18話 ガンダーラ超獣人
なんか、またタイトル変えた。気分で。
ブオオーーンッ ブオオーーンッ
ボクは現在、トラ獣人の独眼烈さんと戦闘の真っ最中。
といっても、彼の振りまわす鉄球から逃げてばかりですが。
「ところで独眼烈さん、ボクたち何で戦っているんです? もうメディシアン・カルテスは終わりっぽいですが」
「ここらに倒れている臥獣ども、お主が全滅させたと言ったな? その力を見てみたいのよ。いつまでも逃げていないで、いいかげん攻めてきたらどうだ」
「そうしたいんですが、隙がなさすぎです。鉄球を攻めだけでなく防御にも使っている。まさに難攻不落そのものな戦闘技術です」
「フフフ、我の強さがわかるか。もう一つの理由を言えば、今しばらく厄介そうなお主を足止めすべきと判断した。アルキメデスが我らの目的を果たすまでのな」
「目的? それは……」
その時、屋敷の方から何者かがこちらに向かって駆けてきました。
先頭は小柄なネコ獣人。そしてそれを追っているのはカスミさんです。
「おーい独眼烈さーん! 助けてえええっ!!」
「む、アルキメデス?」
「ラチカ、そのネコ獣人をつかまえてくれ! そいつ、例のアーティファクトを持っている!」
そのネコ族さんの手を見ると、たしかに道化の仮面を持っています。
「了解です。ボクからは逃げられません!」
「ニャッ⁉」
そのネコ族さんの動きを読み、すばやく前に回り込みましたが。
ブウウウンッ ドオオオオンッ
「うわっ! 独眼烈さん!!?」
鉄球が、ボクとネコ族さんの間を阻むように落ちてきました。
こんなにも正確に鉄球を操る技術、やっぱり独眼烈さんは只者じゃありません。
ボクを抜いたネコ族さんは独眼烈さんの背後へ。
「フフフ、形勢逆転にゃ。この独眼烈さんは、ガンダーラ超獣人の中でも『三宝星』と呼ばれる最強格の武人! 僕は鉄壁の要塞に逃げ込んだに等しい」
息を切らしてカスミさんがボクの所に来ました。
「カスミさん。【ジョーカー・ジョーカー】があのネコ族さんに奪われたんですか?」
「ああ。そしてどうやらアイツも【シャッフルレガリア】のひとつ賢者の杖【ジャックオブクラブ】の所有者らしい。もっともそれにしちゃ、セコイ魔法しか使わないで逃げ回るだけだが」
「しかし……まさかあの【ガンダーラ超獣人】の人だったんですか。どうりで独眼烈さん、強いはずです」
「ああ。まさかあの獣人伝説のそれを見ることになるとはな」
――ガンダーラ超獣人。
その起源は人族による獣人領域の大侵略時代末期にはじまる。
人族の支配を良しとせずその権力に抗わんと誓った獣人の豪傑・名将たちは、前人未踏のガンダーラ山脈の山奥深くに集い新天地を作った。
人族王家は獣人社会の完全なる屈服をもくろみ過去幾度となくガンダーラ山脈に大軍を送りこんだものの、彼らは自然の利をたくみにいかした一大要塞を築きあげ、人族の軍をことごとく撃破したという。
以来、ガンダーラ山脈。そこは獣人最後の領域となる。
そこでは世界各地から集結した獣人武術家たちが、厳しいガンダーラ山脈の自然環境の中でその生死を賭して肉体・精神を徹底的に鍛えながら、凄絶なる武術の修行・研究が行われている。
それによって生まれた秘技の数々と想像を絶する圧倒的な戦闘力をもった彼らは、ひとりで兵士千人分に価すると畏怖された。
彼らは畏敬をこめ【ガンダーラ超獣人】と呼ばれる。
――ミンメイ御伽衆見聞録『脅威の超獣人住まう土地ガンダーラ』より――
戦いながらも、どこかじゃれ合いのようだったボクと独眼烈さん。
ですが、間に【ジョーカー・ジョーカー】という引けない獲物が入ったことで、一気に剣呑な殺気が漂います。
「ラチカよ。我ら【ガンダーラ】につく気はないか? でなければ本気を出さざるを得んが」
「そちらこそ、そのネコ族の人をかばうつもりですか? その方の持っている仮面を渡していただけなければ、こちらも本気を出しますが」
「フッ、残念だ。やはり互いに生死をはかる天秤に乗らねばならんようだな」
「『生きるは自分に天秤を傾けたひとりだけ』……そういうのって大好きですよ」
「我もだ。いくぞ!」
独眼烈さんは超重量の鉄球を信じられないほど激しくふりまわします。
ブオンッブオンッブオオオオオオッ
「来たれ【キングオブスペード】!」
「なにッ⁉」
かつてない殺気に、反射的に覇王の槍を召喚してしまいました。
そして鉄球に対抗するように槍を頭上に回転させます。
「槍…? いや、あれは大剣のはずニャ。それにあれはもはや力を使いはたして二度と復活できないはずニャ」
アルキメデスさんは何かとまどっていますね。ま、気に掛ける余裕なんてありませんけど。
「なんだ、得物を召喚できるのか。でありながら今まで我と素手で戦っていたのか? あきれた奴だ」
「ええ、まぁ。この槍はちょっと特別なんで、あまり使いたくはなかったんですよ」
「舐められたものだ。ではいくぞ! 【ガンダーラ撞球跳乱無限砲】!!」
ビュオオオオオウッ ビュンッ ビュンッ ビュオオオオオオウッ
超重量の鉄球が信じられない速さで飛び回ります。
このボクのスピードすら上回る速さ!
かわし切れない! ならば、ただ正面からうち破るだけ!
「武神流【円天動地反射隔】!
相手の動きを見切り、その力の向きを変えて流す技です。
ガキィィィンッ
回転させた槍を、飛んでくる鉄球の端にぶつけます。
超スピードの鉄球を流し力の向きを変え、回転する動きに変えました。
すると、どうなるかというと……
ギュンッギュンッギュンッ………
「にゃッ⁉ そんなバカにゃ!」
「信じられねぇ……」
「ぐおおおおおおッ! 引っ張られる!!」
鉄球は空中でギュンギュン激しく回転してます。
鉄球の威力を遠心力に変えて彼の技を破りました。
でもそれで浮いてしまうなんて、なんて威力だったのでしょう。
そしてそれに繋いだ鎖を持っている独眼烈さんは、それに引っ張られて引きずり回されています。
「ズザザッ」「ズザザザザアッ」と可哀そうにひきずり回されている独眼烈さん。
悪いけど、これも勝負。
「ごめんなさい」
鉄球を槍で「コン」と突いて回転の勢いを落とします。
ドッゴオオオオオンッ
「ぐわああああああッ」
哀れ、鉄球は重力そのままに落下して、独眼烈さんを押しつぶしてしまいました。
「ど、独眼烈さんが破れた? ガンダーラ超獣人でも【三宝星】と呼ばれた武人なのに!」
「それじゃアルキメデスさん。シャッフルレガリア同士、戦いましょうか」