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第92話 Bランク昇格戦(後編)

 アイリ一人では手数が足りないのは明確ということもあり、ブラッディミラージュによる分身とモンスターを召喚する。ただ、いくら中ボス部屋が広いといっても、ここはダンジョン内だ。ティアマトやファフニールなどの大ボスを出すには狭すぎる。


「ケルベロス、ワイバーン召喚!」


 アイリがケルベロスに騎乗し、ワイバーンが上空を陣とる。二方面からの挟撃ならばそう簡単には対処されないと思っていたアイリだったが、ケンタウロスが放った矢が分裂し、ケルベロスや分身、上空のワイバーンにさえ襲い掛かる。


「うわっ!」


『これは避けられんぞ』


「カースシールド!」


 黒いバリアではじき返した矢をケンタウロスが打ち返し、対消滅させる。だが、上空にいたワイバーンや地上の分身はあっけなく消え去り、数で攻めることを封じられた形となってしまった。


「数でだめなら、打ち消されない攻撃で!ハイグラビティ!」


 高重力がケンタウロスに襲い掛かるも緩慢とした動きで矢を放ってくる。だが、ケルベロスがそんな攻撃を躱せないわけもなく、ひょいひょいと避けていく。


「ここまで近付ければ……シャドーミラージュからのダークサンダー!」


 黒い電撃を浴びさせ、ケンタウロスにダメージを与えていく。とはいえ中ボス、これくらいの攻撃ではまだまだといわんばかりに高重力エリアを自慢の脚力で抜け出してくる。その速さは早さに定評のあるケルベロスでさえ、あっという間に距離を詰めるほどだ。


『飛べ、アイリ!』


「ごめん、ケルベロスさん!」


 弓矢から斧に切り替えたケンタウロスがケルベロスを両断するも、アイリが上空へと離脱していく。ケンタウロスが斧をブーメランのように投げつけるのを【高速飛行】で躱し、返しにヒュドラブレスで返すも矢を放つだけで霧散させる。


(う~ん……下手に攻撃しても通用しない。なんとかして不意を突かないと……)


 執拗な矢による攻撃を躱しながら、どうしようかと考え始める。


(ヒュドラズアイで動きを止める? ダークサンダーで麻痺にならなかった以上、麻痺耐性があるかもしれない。だったら、急成長? いや、ランスロットさん以上に力がありそうなケンタウロスだと時間稼ぎなるかも怪しい。矢は魔法じゃないからダークストームも通用しない。1回限りの【精霊魔法】は温存したい……)


 今ある取れる戦術を頭の中で組み立てていき、取捨選択していく。だが、そんな猶予は与えまいとケンタウロスが矢の雨をアイリに向かって放つ。


「私を引っ張って【急成長】+プラントクリンチ!」


 自身の体を巻き取らせて矢の射程から逃れつつ、地上へと戻るや否やシャドーダイブでケンタウロスの影へと潜る。そして、背後よりアイリが渾身の一撃を放つ。それは同じ影魔法を使うジョーカーがよく好んで使う戦術の一つであった。


「ジョーカーさん直伝の一撃!ヒュドラバイト!」


 ケンタウロスが至近距離からのヒュドラバイトに対抗すべく、斧に切り替えて襲い掛かるヒュドラの首を切り落としていく。その首をすべて切り落としたところでケンタウロスはアイリの姿を見失ってしまう。どこに行ったのかときょろきょろと見回すもその姿は見えない。


「いくよ、ダークシャドー!」


 何もない場所から現れた分身が一斉にケンタウロスに向かってヒュドラバイトやヒュドラブレスなどの魔法攻撃を放っていく。不意を突かれたケンタウロスがそれらの攻撃を全て捌けるはずもなく、いくつかの魔法がクリーンヒットし、毒状態になる。

 まずは分身を倒そうとケンタウロスが矢を放ち、分身体の心臓を貫いていく。


「カースインフェルノ!」


 自身の足元から放たれた黒い炎を受けたケンタウロスはそこから逃れようと走っていく。だが、背後からはフレアストームによる大熱波が迫っており、野外ならともかくボス部屋である以上向かう先は壁しかない。覚悟を決めたケンタウロスがくるりと反転し、矢を放って威力を減衰させようとしても、その勢いは衰えず、炎に飲み込まれてしまう。


