて端下仕事やっている理由を気にはなっていた。教えてくれるか?」

 「フ……フフフッ、いいだろう。僕は気分がいい。特別に教えてやる」

 「テメェのパーティーのやばい状況で『気分がいい』って……まぁいい。で、何だ?」

 「僕の目的はSランク冒険者エドガー・コルナンの行方だ。そこで彼の元居た【蒼月の旅団】で記録を調べていたのだ。彼の行動範囲、使っていた拠点なり人脈なりをな」

 「ええっ! どうしてボスのことを⁉」「コルナンさんとサリエリ君に何が⁉」「キュキューーン!」


 皆の驚く展開! 公爵家公子がなぜにコルナンさんを⁉ 

 いったいどんな関係が?


 「フフフ、そこは教えられない。だが! 僕はここでの地道な調査のすえ、ついにエドガー・コルナンの行方を突き止めたのだ!!!」

 「ええええっ!!!?」「あの行方知れずだったボスを⁉」

 「………………ソレハスゴイ」


 カスミさんの驚き方は独特ですね。

 目が点になって呆気にとられたような表情で固まっています。


 「はーっはっはカスミ。さすがのお前も仰天したようだな。そんな呆けた表情、はじめて見るぞ。僕の調査力に驚愕したようだな」

 「……ああ。生まれてはじめてお前を尊敬した。あの誰しもが行方を追えなかった、エドガー・コルナンの居場所をつきとめるなんざ、じつに大したもンだ」

 「フフフそうだろうそうだろう。まぁ皆も待って居ろ。近くエドガー・コルナン氏に逢わせてやる」

 「出来たら大したものだ。……いや、殺すんじゃないのか?」

 「なぜ僕がコルナン氏を殺すのだ? 僕は彼と交渉するのだ。そして彼のもつアレを譲り受ける! 世界を変えうるという伝説のアーティファクトをな!」

 「……そうか。ま、がんばれ。成功を心から願っているぞ」

 「うむ。さて、ここまでつき合ったが、もういいだろう。僕は行く」


 サリエリさんは意気揚々とギルドを出ていきました。

 でも彼の爆弾発言で、場は少しだけ明るくなりました。

 

 「本当にボスが帰ってきたら、この状況も何とかしてくれるかもしれないね」

 「うん、そうだよね。コルナンさんはSランクだもの。何とかするよね」


 そんな喜んでいる二人の様子を見てカスミさんは小さくポツリ。


 「ああ、やっぱ何とかしなきゃなんねーか」


 どういう意味でしょうね?

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