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13話 園遊会

 【メディシアン街】。

 国内でもっとも東方に位置し、もっとも治安の悪いスラム街。

 スリ、かっぱらい、傭兵崩れに冒険者崩れ等が横行し、この街を歩く一般人は護衛なしで進むのはキビしい。


 そしてこの街こそが犯罪組織【メディシアンカルテス】そのものといってもいい。

 その活動は金貸し、人買い、麻薬密売、酒場、娼館経営、武器の密売、死体漁り等多岐にわたり、おおよそ法律など機能していないほどに悪徳がはびこっている。


 なぜこの組織が騎士団の手入れも受けずに大きくなったかといえば、それは新種の麻薬である”幸福薬”の恩恵である。

 快楽性、依存性は従来の麻薬と同様ながら、いくらやっても脳や体に障害をおこさないそれは貴族の方々に大流行。

 金は他からでも手にすることはできるが、幸福薬の入手は【メディシアンカルテス】のみ。

 ゆえに組織は深く腐敗貴族共と癒着し、ボスはじめ幹部ともどもこの街にいることは知られていながら、誰も手をだせないでいたのだ。


 さて、この街をおさめるバートラント男爵。

 彼も当然組織に便宜をはかっている一人であり、組織のボスである【バブロ・リベルダ】や幹部を匿うことで莫大な富を築いた腐敗貴族である。 


 そしてその日は、その腐敗貴族バートラント男爵の園遊会。

 彼の屋敷は、スラム街の中でただひとつ貴族街の建築物がごとく豪奢なもの。

 そして庭園には色鮮やかな花々が咲き誇り、家具から花壇まで芸術的の意匠のこめられた見事なものであった。


 だが招待客の目的は、もちろん”幸福薬”。

 あきらかに高貴と思われる謎の招待客たちは、庭園のあちこちで思い思いに幸福薬に浸っている。


 だが、そこに銀のマントをつけた女が一人。

 ふんだんに贅を凝らした庭園の中を、光景に一べつもせず誰一人挨拶もせず一直線に闊歩してゆく。


 その向かう先は、とくに警備のキビしい庭園の最奥。

 当然、その入り口でいかつい武闘派ヤクザのようなボディーガード達に咎められる。


 「お嬢様、お待ちを。ここから先は貴賓客遊園となります。それにその恰好、あまりにパーティーに似つかわしいとは思えませんが、招待状はお持ちですか?」

 「そんなものはないわ」

 「なんですと? 貴様はいったい……カハッ⁉」


 ドサササッ

 貴賓客遊園を守っていたボディーガード達は全員そろって一斉に倒れてゆく。

 銀のマントをなびかせた女は、さっそうと彼らを踏み越えその先へ。


 「なんか、見たことのある人達がいるわね。たしか貴族連合の懇談会とか国賓行事で、えらそうな演説してたような」


 あきらかに場違いな、冒険者の鎧に銀のマントを羽織った女の登場に、その場の高貴な賓客たちは息をのむ。

 されど、その場の主。凶悪な顔ながら最高位の貴族のごとく上等な仕立服を着たその男は動じない。


 「んん~? なんだオマエは。知らんやつだが、誰の道化だ?}

 「いいえ、冒険者よ。【メディシアンカルテス】のボス、【バブロ・リベルダ】ね? 今日はあなたと幹部たちにかかった賞金、まとめて狩りにきたわ」


すると、彼の取り巻きらしき貴族が顔を真っ赤にしてなじってきた。


 「バ、バカな! この方はそんな名前ではない! わが友人フェルディ・ベルダン氏だ! それより何だ、貴様は! わが園遊会に断りもなく……ッ」

 「男爵、さがっていろ。この娘はそんな木っ端貴族のあいさつが通用するものではない。娘、名を聞いておこう」

 「【蒼月の旅団】のセリア・アーグブレッサよ。落ち着いたものね。さすが大物犯罪者だわ」

 「ふふッ、ワシのような善良な人間をして犯罪者呼ばわりとは恐れ入る。して、どうする。ワシがこのグラスを落とせば、お嬢さんの命はないが?」


 バブロは持っていた食前酒のグラスを高くかかげた。


 「じゃ、そのグラスが落ちる前にカタをつけちゃいましょうか」


 セリアは魔法杖(ワンド)をバブロに向ける。

 バブロは手を放し、グラスは落下。


 瞬間、どこに潜んでいたのか、二十数人もの暗殺人《アサシン》が音もなく、一斉にセリアに襲い掛かかった!

