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第84話 デスゲーム、スタート

 プレイヤーたちがまっすぐ最短距離で突き進んでいくと、敵プレイヤーたちとばったりと遭遇する。


「総員攻撃開始!」


「ファイアショット!」


「ホーリーショット!」


 プレイヤーたちが一番最初に覚えた基本技でチーターたちに攻撃を浴びさせていく。MP消費の荒い強い攻撃でも1ダメなら、クールタイムも短くMP消費の少ない攻撃を使った方がダメージ効率がいいからだ。

 さらに、チーターたちは目立ちたがり屋のアタッカーがそのほとんどを占めており、タンクやヒーラーはほぼいない。つまり、飽和攻撃への対処はもっとも苦手としているのだ。


「分身は前もって増やしておいたよ、カース!」


「私も分身の術は使い済み」


「このまま攻撃を受け続けたらまずい、反撃するぞ!」


 飽和攻撃によってじりじりと減っていくHPを見た敵の魔導士が焦りながら攻撃を放つも、騎士風の男性が前に躍り出て、突如現れた巨大な盾に阻まれる。


「Galahad、大丈夫かい?」


「先輩を守るのが後輩の務めですからね。と言っても、ナーフされたせいでもうすぐアストラルシールドの効力が切れますけど」


「十分だ、彼が行く。それに僕には別の仕事があるからね」


 盾に気を取られているプレイヤーの意表を突くため、回り込んだライチョウが彼らの背後から襲い掛かる。ステータスにポイントを振り続けた彼は攻撃面だけを考えるのであればチーターと同じ土俵に上がれる唯一のプレイヤーだ。殴られてHPを削られたのを見た彼らが驚くのも無理はない。


「チート使っているのに何で!?」


「俺たちは研鑽を続けて、お前たちはやめた。ただそれだけだ!」


 ライチョウが繰り出しているのは技も魔法も使わないステゴロ。つまり、クールタイムやMP消費など一切存在せず、連続的に攻撃をし続けることができる。チーターがライチョウに攻撃を当てようにもそもそものプレイヤースキルの高さが段違いであり、あてられる様子はない。

 プレイヤーの飽和攻撃にさらされながら、ライチョウの格闘術を止める手段などなく、混戦に慣れていないチーターたちは蹂躙されるのであった。


「はげしい戦闘を行った以上、こちらの意図はばれているはずだ。少々早いがプランCへ移行する」


「はい!【ティアマト召喚】!」


「いくで、チビ太郎!【海竜神の加護】!」


 森の中から現れるレイドボスの2体。圧倒的な存在感を放つそれらは遠巻きにいるものでさえはっきりと認識された。


(勝つためだけなら、我々を無視して本拠地に攻め込めばいい。だが、チートを使う連中の思考は戦略上の勝ち負けよりも、他者を容易に蹂躙することに喜びを感じている者が多い。つまり、そこに有名なプレイヤーがいると分かれば、奴らは溜飲を下そうと飛び込んでくる)


 キングの目論見通り、ワラワラとチーターたちがやってくる。チーターのPKが原因でゲームをやめたフレの無念を晴らそうとしているプレイヤーもおり、戦意は常にMAXなプレイヤーたちがチーターを迎え撃つ!



 森の中央部で激しい戦いを繰り広げられている中、カオスやギャラルホルンメンバーたちは最も安全な自分の城からその様子を眺めていた。


「意外と持ちこたえているな」


「向こうの方が数は多いですから。ですが、御心配には及びません。向こうの戦力の減少率はこちらよりもはるかに大きい。あと10分もしないうちに数でも逆転できるでしょう」


「運営も愚かなことをしたものだ。いくら金や時間を積み込んでもチートツール1つでひっくり返せることを証明するようなものだ」


「まったくです。唯一の対抗策たる死の宣告も我々ギャラルホルンメンバーの上位チートツールならば、対策も万全」


「だったら試してみるか?」


 カオスたちの背後から現れたのは、隠密スキルのあるジョーカーとユーリ、そして彼女たちのスキル範囲に合わせて動いたArthurの3人。ジョーカーとArthurがカオスの後方に控えているギャラルホルンメンバーに襲い掛かる。


