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02話 謎の少年

 「セリア。パーティーの再編にあたって、君には【蒼月の旅団】をやめてもらう。悪いな」


 慰労金としてそこそこなお金の入った袋(慰労金)をご主人様の前に出し、そんな事を言ったのは【蒼月の旅団】のパーティーリーダーのアウグストさん。

 冷静に物事を進めていくクレバーな人だけど、こんなキビしいこと言う人とは思わなかったなぁ。


 「ちょ、ちょっと! どういう事です? 何でパーティーの再編をするのに、私が除名されなきゃなんないんです! 役割はちゃんと果たしているはずですよ!

 「わがパーティーはエドガー・コルナンさんがリーダーだった頃のような強パーティーに復活することを目標にする。だが我々にはSランクの彼のような力はない。そこで外部から補強をすることにした」 


 ここでボクたちの所属する【蒼月の旅団】の創設者を説明します。

 彼の名は【エドガー・コルナン】

 世界でも数少ない【Sランク】を所持した冒険者で、数々の伝説不可能クエストを成し遂げ伝説を打ち立てた凄い人なのです。


 年を取ってクエストに出れなくからも【蒼月の旅団】の顧問のような形でいたのですが、ある日行方不明となりました。

 原因は不明で『誰かに消されたんだろう』という噂は流れ、現在でもその行方はようとして知れません。


 「紹介しよう。彼が君の代わりにパーティーに入る【サリエリ・クロノベル】君だ」


 隣の席にぶっきらぼうに座っている、まだ少年といっていい年頃の彼。

 ただ、ものすごく品の良さそうな、一目で高貴な所の生まれであろうことがわかりました。


 「まだ子供じゃない! こんな子を入れるために私は追放されなきゃなんないの⁉」

 「たしかに冒険者としての経験はまだだな。しかし彼はラカン魔法学院高等生なのだが、この年で正魔法師の称号を得ている。それに”クロノベル”の姓に聞き覚えはないか?」

 「クロノベル……まさか公爵⁉」

 「そうだ、彼はこのパラスディア王国でも屈指の名門家系クロノベル公爵家の血縁者だ。それだけで君より彼をとった理由がわかるだろう?」


 たしかに公爵家の後ろ盾が出来れば【蒼月の旅団】は大きく成長するでしょう。

 こりゃご主人様に勝ち目はないな。


 「クッわかったわよ! その坊やの力で、せいぜい強パーティーになればいいんだわ! 行こ、ラチカ」


 セーラは乱暴に袋をつかみ席を立ったので、あわててついていく。

 明日からパーティー探しかぁ。もらったお金で生活が持つ間に次のパーティーを見つけないと。

 ご主人様も、それでヤケ食いなんかしなきゃいいけど。


 「ああ、待ちたまえセリア。君の奴隷のラチカはパーティーで引き取ろう。無論、彼女を購入した金額は割り増しで支払う」


 はい? たしかに除名はご主人様だけでボクの名前はなかったけど、それってボクは残るってことなの? 獣人で奴隷なこのボクだけ?


 「はぁ? なにを言ってんのよアウグスト。彼女は私の家族よ!」

 「だが、この先二人分の食費滞在費などはキビしいだろう。彼女を捨てる前に私たちが引き取ろうというのだ。ほら、この通り金も用意した」


 アウグストさんは、さっきの慰労金の倍ほどの金の入った袋を並べて言います。

 あ、ヤバイ。ご主人様にこんなモノを見せたら、たちまち理性なんてふっ飛んじゃう。

 いやしかし、家族とまで言い切ったボクを売るなんて……

 ああっ、ダメだ! フラフラとお金に手を伸ばしかけてる!!


 「ご主人様。いま縫いかけのドレス、自分で子爵閣下のパーティーまでに完成できますか?」


 ご主人様はハッとしたように手を引っ込めました。


 「余計なお世話! アンタに心配されるほど落ちぶれちゃいないわ! もう話しかけないで!」


 出来るなら、即座にこのセリフを言ってほしかった。


 「行くわよラチカ! こうなったらこのお金でうんっとオシャレして、何としても子爵令息をオトすんだから!」

 「ええっ! せめて次の収入のアテが出来るまで節約しましょうよ」


 踵を返して店を出ようとしたボクたちでしたが、その前に二人の大男が立ちふさがりました。


 「ちょっと! なに道をふさいでんのよ、スタングレイにガベイラ! 帰るんだからどいてよ!」

 「ああ、そのアライグマ娘を置いていったなら好きに帰っていいぜ。用があるのはそいつだけだからよ」

 「今から腕の良い斥候職見つけんのは骨でな。それにラチカなら狭い場所もスイスイ通っていくんで、なかなかソイツの代わりになるようなのは居ないんだよ」


 金づくがダメなら腕づくか。

 アウグストさん、なかなかえげつないです。


 「アンタら……ラチカに手を出したら許さない!」

 「っつたく。手間取らせんなよ。ほら、渡せ……フギャッ⁉」


 と、ボクに手を伸ばしかけていたガベイラさんの顔にお皿をぶつけた者がいました。


 「チンピラ兄ちゃんたち。女に飢えてんなら、ちゃんと店の女を買いな。シロウト女襲うなんざ、ミジメすぎて見てられないぜ。お前さんたち、死んだほうがいいよ」


 そんなカッコいいことを言って席を立ったのは、まだあどけない顔をした少年。


 「ええ? ちょっと君! 何してんの⁉」


 ご主人様の言う通り、いくら何でも無謀じゃないですか?

