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第94話 お花見

 1周年記念のイベントとして開催された専用マップへと向かうアイリとユーリ。そこには一面に広がる桜に、ずらりと並ぶ屋台の数々と人々の熱気。屋台で数百Gを払って焼きそばやフランクフルト、バナナチョコ等を食べたり、しゃてきや金魚すくいなどをすることができるようだ。

 また、注意書きに一切の戦闘行為はできませんと書かれており、各々が気に入った装備や非戦闘用の衣服、スキンアイテムを思う存分堪能できる。しかも、消費アイテム(99%)やスキル書・スキンアイテム(1%)が入っているガシャを1週間無料で10連できるキャンペーンもしている力の入れようだ。


「私なんて結構ガシャ回したのに、ポーションと素材ばっかり。私、アイリに運吸われてない?」


「そんなことないよ」


 くるりと桜色の着物を見せびらかすように回る。課金しても手に入らなかったスキンにぐぬぬと悔しそうにしているユーリ。なにしろ、無料の10連で引いたというのだから悔しがるのも無理はない。


「ゲン担ぎでステータスの運を伸ばしてから回してみようかな」


「それはいいけど、お小遣い大丈夫?」


「うぐっ……最近『は』課金してなかったから大丈夫よ。神様、仏様、魔王様、お願いします」


「にゃー!最後、おかしいの混ざっているよ!」


 そして浮かび上がってくるガチャガチャからカプセルがごろりと落ち、開封されていく。その中から虹色演出の輝きが出てくる。


「キタキタキタ!SSRのスキン!」


「何が出たの?」


「さっそく着替えてみるね」


 ユーリがスキン変更すると、あじさいの絵柄が書かれた着物へと変わっていく。春というよりかは初夏~夏に似合いそうな着物だ。


「これは確かカタツムリイベントの時に実装されたスキンね」


「ほかにスキンってあるの?」


「初期実装が獣人や半魚人とかの未実装種族のスキン。イベントごとに絵柄違いの着物や水着、サンタのコスプレ衣装とかが実装されていったはず」


「この場でサンタになるのは……」


「冬限定しか使えないよね。着物なら多少季節感のずれている柄でも、あまり気にせず着れる。一緒に回ろう」


「うん」


 人込みの中を歩いていき、まずはとアイリが意気込んだ先にはクジ引きの屋台。1等賞には選択スクロールがおかれており、何のスキルが手に入るのかと思いながら様々なプレイヤーがお金を払い、ポーションへと変わっていく。


「お嬢ちゃんの番だよ。さあ、引いてごらん」


「よ~し、えい!」


「おめでとう!2等のランダムスキル書だよ」


「惜しい!」


「いやいや、ハズレよりかは断然良いって。なんのスキル貰えたの?」


「【闇魔法Lv1】。同じスキルを習得したため、スキル経験値として付与されます。【闇魔法Lv3】にレベルアップしましただって!」


「ほうほう。ポイント交換のほうだだぶつかないように交換不可になっているけど、ランダムスキル書だとだぶつく可能性があるから、こういう仕様になっているんだ」


「Lv3になるとクールタイムも短くなるみたい。でも、レベルアップって大変だよね。ヒュドラブレスもそろそろレベルアップしても良いのに」


「使用回数以外の条件があるのかも」


「たとえば?」


「ほかのゲームだと、特定の敵を指定回数以上倒すとか、特定の大ボスを倒すとアンロックされるとか、特定の時間帯に特定の場所に行く……大体はこんな感じ」


「ヒュドラ系の魔法だからヒュドラを倒したらいいのかな」


「そう考えるのが普通かな」


「よ~し、明日はヒュドラ狩りだ!」


 目標が決まり元気よく歩いていくアイリに対し、ティアマトやケルベロスを召喚して大怪獣バトルになっている様子を思い描くユーリは眺める分には面白そうだと一緒に手伝うことにした。りんご飴を買って練り歩いていると、ミミと見知らぬ男性が手をつないでいた。


