01話 アライグマ少女に転生
世の中にはいろんなケモノ娘がいるのに、どうしてアライグマ娘はいないんだろう?
『あらいぐまラスカル』のキャラ人気は今でもすごいし、あらいぐまの可愛さは誰もがみとめるモノなのに(あくまで見た目だけ。リアルはすごい獰猛)。
『無いなら作っちゃえ!』というわけで、アライグマ娘を実験的に書いてみました。
これは前世、ボクが死んだ後のことです。
死んで魂がどこかへ飛ばされている最中、どこからともなく声が聞こえてきました。
「少年。君に頼みがある。君の住んでいた世界とは異なる世界にて、危機がおとずれる予兆がある。君はその世界に転生し、世界を聞きから救ってほしい」
「は? いや、どうしてボクが? オクはただのマンガ好きな男子にすぎませんよ。世界の危機なんてどうしようも出来ません。普通にこっちの世界で生まれ変わらせてください」
「残念だが、これは決定事項。異世界へ渡れる魂というのは、そう多くなくてな。そして間に合いそうなのが君だけなのだよ。よって君が向こうへ行くことは決定」
うわあ、横暴の神だ。向こうの都合だけで簡単に決定されてしまったぞ。
「とはいえ、私も鬼ではない。無理を頼んで異世界へ渡ってもらう以上、何がしか望みぐらいは聞いてやらんこともない」
鬼ではないけど悪魔でしょう。
とにかく、そう決まったんならしょうがない。せいぜいその恩情にすがりましょうか。
「あ、じゃあボクは拳法マンガとか好きで、いつもあんな風に動けたらいいな、なんて思っていました。だからすごい武術が使える能力とか欲しいです」
「フッフッフ面白い。武で世界を救うか。よかろう、世界最強の武威武神の力にめぐり合う運命、貴様にくれてやろう!
「え? いえ、そんな大層なものでなくても……うわあああっ」
◇ ◇ ◇ ◇
そんな感じでボクの世界とは別の世界に転生したボク。
しかし生まれてきたのは『アライグマ人』。
いわゆる獣人の娘に生まれ変わってしまっていました。
生まれて最初の頃は、巨人の世界にきたのかと思いましたね。
なにしろ人間がボクを手の平の上にのせてるんですから。
ですがアライグマ人という種族は、赤ん坊の頃は普通の人間の手の平サイズ。
そして成長しても子供のような姿背格好なのです。
あと神様が約束したチートですが、完全に騙されましたね。
種族としての能力以外、まったく何のチートもありませんでした。
さて、この世界の獣人というのは、街の中にいる者ほとんど全ては奴隷。
昔、人族が獣人の住む土地をうばって領地を広げ、生き残った者たちを人族の奴隷として今にいたるそうです。
ボクが転生したアライグマ人という獣人は奴隷としては、はなはだ人気がありません。
見た目は成人してもかわいい子供で、大きな尻尾と小さなケモ耳が特徴です。
器用さと敏捷性に優れる種族ですが、その小さい体の通りまったく力がありません。
そして人族が奴隷に求めるのは可愛さなどではなく馬力に腕力。
というわけで、生まれてしばらく、奴隷市場の隅の木の檻に入れられて生きてきました。
転機が訪れたのは、今のご主人様がフラリ奴隷市場に現れ、ボクの居る檻をのぞきこんだ時でした。
「きゃああああッ可愛いいいいッ! この娘、買うわ。おいくら? …安い! 二日ごはんを食べなければ余裕ね!」
女は見た目が命。
現代知識を生かして檻の中でも出来るだけ清潔に、そして身繕いを欠かさずしてきた甲斐がありました。
でも計画では金持ちマダムのペットになる予定でした。
こんなその日暮らしっぽい計画性のまったく無さそうな若い女の子に飼われて大丈夫かなぁ。
まぁそんなわけで彼女に買われていき、、それまで名前の無いボクでしたが、彼女から【ラチカ】という名前をいただきました。
ご主人様の名前は【セリア・アーグブレッサ】。
いわゆる最下級貴族の男爵家のお嬢さんらしいのですが、昨今の平民による貴族への突き上げをモロにくらい、平民に落とされる一歩手前だそうです。
そこで彼女は、毎週のように貴族主催社交パーティーに出かけては娶ってくれる青年貴族を探しているそうですが、今の所まったくの空振り。
彼女自身はけっこう可愛いのですが、やはり殿方も貴族に厳しい昨今を乗り切るため、女性の実家の財力をアテに出来る相手を探しているのです。
男も女も金目当てなので、件の社交パーティーの成婚率は一、二パーセント程度。
それでも、そのわずかなパーセンテージにくい込むために、ご主人様は毎週のようにパーティーに出席するのでした。
「ラチカ、準備はいい? 今日のクエスト、稼ぐわよ。パーティーの準備金が足りなかったら、ごはん抜きで生活しなきゃなんないんだから」
ペットから家族へ。
いつの間にやら彼女とは家族のように共に行動し、お世話や仕事の手伝いなんかもするようになりました。
「ご主人様、パーティーの出席を見送るという選択肢は?」
「ないッ! 今度のパーティー、鉱山経営してる子爵の御曹司が来るっていうんだから、行くっきゃないでしょ。上手くいけばあこがれの働かなくて良い生活よ!」
元男として言いたいけど、こんな金目当てな女イヤン。
いつか本気で婚期逃す前に高望みやめさせたいけど、難しいなぁ。
欲に目のくらんだ女は止まらないし。
さて。ボクとご主人様のお仕事ですが、冒険者をやっています。
ボクは小さな体と敏捷性を生かし、パーティーの斥候として貢献しています。
所属しているのは、冒険者パーティーとしてはギルド内でも老舗の【蒼月の旅団】。
昔、Sランク冒険者が立ち上げたというパーティーで、数々のS、Aランクモンスター討伐や難易度ハイレベルなダンジョン攻略を成し遂げたなど、数々の伝説を打ち立てた最強のパーティーだそうです。
もっとも今はSランクの創立者は行方不明。
その他古参の腕利きは年をとって引退し、そんな活躍は遠い昔のことになってしまったそうな。
今は細々と近隣のモンスター退治や植物鉱物採取でやっています。
そんな生活を続けていたボクとご主人様でしたが、ある日、拠点にしている酒場でパーティーリーダーに告げられました。
「悪いなセリア・アーグブレッサ。今日を限りにパーティーを抜けてくれ」
えええええええッ 追放? 明日からの生活がああああッ!!!
キュキューーンッ!
今書いている『Sランクチャイルド』がまったくアクセスされなくて、落ち込むことが多くなりました。なので気分転換に、安易な設定で書ける異世界転生モノをリハビリ代わりに書いてみました。世界設定なんかは新しく考えるのがイヤなので、前作のものをそのまま使っています。
キャラなんかも向こうから持ってきて、さらに簡単に書くことにします。リハビリですから。