 二人とも君の倍くらいの背丈で、戦闘用筋肉で膨れ上がった現役冒険者なんですよ。


 「……おい。俺らにこんなナメたマネして、どうなるかわかってんだろうな?」

 「ああ。モテないデカブツ二人、お嬢ちゃんにゴメンナサイして尻尾巻いて出ていくんだろ。さっさとやれよ。ちゃんとあやまれるか見ててやるから」


 うわああ。どんだけ命知らずなの、この子。


 「きっさまあッ! 死んだぞテメェ!!」

 「ちょっと! 店で暴れないで! 店が壊れちゃう!!」


 悲鳴を上げる店主に、二人の伸ばす手をヒョイヒョイかわしながら少年は応えます。


 「わかってる。オレは紳士なんだ。店に傷一つつけずバカ二人眠らせてやるさ」

 「ああっ!!? やってみろテメエ!! ……うえっ⁉」

 「あん? どういうつもりだ?」

 

 さらに激しくぶつかり合おうとする両者の間にさらに割ってはいった者がいました。

 さきほど【蒼月の旅団】に新加入したサリエリという少年。

 それがいつの間にかそこに居て、杖を巨漢二人に突きつけていました。


 「お、おい。どういうつもりだ? 何でアンタがその小僧の側につくんだよ。同じパーティー仲間だろ?」

 「だよなぁ。お前さんがオレの側につく日が来るなんて思いもしなかったぜ」

 「つくわけないだろう。君と僕とは永遠に敵同士だ、カスミ」


 【カスミ】というのが、その少年の名前のようです。

 サリエリ君とは年も近いし、何かしらの知り合いでしょうか。


 「アウグストさん。僕のパーティー加入の件、少し考えさせてもらいたいですね。このチンピラのような振る舞い、あまりに下品過ぎる。僕は君らと同一視されるのが嫌になってきた」


 するとすぐさま、アウグストさんは「パンパン」と手を叩いて立ち上がった。


 「悪かったよセリア。二人を止めるのが遅れて申し訳ない。スタングレイとガベイラも悪気がったわけじゃない。少し酔って粗暴な真似になってしまっただけなんだ。ともかく君とラチカが家族同然というのがわかった。もう引き留めたりしないから、自由に行ってくれ」

 「ふんっ、悪気ありまくりじゃないの! もう他人よ」


 そしてご主人様はカスミという少年に向き直ります。


 「どうもありがとう、助かったわ。でも大丈夫? あいつらの恨みを買っちゃって。あの二人、ウチの……じゃなくて【蒼月の旅団】の主力メンバーで、本当に強いのよ」

 「なに、オレのことは心配いらない。軽くいなすさ。それより礼を言うなら、少し話を聞いてくれないか。仕事の話がしたい」

 「え、ええ? 仕事? 君が私に?」


 こんな少年にCランク冒険者の依頼費用が出せるのでしょうか。

 とはいえ相手は恩人。店を変えて話をきくことになりました。

 店を出る前、カスミ君はサリエリ君に声をかけます。


 「礼を言うべきかなサリエリ。お前さんも学友への友愛が芽生えたのかな」

 「礼などいらん。そして平民相手にそんな感情を抱くことはない。カスミ。お前ならあの二人に何一つさせず沈めることが出来ただろう。だが、それをされたら、この【蒼月の旅団】の看板は地におちる。こんな形でこのパーティーの名に傷をつけるわけにはいかない。僕はしばらくここに席を置かなきゃならんのだからな」

 「ふふん、どんな悪だくみをしてんのか知らんが、しっかりやれ。さて、こっちも目当ての人間が見つかった。じゃな。今年の筆頭選抜のお前、けっこう手ごわかったぜ」

 「クッこれで三年連続の負け越し……いったい何なんだお前は。専属の魔法の師も雇えないお前が、なぜそんなに強い?」


 何故か、公爵家(ゆかり)という貴族最高位の血統をもつサリエリ君は、平民のカスミ君を高く評価しているようです。

 いったい彼は何者なのでしょう?

 

 カスミが何者かは【Sランクチャイルド】を呼んでね。

 この話はSランクチャイルドの二年後の話です。

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