「ミミちゃん、おはよう」


「アイリお姉ちゃん、ユーリお姉ちゃん、おはようございます」


「隣にいるのは誰? 見かけない人だけど?」


「パパです」


「娘がいつもお世話になっております」


「いえいえ、こちらこそ」


 ミミたちと一緒に屋台の列を歩いていくと、ミミは金魚すくいに挑戦する。店員からもらったポイで頑張って救おうとするもすぐ破けてしまう。


「今度はパパがやるぞ~」


「Lv20以下の方は1回だけ無料だよ」


「パパ、頑張ってください」


「こうみえても、ゴールデンハントのトシゾーと呼ばれてだな」


 ミミパパが端に追い詰めた金魚をひょい、ひょいとすくい、4匹目を救おうとしたときに破けてしまった。ミミパパがちょっと悔しそうにするも先ほどすくえなかったミミからすればすごいことらしく、目をきらきらと輝かせている。


「渡せないのか……クラン?専用アイテム?というのもよくわからん」


「パパ、一緒に【桜花】に入って」


「招待送りますね」


「はいを押せばいいのだな」



 ミミパパがクランに入りました



「これでパパも【桜花】の一員です」


「サークルや部活みたいなものか。私が小さい頃のゲームとは違うなあ」


 今ではレトロゲーと呼ばれる勇者が魔王を倒すシンプルなゲームと比べて、しみじみと技術の進歩を感じさせていた。様々な出店で料理や飲み物を買った後、それぞれのクランに割り当てられた花見用の席へと向かう。【桜花】は小規模クランなため、出店からは離れてはいるが、周りに人が少ない分、ゆっくりと風景を楽しめるともいえる場所だ。


「おまたせ」


「随分と時間かかったな。こっちはもう食べ始めとるで」


「冷めたらあかんからな」


「花より団子派が多いわね」


「現実だとダイエットしているけど、ゲームなら食べても太らないの幸せ……」


「Aoiはやせすぎです。もっと食べましょう」


「ダイエットしていないのにこのくびれ、このけしからん胸をもつあんたには言われたくないわよ!」


「だからって胸を……Aoi、やめてください」


「よいではないか、よいではないか」


 痴態騒ぎになったため、Aoiにブザー音とともに忠告画面が出てくる。アカBANはされたくないAoiはすぐさま手を放すと、忠告画面がすっと消える。


「アイテム:イエローカード(セクシャル)を手に入れました。2枚集めるとアカウントを一時的に凍結します。1週間騒ぎが起きなかったらこのアイテムは消えます……やりすぎたわ、ごめん」


「わかってくれたなら良いです」


「私の時もこういうのがあったのかしら」


 セクハラ行為でのペナルティーをみたLIZは去年のナンパたちのことを思い出していた。彼らがバカンスイベントではあの画面が出てこなかったため、あのときのイベントのクレームでセクシャルガードが強化されたことを感じ取れていた。


「せっかく全員そろったし、リーダー、一言!」


「じゃあ……初めてのゲームで、ここまでいろんな人と出会って、みんなと一緒に戦って、いつの間にか有名人になっちゃいました」


「よ、魔王様!」


「魔王じゃないって!」


「大魔王やろ。知っとるで」


「これはヒュドラブレスではない、ただのポイズンショットだっていうんやろ」


「違うよおおおお!」


 関西人コンビの悪乗りに大笑いするギャラリーと必死に否定するアイリ。自身は気付いてなくとも、神話に登場する生物を複数支配下に置いている現状、はたから見れば立派な魔王である。


「とにかく!1年間、みんなと一緒に戦えて楽しかったです。リーダーとしての仕事なんてほとんどしてないけど」


「サブリーダーの私が大体やっているからね」


「もう、そういうことは言わない。これからもよろしくお願いします。乾杯!」


「乾杯!」


 ソフトドリングが入っている紙コップで乾杯して、【桜花】のお花見が始まるのであった。

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