11話 カスミの正体
さて、カスミさんのあとをつけていくと、そこは郊外の寂れた場所。
ですが、カスミさんは急に振り向いて言いました。
「おい、つけているんだろ? 分かっているから姿を現せ」
うわあっ、本当にこの子、タダ者ではなさすぎる!
しかたなく、ボクはカスミさんの前に出ていきました。
「ラチカか。ああ、本当に借金返せるクエストなんざ有るのか、調べてるってとこか」
「ええ、まぁ。でも武神の隠形スキルを見破るなんてスゴイですね。ちょっと信じられないんですけど」
「いや、何となく居るかもしれないと思っただけだ。だが違和感を感じたときは、こうやって声をかけてみることにしている」
「なんと! まんまと引っかかってしまいましたか」
「技はすごくても性格が素直すぎるな。だがラチカ一人で来てくれたのはちょうどいい。ついて来い」
カスミさんについて行ったそこは、廃墟のような一軒家。
されどそれは見かけほど朽ちているモノでもないことが見えました。
「この家、一見ただのボロ家のようですが、セキュリティにかなりの魔法術式がはいっていますね。世捨ての賢者でもいるんですか?」
「その見切りも武神の力か? まぁ似たようなものだ。もっともラチカも初対面じゃないがな」
扉が開き、そこに居た少女はたしかに見覚えがありました。
「シェリーさん。ええと、あなたが大金稼げるクエストのアテとやら?」
「何の話だ? カスミ。聞いていないが、アライグマ娘を連れてきたのは例の話を聞かせるためか?」
「ああ。ラチカは【シャッフルレガリア】所有者の一人になっちまった。何も教えないわけにはいかないだろう」
「うむ。まぁとにかく話を聞こう。部屋に来い」
簡素な部屋に通され、カスミさんはシェリーさんに多額の借金を負ったことを話します。
「ってことだ。例の件、この借金返済のために使わせてもらうぜ」
「まぁ、それはいい。アレさえ回収してくれたならな。五つの【シャッフルレガリア】の中で、もっとも危険なアーティファクト【ジョーカー・ジョーカー】。それだけは必ず手に入れるのだ」
「世界を滅ぼしうるアーティファクトねぇ。そんなものが犯罪組織なんかの手にあったら、とっくに世界なんて終わっているんじゃないか?」
「幸運なことに、まだ世界は無事だ。賞金首に目がくらんで逃すな」
さて、話がなにやらあさっての方向に行っているようで、黙ってもいられなくなります。
「ええと、何の話をしているのでしょう? クエストの話をしてるってのは分かるんですが、なぜ”世界が終わる”とか不穏な言葉が出るのでしょう?」
「そうだな、ラチカには最初から話そう。まずクエストの話だが、標的は王国内最大犯罪組織【メディシアン・カルテス】」
「ええッ⁉」
メディシアン・カルテス。
国内最大の犯罪組織にしてテロ集団。
”幸福薬”という違法魔法薬の販売で莫大な資金を手にした一方、その資金で政治にも介入している。さらには強力な私兵をも擁しており、その実力は王国騎士団並みとも言われている。
王国でも貴族界でのテロ、機密売却、幸福薬の蔓延など悩みが満載ながら、強力すぎる組織力のため手が出せない最大の問題なのだ。
「そこに、このシェリーが長年探しているアーティファクトが渡っちまったようでな。彼女は組織の調査を数年に渡りやってきた。その情報を使いアーティファクトを回収する一方、組織の賞金首共をつかまえて借金返済だ」
「ええっ⁉ いくら何でも一冒険者パーティーの手にはあまる案件じゃないですか!」
「共和派の連中にも強力させる。じつは連中もその組織を潰したがっているんだ。組織に虐げられている庶民は多いく、それを潰せば支持者は膨れ上がる。さらに調べれば高位貴族との癒着の証拠は出てくるだろうから、貴族どもの力を弱めることが出来る」
「ウチのご主人様もいちおう貴族の端くれですよ。ご主人様が他の貴族に恨まれないですか?」
「さぁな。だがセリアが貴族どもに恨まれようと、やめる気はない。腐敗した貴族どもに遠慮する必要がどこにある」
うーん、たしかに腐敗した政治家の保身のために悪を倒すことをためらうわけにはいかないなぁ。
「では、次は【シャッフルレガリア】と呼ばれる五つのアーティファクトについて話そう。それは古代エルフが作ったとされるアーティファクトで、その力は絶大。人類はその力で魔物、他種族を退け生存圏を拡大し、今の繁栄を築いたのだ。アライグマ娘、お前に宿っている覇王の槍もその一つだ」
「はぁ。たしかにこれの武の力で何でもできそうですが、これと似たようなのがあと四つもあるんですか?」
「そうだ。私の慈愛の聖杯【ハートエース】、貴人の宝玉【クイーンオブダイヤ】、賢者の杖【ジャックオブクラブ】、おまえの覇王の剣……いや覇王の槍へと変わったが【キングオブスペード】。そして最後のひとつこそ、私が探している道化の仮面【ジョーカー・ジョーカー】だ」
「それがさっきの『世界が終わる』という話につながるんですか?」
「そうだ。アレだけは使われてはならない。アレを使われては人類の歴史が終わる。ゆえに手に入れて永久封印せねばならぬのだ」
そういえば、ボクがこの世界に転生させられたのも、この世界の危機がどうたらこうたら、だったような。
これに関わったのも運命というやつかな。主に横暴な神様が用意した。
「それにボクも手伝えというわけですか。武神の力を使って」
「ああ。この計画、今まで戦力不足が問題で実行できなかったが、なぜかラチカが武神【キングオブスペード】の力を継承したことで一気に可能性が開けた。オレらの借金返済と社会正義と世界のために協力してくれ」
まぁ、神様が無理やりこの流れにもっていった以上、結局は協力させられることになるんだろうけど。
でも癪だから、ほんの少しか細い抵抗をしてみる。
「うーん、でも不安すぎるんですよね。いくカスミさんが頭が良いといっても、やはり子供のたてた計画。それにご主人様を巻き込んで参加するのは、どうかと思います」
「オレの計画が不安か?」
「はい。相手が犯罪組織ともなれば、モンスター退治とは違った知識や経験がいります。カスミさん、こんな大きな犯罪組織と戦ったことなんてないでしょう?」
「いいや、ある。メディシアン・カルテス関連のクエストはかなりやった。末端組織なら五つばかり潰したこともある」
「はいい? それっていつの話です? カスミさん、いくつなんです?」
カスミさんはシェリーさんと目を合わせてうなずくと言いました。
「……そうだな。ここらでオレの正体を言っておくとするか。オレの本当の名は【エドガー・コルナン】。お前さんのご主人様が、たまに話しているジジイがオレだ」
「え……ええーーッ!!!?」
仰天! なんという衝撃の事実!!
「最高冒険者sランクで【蒼月の旅団】の本当のリーダーの? どうしてそんな子供なんです?」
「このシェリーは聖杯【ハートエース】の所有者だと言ったな? その力の一つが若がえりの秘薬を生み出すことだ」
「若返り? そんな奇跡みたいなことが!」
「他のにも万能薬やら超魔力ポーションやら、幻と言われる魔法薬を生み出す力。それが慈愛の聖杯【ハートエース】だ」
「な、なんですってえ!! そんな、まさかあなたがあの噂のエドガー・コルナンさんだったなんて! ……あれ? じゃあ、サリエリ君が見つけたというコルナンさんは?」
「それは知らん。誰に会いにいったんだ、アイツは」