「死の宣告が効かねえなら正々堂々勝負しようぜ!」


「まずは手筈通りに分断させるぞ!」


 ここは前回のイベントと同じつくりの城。すなわち、アイリからの重力攻撃から逃れたときと同様、床を破壊することができる。床を破壊されたことで、飛翔系スキルを持っていない、もしくは持っていてもとっさに使えないほど未熟なプレイヤースキルであったギャルホルンメンバーは落下していく。

 いや、一応はゲームをそれなりにやりこんでいたカオスだけが床下の崩壊から逃れていた。


「ちっ、逃げれたのは俺だけか」


「こっちとしては1vs1の方がありがたいけどね」


「ほざけ。今回は上位のチートツールを使っている。お前みたいな雑魚、一瞬で消し飛ばしてやる」


「できるものならね!」


 ユーリが煙幕を張り、クナイの軌道を読ませないようにするも、それに意を介しないように剣で薙ぎ払いながら突っ込んでいくカオス。回避行動をとることを想定した数本のクナイは壁や天井に突き刺さり、彼に当たったクナイは1ダメージだけ与えて床に転がっていく。


「お前のような貧弱な攻撃なんざ避ける必要なんてないんだよ!」


(いくらチートを使って早くても、動きは私たちと同じ人間。つまり、よく観察すれば……躱せる!)


 Arthurたちとの特訓で数多くの技やスキルを見てきたユーリ。剣を振るうということはその先に刀身があることを教えている。故にかわせる。


「これならどうだ、ファイアーボール!」


(ぎりぎりまで引き付けて……!)


 焦れて自動追尾のチートを使った初級魔法も、急な方向変換にはついては行けず壁や天井を破壊するだけにとどまる。それどころかクナイを投げつけられ、微細なダメージを与えてくる。天井、壁、床、あちらこちらに突き刺さっているクナイは彼女の猛攻を伝えており、カオスを激高させるには充分であった。


「だったらより広範囲にぶっ放してやる」


(ためが長い……大技?)


「くらえ、攻撃範囲拡大チートを利用した特大のファイアーボールだ!」


 ユーリの視界を覆いつくさんばかりの火の玉が放たれていく。有名プレイヤーの行動パターンを把握しているカオスにとって、ユーリが次に取る行動は身代わり、空蝉を使って攻撃をやり過ごすことだと考えていた。


(空蝉を使われてもこの距離ならば、俺の背後を取ることは不可能。クールタイム0のチートに、前方の相手を自動で追尾するチートがあれば対処は可能。チートには絶対に勝てねえことを教えてやるぜ)


 そして、ファイアーボールでユーリの姿が包まれたのを見たカオスは間髪入れずに、特大のファイアーボールを放つ。そして、それが同じ軌道を描きながら壁を破壊するのを見届ける。


「ざまあみろ」


「それはこっちのセリフ!」


 頭上から複数に分裂したユーリがカオスを切りつける。倒したはずの彼女がなぜ生きているのか、わからないカオスは「なぜ生きている」と問いかける。


「分身と入れ替わっていたに決まっているでしょ」


「ありえねえ!お前が分身と入れ替わるタイミングなど……あの煙幕か!」


「ご名答!」


 煙幕を張ったユーリは即座に隠れ身の術ですぐ近くの壁と同化していた。あとは偽物だとばれないようにしゃべらず、【精密操作】のスキルで本物のように動く分身に躍起になっているカオスのすきを見て、比較的安全な天井に張り付いていたのだ。


「エアースラッシュ」


 分身も合わせ、前後から襲い掛かる風の刃がカオスを切り刻む。距離を取らせようとカオスがスピニングブレードを使うと、その場で跳躍するだけでかわされてしまう。


「射程距離が伸びているのに後方に下がるわけないでしょ」


「ぐっ……」


「このまま殴り続けさせてもらうよ」


「ほざけ!だったらファイアーボ……」


「当たらないようにすればいいだけでしょ!」


 ユーリがファイアーボールを放とうとしたカオスの腕を蹴り上げ、天井へと撃たせる。屋根を吹き飛ばし、青空が見える中、ユーリの攻撃がとどまることを知らない。


「こんな雑魚に……!」


「それは私のセリフ。だって、チートに頼りすぎていて攻撃技のレパートリー、ほとんど無いでしょ。そんなの強いモンスターと大差ない!ううん、スキルも技も魔法も使いこなせてないなら、下手すれば敵キャラよりも弱いんじゃない?」


「ほざけ!」


 怒りに身を任せて剣をぶんぶんと振り回しているカオスの剣など、Arthurたちと比べるのもおこがましいほどに単調で読みやすい。この場を完全に支配しているのはユーリであることは誰の目から見ても明らかであった。


(もう俺のHPが……!? ここで負けるわけにはいかねえ。こうなれば開発中の最上位チートをつかうぜ!)