 と同時、セリアの影から小さな影が跳ねあがる。


 ギュルルルルッ バキッ ドガァッ ズバンッ ドォウッ ガキィッ


 小さな影は超スピードでアサシンにぶつかりながら跳ねまわり、ぶつかったアサシンはみな一瞬にして致命傷を負ってゆく。


 「ギャオオンッ」

 「ぐげえええええッ!」

 「アギャアアアッ」


 パリンッ

 グラスが地に落ち割れた音の中、アサシンは次々崩れ落ちた。

 死屍累々のアサシンたちの倒れ伏したあとに。

 影は大きく跳ね上がりセリアの向ける魔法杖(ワンド)の先へピタリ乗っかった。


 「ほう。どんなを手妻(てづま)を用意したかと思ったが、そのような獣人を飼っていたか」

 「ええ。アライグマ人のラチカよ。さて、おとなしく賞金になってくれるかしら? 手配書は”生死を問わず”だから、抵抗すると命はないけど?」

 「それは困る。ワシはこの街の顔役なのでな。居るかぎりの”臥獣(がじゅう)”を呼べ!」


 瞬間、屈強な男達が音もなく現れ、バブロを護るため周囲に立つ。

 さらにセリアの周囲も囲み、こちらは剣呑な殺気をはらみ睨みつける。


 「これがメディシアンカルテスの誇る『臥獣』……おとぎ話みたいなのは聞いたことあるけど、本当に居たのね。ということは、あのウワサも本当なのかしら?」


 ――「フッフッフお嬢さん。どのウワサか知らないが、流言もまたわが『臥獣』の重要な武器。その質問にはお答えしかねる」


 バブロのいちばん側に控える初老の男が答える。

 彼もまた武装帯剣はしているものの、他の荒くれとは違い、妙に品のある男であった。


 「あ、もしかして、あなたはバブロの懐刀と言われている【ジバリオ・ゼーダット】? 元王国騎士団の重鎮でありながら、犯罪組織に身を落としたという。あなたも高額賞金首なのよね。逃がさないわよ」

 「フッ、この状況で金の算段とはたくましいことですな。ですが冒険者はこうでなくてはいけません。金のために命を張るケダモノ。それこそが冒険者の本質」


 好々爺のようにセリアと話す彼に、バブロは若干不機嫌にたずねた。


 「ジバリオ、招待客の皆様は無事逃がしたか?」

 「抜かりなく。バートラント男爵が現在誘導にあたっております」

 「そうか。ではワシを楽しませろ。この会をブチ壊した娘と獣人娘に、相応の報いをあたえろ」

 「勧誘はよろしいので? あのアライグマ娘、一瞬でアサシン二十六名を葬るなど、かなりの手練れですが」

 「娘二人にここまで踏み込まれ、重要顧客の皆さまの楽しみをブチ壊された。この一件でワシの面目は丸つぶれだ。かまわん、二人とも血祭にあげろ!」、

 「そういうことでは仕方ありませんな。では新入りのギャンゴ。闇闘技場優勝者の実力、見せなさい」

 

 両手に刃物をもった屈強な男が二人の前に出た。

 その目は殺意にギラつき、全身からは嫌な死臭がただよっているよう。


 「フッフッフ、小娘二人をブチ殺して実力を? ジバリオさんも難しい課題を出される。俺は暗殺闘技のプロ。何か見せる前に終わっちまいますな」



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