17話 宝物庫の中に【カスミ視点】
さて、メディシアン・カルテスの征圧が終わったならば、ヤツラの抱えているお宝をちょうだいだ。
しかしここで分配の件はきちんとしておかないと、血みどろの内紛が起きかねない。
「それじゃ、もう一度取り分の確認をするよ。バブロはじめメディシアン・カルテスの連中にかけられている賞金はアンタら【蒼月の旅団】の分。メディシアン・カルテスを潰した功績と、屋敷にある書類やら財産、アーティファクトなんかはこっちのもの。間違いないね?」
「忘れるな。オレのスポンサーの取り分があるだろう」
「……ああ、そういや一つだけアーティファクトを渡すんだったね。たしか道化の仮面……のアーティファクトだっけ?」
「そうだ。この作戦を立てられたのも、スポンサーが調べた情報のおかげだ。ちゃんと成果は渡さないとな」
「何者だい。バブロの動きや居場所をこうも正確に知るなんざ、ただ者じゃないね。メディシアン・カルテスが総力をあげて隠してたろうに」
「あまりそいつを知りたがるな。共和派に関係はないし、首をつっこめば面白くない事になるだけだ」
「まぁいいさ。たしかに余計な好奇心なんかもたげる場合じゃないからね。まずはお宝を拝みたいところだけど、それが簡単じゃないんだよ」
話をしながら階上のバブロの部屋へと向かった。
しかし階段を上がるにつれ、庭園の方から「ドシンッドシンッ」とけっこうな重量物の落ちる音が聞こえてくる。
「おいおい。庭じゃずいぶんなバトルをやらかしてるな。これは大型モンスターか? とても人間の出す音じゃないぞ」
「見てきたヤツの話だと、パワー系の獣人が暴れてるそうだよ。アンタの用心棒、大丈夫なのかね」
「ま、戦ってるなら大丈夫だろう。それより急ぐぞ」
そして向かいながら、簡単じゃない問題点を聞いた。
「先行した連中が言うには、バブロの部屋の宝物庫らしき場所には、けっこうな魔法錠がかけられてるんだよ。開けるのにそうとう難儀しているんだけどね。顧客情報もそこだろうから、どうにかしなきゃなんないんだよね」
「まぁそこが厳重なのは当然だな。オレのスポンサーの頼み事もそこだろうし、何とかしないとな」
「あたっている魔法師によれば、扉破壊も錠前破りも不可能。正規の手段以外では無理だとさ」
「そうか……バブロを尋問して、開け方を吐かせられるか?」
「やらせているけど、むずかしいね。アタシらをかなり恨んでいるし、時間がかかればアタシらが不利な事も知っている。ここで自由に動ける時間内じゃ無理だろうね」
そうなのだ。ここで自由にできる時間は限られているのだ。
時間がかかれば、この屋敷の持ち主のバートラント男爵は手をうってくる。
それにやがて騎士団も捜査に介入してくるだろう。
お宝を手に入れる時間は、今日一杯が限界と見た方がいい。
「まいったな。魔法錠の開け方を今日中に見つけなきゃならんというわけか」
「持ち出す手間も考えとくれよ。半日はかかるよ」
「ああクソッ。だが、やるしかないか。まずはその扉と錠を見るところからだな。それで鍵の形を見当つけよう」
◇ ◇ ◇
「……………え?」
「どうなってんだい、これは?」
問題の宝物庫の前に来てみると、そこはすでに開けられていた。
どういうことだ? ここを開けるのにたいそう難儀してたんじゃないのか?
マルタはそこに居る配下の魔法師たちに尋ねる。
「開けるのに成功したのかい? 聞いた話じゃ、とても手に負えないってことだったけど?」
「我々が開けたんじゃありません。猫の獣人奴隷が来て『ここを開けるかわりに中のものを一つだけよこせ』と交渉してきたのです。顧客情報などの資料系以外ならと、ためしにやらせてみたのですが、簡単に開けてしまいましたよ」
なんだと? 扉や錠を見るかぎり、そんな簡単なものじゃないぞ。そいつはただ者じゃねぇな。
中を見ると、山と積まれた貴金属、重要そうな書類、そしてアーティファクトの納められている箱などが雑多に置かれていた。
そしてアーティファクトの箱を片っ端から開けている小柄な猫獣人が一人。
「よう、ここを開けてくれた奇特な獣人さんらしいな。礼を言うぜ。名前は何て言うんだ?」
「お気になさらずにニャ。僕はここで使われていた、ただの獣人奴隷。ちょっと、おこづかいを貰ったらバイバイにゃ」
やがて箱の一つを開けて、歓喜の声をあげる。
「ああ、あったにゃ。コレコレ! それじゃ報酬はコレをもらっていくのニャ。バイバイ♡」
箱をかかえオレの脇を通り抜けて出て行こうとする猫獣人。
しかしソイツの持つ箱に微かな悪い予感がよぎった。
「ちょっと待て。そいつを見せてみろ」
猫獣人の手をつかみ、箱を開けて中身を確認する。
やっぱりだ。
それはまごう事なき道化の仮面のアーティファクト!
「悪いが、これはダメだ。そこらの金貨の袋でも持って行け……あっ!」
猫獣人は、すばやく中の仮面をかすめ取り、オレから距離をとった。
「冗談言うものではないニャ。世界を滅ぼす力をもつ【シャッフルレガリア】の一つ。お金なんかと釣りあいがとれるものではないにゃ」
チッ、やはりコイツ、これが何かを知っている。
そしてその力を知りながら、持ち出そうとしている!
「オレもそいつだけは渡せねぇ。扉を開けてくれた礼は仇で返す!」
敏捷系の獣人は逃走されたら追うのが難しくなる。
ここは先手で足を潰す!
「射貫け【火の魔法矢】!」
不意打ちで五発を撃ち込むも、奴はそれをジャンプでかわす。
しかし『この程度はやる奴』と見当をつけている。
さらに着地点を狙って五発を放つ!
「”来たれ、ジャックオブクラブ”」
「なにッ⁉」
猫獣人の手には呪文とともに古い大きな杖が握られていた。
そしてそれを一振りすると、オレのマジックアローはたちまち消されてしまった。
「お前さん………【シャッフルレガリア】所有者の一人か!」
「そして【ガンダーラ超獣人】の一人、ヤマネコ族の【アルキメデス】にゃ。世界を滅ぼすアーティファクト【ジョーカー・ジョーカー】はもらったにゃ!」