「いくよ、新魔法!ウェポンドミネーション!」


 闇迷彩、ダークインビジブルの時間が切れて姿を現したアイリはランスロットを倒したことで覚えることができる魔法の一つを使う。それは一定範囲にある相手が使った武器かつ手放している状態の武器を操ることができる魔法だ。壁に突き刺さったり、落ちていたりする矢が宙に浮かび、ケンタウロスへと向かっていく。今まで数多くの矢を放ってきたケンタウロスだが、ここにきて、それが仇となって帰ってくる。懸命に打ち返そうとするも、すべてを打ち落とせるわけもなく、自身の矢が突き刺さっていく。


「これでとどめ!デッドリーブレス!」


 満身創痍のケンタウロスの目に映ったのは、毒特攻の顎。もはや彼に躱す余力は残っておらず、毒竜に飲み込まれたケンタウロスはそのHPを削りきられるのであった。



 ケンタウロスが倒れたのと時同じくして、ミノタウロスも満身創痍になっていた。ケンタウロスが倒されたことでギミックが発動し、発狂状態に変貌するが、ポーションを飲みながら合流してきたアイリがここぞと言わんばかりにハイグラビティとシャドーロックで動きを封じ込める。


「これでミノタウロスが仕掛けてくる攻撃は……」


 予想通りの電撃攻撃に対してカースバリアを張って対抗。Cランク昇格戦と同様に返ってきた電撃に身を焼かれてミノタウロスは撃沈するのであった。


「ふう、なんとか勝てたな」


「ああ、だが試験はまだ中盤戦だぞ」


「もう帰りてえ」


「ソド、弱音を吐くんじゃねえ。お前とそう年が離れてないアイリを見習ったらどうだ。まだピンピンしているぜ」


「あいつは天才。俺、凡人。比べるのがおかしいよ」


「俺もCランクでひぃーひぃー言っている凡人だが、少しでも食らいつこうとしている。そういうメンタルの強さってのが戦いに影響するもんだ」


「そういうもんか?」


「そういうもんだ。まあ、メンタルテストで落ちて破門されて、ついこの間まで腐っていた俺じゃあ説得力なんざねえだろうがな」


「おっさん、なんだよそれ」


「何事も順風満帆ってわけじゃねえってことさ」


 オカシラは腐っていた自分を救い出したアイリをちらりと見ながら、照れふさそうにしている顔を見せないように中ボスの部屋から出ていく。



 その後のアイリたちはというと……


「こっちから風を感じるぞ」


「そっちに行こう」


 リーフの道案内に従って、迷宮のように入り組んでいる道を迷うことなく進み、最下層にあるラスボスの部屋まですんなりとたどり着く。全員のバフ状況を確認し、アイリが持ってきたアイテムを惜しみなく使ってHPもMPも満タンにする。

 そして、ボス部屋へと入っていくと、中ボスの部屋よりもやや広い空間にいたのはメタリックボディのドラゴン。


「メタルドラゴンか……奴に物理攻撃はほとんど通用しねえぞ」


「どうするんだよ、おっさん」


「ドルシ、気合を入れて奴を引き付けろ。最悪、俺とソドに攻撃を押し付けても構わん。絶対に倒れるな!死んでも倒れるな!!」


「りょ、了解!」


「アイリ、魔法攻撃が使えるお前がメインアタッカーだ。だが、見ての通り、金属の体を持つ奴に毒は通用しない。その点を踏まえて攻撃しろ。リーフはバックアップを頼む」


「わかりました」


「わかったぞ」


 アイリは初手分身からのフレアストームで一気に畳みかけようとする。燃え盛る火炎から逃げ場のない閉鎖空間ではメタルドラゴンは受けることしかできない。だが、彼女の上級の炎攻撃を受けても大したダメージになっていない。