 チートコードを詠唱したカオスが黒いオーラを発していく様子をみたユーリは何が来ても対処できるように一度距離を取る。背後には壊れた壁。最悪はここから飛び降りれば、攻撃はかわせる。


「これで俺へのダメージは0に……なんだ、体の内側から膨れ上がるような感覚は……ぶひゃあされじゅや!!?」


 カオスのいたるところからボコボコと風船のように膨れ上がり、上空へと昇っていく。この異常さに何が起こっているのか分からないユーリは唖然とその様子を眺めていた。

 そして、巨大ないぼ状の風船となったカオスの体がピシピシと音を立てながら割れて、中から現れたのはかつてのレイドボスであった邪竜ファフニールであった。




 無論、その様子は運営サイドからも見えている。横にいる警察はゲーム内容に関心がないのか、不正プログラムの売人の洗い出しに躍起になっており、運営たちの会話は耳に入っていないようだ。


「一体、何が起こっているんだ!」


「プレイヤーがモンスターになったぞ」


「グラフィックバグか?」


「ああ、その通りバグだ。だが、話はそう単純なものではない。下手すれば死人が出るぞ」


「加藤、わかるように説明してくれ!」


「おそらくだが、デバッグもしていないチートツールを使用したことで、すでに発生している多数のバグと共鳴した結果、生まれたモンスターだと思われる。ファフニールの姿を取っているのはプレイヤーの深層心理で強敵の印象が残っているがゆえに、その姿を取ったのだと思われる」


「バグのことは分かった。死人が出るってのは?」


「あのファフニール、本物と紛らわしいからカオスファフニールと名称するが、奴はカオスの残留思念を読み取ったせいか、強さを求めてバグを吸収し続ける性質がある」


「それがなにか?」


「バグを吸い取ってくれるならむしろいい存在じゃないか?」


「どのような機械でも仕様の関係上、あるいは見逃してしまったバグというのは必ず存在している。今は不正プレイヤーによって生じたバグが近くにあり、イベント中であるがゆえにオフラインに近い環境であるからその場から離れることはない。だが、イベントが終わり、完全なオンラインになったら……」


「どうなるんだ?」


「インターネットを通じて世界中のIoT機器に侵入。バグを吸収する過程で正常なプログラムも傷つけ、それによって生じたバグを吸収して破壊……それを繰り返して各種機械の内部から破壊するコンピューターウイルスとなりかねない」


「だったら、そのカオスファフニールを閉じ込めてその間に消去すれば……」


「それもできない。急速に増え続けているバグでサーバーが悲鳴を上げている。あと20分もしないうちに、サーバーが落ちるだろう。急いで普及したとしても、数日間はプレイヤーは意識が戻らず、プレイ環境次第では死にかねない。しかもタチがわるいことに普及したとしてもバグの根本が消えるわけではないから、すぐさま落ちる可能性もありうる」


「だったらプレイヤー全員を強制ログアウトすれば……」


「ログアウトさせようとした瞬間、コンピューターウイルス化しているカオスファフニールはこのゲームから離れ、より大きな被害が出るぞ。しかも、バグを吸収すればするほどより強大なものへと進化しかねない。そうなれば、だれにも止める手段はなくなる!」


「だったらどうするんだよ!」


「解決方法は一つ……ゲーム内時間で1時間以内にプレイヤーが最弱状態のカオスファフニールを倒し、消滅させることだ」


 加藤の言葉を聞いた運営はプレイヤーに告知する。



 バエルの力によってプレイヤーの1人がカオスファフニールに変貌しました

 力を合わせて1時間以内に討伐しないと、この領域が消滅し、ゲームオーバーになります



 混乱させまいとイベントで起こった出来事だと思わせ、文字通りデスゲームとなったこのイベントをクリアしてもらえることを運営たちは祈るのであった。

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[一言] 運営と警察の不祥事やな 土下座記者会見マダー?
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