19話 賢者の杖
またまたタイトル変えました。ま、試行錯誤の途中ということで。
「来たれ【ジャックオブクラブ】」
アルキメデスさんの手に、古い大きな杖が召喚されました。
「【ジャックオブクラブ】またの名を【賢者の杖】ニャ。その能力はあらゆる魔法の術式を理解することが出来るようになるニャ。現在の人族・亜人の魔法は元より、これを作ったという古代エルフ族の魔法ですらもニャ」
「それはすごい。ボクの【キングオブスペード】は武闘家のあらゆる達人の技を使えるようになるんですが、そちらの方がいろいろ出来そうですね」
「ああ。たしかに難解そうな宝物庫の魔法錠も簡単に開けたな。だがそれにしちゃ、オレごときと戦わずに逃げ回ってばかりだったな?」
「う、うん。まぁ、その……理解はできても、使えるかは別問題でして……ニャア」
「あっ! もしかして魔力が低すぎて、高度な術は使えないんじゃ?」
「ニャッ!」
ボクも【キングオブスペード】の技の中で、パワーが必要なものは使えません。
同じような弱点が【賢者の杖】にもあるのでは?
「それだな。獣人は竜人なんかの一部を除いては概ね魔力が低い。身体能力の優れる獣人が人族に敗北し続けたのもその辺が原因だが。それがハイスペックな杖なんぞ持っても、使いこなせるわけがねぇ」
するとアルキメデスさんは「ガバッ」と土下座しました。
「僕たちの負けニャ! 【ジョーカー・ジョーカー】は差し上げますので命だけは!」
うわあ、すごく悲しい。
伝説のガンダーラ超獣人のこんな姿だけは見たくなかった。
「ふう、ようやく終わったのね。鉄球が飛び回ってて、死ぬかと思ったわよ」
巻き添えをくわないよう避難させていたご主人様も出てきて、ようやく一息。
「ええ、終わりました。最後に予想外の獣人さんの介入とかありましたが、結果として目標は全部達成しましたよ」
「やったわ! 借金もメディシアン・カルテスのボスや幹部連中の賞金でなくなったのね。命をかけた甲斐はあったわ!」
カスミさんも【ジョーカー・ジョーカー】を手にして上機嫌。
「ああ、よくやってくれた。約束通り学院のコネを総動員して、姉さんのムコを探してやる。幸せにしてくれる野郎を用意してやるよ」
「イケメンね! それから周りに自慢できるくらいの身分と収入と高身長!」
「ご主人様。どうしてこう、行き遅れの未来が見えるような、ヤバイ女のような事言っちゃうんです」
「崖っぷちが条件出してんじゃねぇよ。崖から転落して臓物ぶちまけろ。んで、モンスターのエサにでもなっちまえ」
さて、気になるのは新勢力のガンダーラ。
鉄球の下から独眼烈さんを助け出しヒールをかけているアルキメデスさんに、カスミさんは聞きます。
「さて、こうして【ジョーカー・ジョーカー】も手に入れたし、どうでもいいが。なぜガンダーラの連中がこれを欲しがる? これが何なのか知っているのか?」
「たいへん危険なアーティファクトだということだけは聞いていますニャ。カスミさんは、これが何をもたらすものなのか知っていますかニャ?」
「いや、オレも似たようなモンだ。ただ、義理のある奴がコレは永久封印せねばならんと言って、持ち主を調べあげてな。それがここメディシアン・カルテスだったわけだ。で、もう一度聞くが、ガンダーラはなぜコレを手にしようとした?」
その質問にアルキメデスさんは気まずそうに沈黙。
ただ、何やら真剣そうな顔が何かを物語っているようです。
「…………ま、無理に聞き出す気はねぇよ。ただこれは、予定通りある人の元で永久封印させてもらう。二人とも見逃すんだし、恨んだりするなよ」
ですよね。誰しも事情はあるものですが、それを聞かないのも互いの距離感というものでしょう。
「待ってくださいニャ! 事情をお話ししましょう。ガンダーラがその【ジョーカー・ジョーカー】を求めた理由を」
あ、相手の方から距離感をつめてきました。
「いや、やっぱいいや。どうも、そっちの事情にオレらを巻き込もうとしている気がする。『余計なことに首をつっこまない』。この世界で長生きする秘訣だ」
「ガンダーラは、とある大貴族に狙われていますニャ。ただその貴族は、そのアーティファクトをたいへん恐れていますニャ。だから、これを所有していたメディシアン・カルテスにも手を出せないでいたニャ」
なるほど。そのメディシアン・カルテスが崩壊したので、今度は直接自分らが所有し、その貴族を牽制しようと画策したわけですね。
「だから、聞きたくねぇって。とにかくコレは永久封印だ。ガンダーラを守る手段は他に考えるんだな」
「僕をカスミさんの奴隷にしてください! 大きな術は使えなくてもたいていの術は無効化できます。小技の術もたくさん使えます!」
「いらねぇって。『その代わりに何かしろ』って話になるんだろう? こっちは大きなヤマ終らせて祝杯あげてぇんだ。何の事情か知らんが、自分で何とかするんだな」
「そこを何とか! ねぇ”エドガー・コルナンさん”」
「―—!? テメェ!!」
反射的に「バシッ」とご主人様の耳をふさぎます。
何で、アルキメデスさんがそれを?
「ちょっとラチカ。何で私の耳をふさぐのよ?」
「申し訳ありません。ちょっと聞かせられない話がはじまってしまいました」
カスミさんは用心するようにアルキメデスさんから距離をとります。
「おそらくは心を読む魔法だな。オレに縋りつきながら読んでいた、といったところか。しかたねぇ、少しだけ聞いてやる」
なかなかに油断のできないネコさんです。
「僕たちガンダーラも、自然の要害をたよりに引きこもっているばかりでは、仲間と土地を守れないニャ。だからこうして人族の世界に出て、奴隷に身をやつしながらガンダーラを護るべく工作をしているニャ」
「メディシアン・カルテスの奴隷になっていたのはそのせいか。ここの戦闘獣人奴隷は強いと有名だったが、まさかガンダーラの連中だったとはな」
カスミさんの作戦はそれらを避けるべく、園遊会を狙いました。
要人の中には獣人を嫌う人も多く、園遊会の護衛には使わないだろうと踏んだのです。
「んで、ガンダーラは誰に狙われているっていうんだ。そこは険しい山奥の僻地だろう。そんな場所をとっても、利用のしようがないと思うが?」
「その名は【クロノベル公爵】ニャ。国政に意見して王国騎士団や大兵力を送り込める立場なだけに、非常に厄介ニャ」
「クロノベル……か。また、その名が出るとはな」
カスミさんはなぜか苦々しそうに、顔を歪めました。