「魔法も物理も効かないって強すぎない!? Arthurさんやライチョウさんはどうやって勝ったの!」


 回避特化のArthurはともかく、攻撃極振りのライチョウにとって、メタルドラゴンの高い防御力はそこまで脅威ではなく、苦戦は強いられるものの頑張れば勝てるレベルであった。ライチョウがNPCが弱いと判断しているのはラスボスに有効打を与えることができないことにも起因していたのだ。

 メタルドラゴンの口からビームが放たれ、ドルシを焼いていく。ダメージも大きいがヒラが彼の回復に専念しているおかげで踏みとどまっているような状態だ。


「とにかく弱点っぽい技を使うよ。メカメカしいから、まずは電撃!ダークサンダー!」


 メタルドラゴンの体表に電撃がほとばしるも、しっぽを地面に突き刺すことでアースのように電撃を逃がしていく。そして、アイリに一瞬だけヘイトが移り、体中から放たれるレーザーが襲う。


「シャドーダイブ!」


 逃げ切れない攻撃を影の中に逃げ込んでやり過ごすと同時に、メタルドラゴンの足元へと移動する。


「正面から無理なら!カースインフェルノ!」


 黒い炎がメタルドラゴンを襲い、HPをわずかばかり削り取る。精霊魔法を除けば、アイリが放てる最大火力ですらこの程度。どうしようかと考える時間を与えようと、ドルシたちがヘイトを稼ごうと技を使い、メタルドラゴンの気をひかせる。

 突進攻撃後、メタルドラゴンの胸部から放たれたミサイルが、地上にいた仲間を大爆発し、吹き飛ばしていく。


「みんな、大丈夫!?」


「直撃していないおかげでなんとかな。アイリ、立て直している間は耐えてくれ!」


 眼前を飛び回っているアイリに向かってメタルドラゴンがビームを放つ。その後、先ほどと同じくレーザーや突進攻撃が来たあたり、攻撃のサイクルは決まっているようだ。そして、予想通り放たれたミサイルはアイリを追いかけまわしていく。


「私たちの攻撃が効かないなら!」


 アイリがメタルドラゴンの眼前まで近づき、急上昇する。いくらミサイルに誘導能力があるとはいえ、急な方向転換はできず、メタルドラゴンにミサイルが直撃し、そのHPを大きく削る。


「こっちは立て直したぞ」


「攻略方法はアイリが示してくれたな。ビームはドルシが引き付けろ。レーザーと突進は俺とソド、リーフが引き付けて躱す」


「そのあと、私がヘイトを奪ってミサイルを誘導します」


「承知した」


 全員の力を合わせなければ、このメタルドラゴンには勝てない。ドルシがヘイトを奪い、ビームをヒラと合わせて耐える。ビームを打ち終わったのを見計らって、オカシラたちがメタルドラゴンに攻撃を行い、レーザーのターゲットを自分たちに移す。突進攻撃が終わるのを見計らい、アイリは魔法を放つ。


「ヒュドラブレス!」


 複数の分身とともに放ったアイリの攻撃によって、ヘイトが彼女に移り、ミサイルが飛んでくる。それを先ほどと同じくメタルドラゴンにぶつけていく。ここまでくれば、作業の繰り返し。同じサイクルでしか攻撃できないメタルドラゴンはハメから抜け出せず、複数回自身のミサイル攻撃を受けて倒れるのであった。



称号:【住民との絆】(NPCをパーティーに入れている場合、自身とNPCのステータスをアップする)を手に入れました



 ダンジョンを攻略したことでギルドへと飛ばされるアイリたち。寛大な拍手で出迎えられながら、ギルド職員のもとに行き、ギルドカードを手渡す。


「ダンジョンに関しての知識、チームワーク、そして洞察力。これらを測る試験に無事合格しました。よって、あなたたちをBランク冒険者と認めます」


 返ってきたギルドカードにはBの文字がキラキラと輝いて書かれている。残すランクは最上位のAのみとなった。


「Bランクになったことで、一部の取り逃した技や魔法、スキルを回収できるようになります。興味ある方は世界各地を巡ってください。連絡事項は以上となります」


 淡々とした口調でギルド職員の説明が終わる。そして、ログアウト時間も差し迫っていることもあり、アイリはオカシラたちに別れの挨拶をすました後、ログアウトするのであった。

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