14話 臥獣の脅威
『臥獣』
それはメディシアンカルテスの誇る最精鋭の暗殺者集団である。
人員はバブロが金にあかせて世界中の闘技場の優勝者、戦場の英雄などを集めて構成され、その実力は王国騎士団並みとも言われている。
その掟は非常に厳しく、全ては血で清算される。王国の重大暗殺事件の陰には必ず奴らの姿があるという。
――ミンメイ御伽衆国内犯罪組織調査報告書より――
まぁ、そんな危険な暗殺者集団なのですが。
当初カスミさんの計画では、こいつらをいかに多くバブロから引き離すか苦心していました。
ですが、ボクはそんなカスミさんの計画に真っ向から反対。
バブロの護衛をそのままに、臥獣と戦わせてくれるよう頼んでしまいました。
どうにもボクの中に宿ったアーティファクト『覇王の槍』。
それはボクをどうしようもなく戦いを好ましくしてしまい、特に高レベルの武術使い相手にはその衝動がおさえきれないようです。
なので、このギャンゴさんとの戦闘もつい楽しんでしまいます。
「はりゃああッ、ほおおおうッ、とうりゃああッ」
ビュンッ ビュビュンッ ビュオオオオッ
ギャンゴさんは双剣をすごい速さで繰り出し、ボクを切り刻まんとします。
そんな双剣の刃を、ボクは楽しくヒョイヒョイかわします。
無駄と悟ったのか、ギャンゴさんは手を止めました。
「フッ……やるな。いまだかつて俺の剣をここまで躱し捌いた者はいなかった」
「まぁ、たしかに速い剣さばきですが。でも人族がアライグマ人にそういう勝負を挑むのは無謀じゃないですか? そちらは重そうな剣を振り回していますが、ボクは素手で身軽ですし」
「フッフッフ、たしかに貴様には俺の本当の得物を使わざるを得んようだ。たいした小娘よ。この俺にこれを使わせるとは」
お、ちょっと面白そうな展開?
ギャンゴさんは持っている双剣を捨てると、部下らしき人に命じて、刃のついた手甲脚甲を自分の両腕両脚につけさせました。
そして体をねじり異様な構えをとります。
「受けるがいい。闇闘技場名物【メディシアン謝肉祭の踊り】!」
ギュルルルルルルルルルルッ
ギャンゴさんは体をものすごい勢いで回転させました。
そんな高速回転のまま、さっき以上になめらかな動きでボクにせまってきます。
「わわっ、速い?」
小竜巻となった彼の刃を紙一重でよけます。
ですが小竜巻はボクの動きにピッタリくっついてきて、まるで引き離せません。
「すごいですね。双剣はいくら速くても怖くありませんでしたが、コレはヒヤッとします」
「フッフッフ。闘技場ではこれで人、モンスター問わずいくつもバラバラの肉塊にした。そして観客は拍手喝采だ」
「楽しそうですね。ま、アライグマ人をバラバラにしても、たいしたお肉にはなりませんが」
「そうだな。たしかに貴様一人では、ちと血と肉の量が足りぬ。ゆえに、もう一人の小娘にも参加してもらおう」
「あっ……」
ちょうどボクの後ろにはご主人様。
今までのようにかわしては、ご主人様がバラバラのお肉に早変わり。
なるほど。闇闘技場のチャンピオンとやら、なかなかにクレバーですね。
「さぁ、いくぞ。観客一同ご覧あれ。娘二人の残酷解体ショー!」
ギュルルルルルルルルルルッ
「やれやれ、素手で破った方が面白そうですが。ご主人様の命までかかっているんじゃ、挑戦ばかりもしてられませんね。”来たれ”」
右手を掲げ武器召喚の呪文を唱えると、覇王の槍はボクの手に。
「ふん、そんな魔法まで使えるか。だが、槍など手にしたところで間に合わん。おとなしく肉塊となれ!」
たしかに小竜巻となったギャンゴさんは、すでに目と鼻の先。
もう何をしても手遅れでしょう。”普通の人族なら”
ギュルルルルルルルルルルッ
「てやああああッ贄となれいッ!!」
「武神流【咬塵牙咆】!!」
本家のコレは、大剣の振り下ろしと気の放出で遠く離れた岩をも砕くおそるべき剛剣の技です。
ですがボクのは振り下ろしではなく、槍の突き出しと気の放出。
もっとも筋力がぜんぜん足りないので、威力は本家にまったくおよびません。
なので狙ったのは小竜巻の刃の端。
回転する方向に合わせより回転のスピードが速くなるよう、かすめ撃ちました。
そして一方に衝撃をうけた小竜巻はどうなるかというと……
「うわああああっ、止まらねぇ! どいてくれえええっ!!」
制御できる限界をこえた超回転をし、弾かれた反対方向にモウレツないきおいで突っ込むのです。
「あっ……」
なんと、その先にはボスのバブロ・リベルダの座っている席!
「うあぎゃあああああああっ」
バブロの護衛の臥獣は肉壁になって防いでバラバラ。
その間、ジバリオさんがバブロを抱えて離れました。犯罪組織なのに、ちょっと感動的なシーン。
「今のは狙ってやったワケじゃないですよ。バブロさんの居た位置が悪かったですね」
思わず弁明とかしてしまいました。
されど護衛の血と肉に染まったバブロさんはたった一言。
「ゆるせねぇ……」
「ふむ、臥獣までもがいきなり五人の損耗。これは余興ですませられませんね」
ジバリオさんが合図をすると、残りの臥獣は全員がボクたちを囲みました。
「だ、大丈夫なの、ラチカ?」
「面白いじゃないですか。こういう生きるか死ぬかの瞬間、大好きになりました」
ビクンッ
「あれ? 体がいきなり動かなくなりました」
「ええっ⁉」
頭だけは無事なものの、首から下は硬直して動きません。
その原因を探ると、神経が魔力によって働きを止められています。
これは魔法? その魔力の元を探ってみると……
「ジバリオさん? あなた、魔法師だったんですか」
「フフフッ、王国騎士魔法兵団団長をつとめておりました。もっとも私まで参加せねばならない事態ははじめてですよ。それもたった一人に」
「ボクはそんなたいした者じゃないですよ。ただの奴隷の冒険者です」
「おっと、この”套隴縛術”すらも破ろうとしている。あまり猶予は与えない方がよろしいですね」
あちゃーバレましたか。
体内の気を凝縮して魔力の干渉を解いていたんですが、さすがに術者には気づかれますか。
「臥獣、いっせいにかかりなさい! ただし、もう一人の小娘も同時に殺るのです!!」
あちゃー、本当に容赦のない手をうってきます。
たとえ何らかの手段で動けるようになろうと、最初にご主人様を守らなければなりません。身を挺して。
「【臥獣千功疾殺陣】! 死ねぇーーい!!」
ヤバイ! 地上四方と空中からの集中攻撃です。
最近、男塾が大好きになったんですよ。北斗の次にこれにハマるとは。