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第82話 vsティアマト

「我が子たちをよくも……!」


 眷属を葬ったプレイヤーたちに怒りを覚えたティアマトが上空に無数の魔法陣を展開するも、ソロモンの介入により、半分が打ち消され、残る半分からは先ほど倒したはずのムシュフシュたちが現れる。


「5体でもきつかったってのに今度は何体いるんだ!」


「だけど、HPはさっきよりも低い。弱体化しているなら俺達でもやれるんじゃないか」


「ああ、だったらここは俺たちに任せてお前たちは先に行け!くぅ~、こういうの言ってみたかったんだよな」


「まったくだ。別にあいつらを倒しても構わないんだろとかな!」


 数多くのプレイヤーたちが上位プレイヤーたちに呼びかけ、ティアマトへの道を切り開く。ティアマトの元へとたどり着いたプレイヤーたちが見たのは彼女の足元に広がる毒の沼地。耐毒装備を過信したプレイヤー一人が突っ込んでいくと、すぐさまスタックがたまり蒸発する。


「私たちは空を飛べるからいいけど……」


「戦力の大半は地上部隊だ、どうする」


「うかつに入らなければいい話っす!フェンリル、毒沼を凍らせろ!」


 イーグルのフェンリルが放つ冷気によって毒沼が凍り付き、スケートリンクのようになっていく。転倒防止用の靴に履き替えたプレイヤーたちが、氷の上を歩き、ティアマトに近づいていく。


「みすみす近づかせると思うか、人間ども。ヴェノムファング!」


 ティアマトの正面から無数の大蛇が飛び出し、とっさに対応しきれなかったプレイヤーたちを飲み込んでいく。だが、ここに来たのは無数のプレイヤーから選ばれた精鋭たち。ティアマトの単調な攻撃では勢いが止まることはない。


「ヒュドラブレス!!」


 アイリの攻撃が口火となり、ティアマトに魔法や斬撃が浴びせられていく。


「サーペントテール!」


 うっとうしいコバエを振り払うように巨大なしっぽを振り回すも、余裕しゃくしゃくといったプレイヤーに怒りをあらわにし、発狂モードへと移行する。彼女の周囲に竜巻が発生し、吹き飛ばされるプレイヤーたち。それに負けじと近づこうとするも、突風にあおられて前へ進むことができない。


「遠距離で攻めろってことか」


「ファイアーボール……ってあの竜巻がバリアみたいになってはじかれるんですけど」


「一定火力以上なら通るとかかもしれない。最大火力で押し込むぞ」


「「「せーの!」」」


 魔導士たちがタイミングよく合わせて攻撃を仕掛けると、火力に負けて竜巻が消え去り、ティアマトに攻撃がぶつかる。だが、すぐさま竜巻が復活し、近接職が攻撃を繰り出す暇はなさそうだ。そして、ダメージを与えたことでティアマトのヘイトが後衛職に向き、魔法陣から無数のレーザーを放ってくる。


「カースバリア!」


 アイリがめいっぱい広げたバリアで魔導士たちを守っていく。そして、魔導士たちが最大呪文のクールタイムのわずかな時間を稼ぐため、前衛職のプレイヤーが自分の身を犠牲にしながら後衛職を守っていく。


「イーグルさん、足元の氷を一時的に溶かせますか」


「できるっすよ。タイミングは?」


「攻撃する瞬間で」


「了解っす!」


 いつでも魔法を放てる準備ができた魔導士たちが「せーの!」と再び声をかけてティアマトの竜巻を打ち消していく。ティアマトまで阻むものは何もない。そして、足元に広がる猛毒の沼地。そして、周りには毒をまき散らす眷属たち。アイリにとって最大火力を出す状況が完成していた。


「行くよ、ダーク師匠!」


『ちょいとばかし早いが、ぶつけるとするか!魔力リソース開放、収束開始!』


「フェイク・ロンゴミニアド!!」


 周りにある毒をすべて吸い取った黒い魔槍がティアマトに突き刺さり、そのHPを大幅に削っていく。だが、いくらロンゴミニアドといえども一撃でレイドボスを葬り去ることはできず、痛手を負いながらもティアマトは健在である。

 そして、ロンゴミニアドを放ったデメリットでアイリはしばらく戦闘に参加することができない。生き残っているプレイヤーも減っており、次の攻撃が最後の攻撃チャンスとなるが、ティアマトのHPを削りきれるかは怪しいところだ。


「贋作の聖槍ごときに……ここまでの手傷を負わせるとは。許さんぞ!」


「だったら、聖剣はどうかな」


 Merlinとともに聖剣を抜いたArthurがやってくる。心強い増援が来たことで、やる気を奮い立たせ、魔導士とArthurを守っていくプレイヤーたち。


「エクスプロージョン、Fire!」


 Merlinの一撃でティアマトの竜巻が吹き飛び、魔導士たちの攻撃がティアマトに直撃する。そして、最後の一押しとしてArthurの聖剣が白銀に光り輝く。


「行くぞ、ティアマト!選定の剣(カリバーン)!!」


 Arthurのカリバーンから放たれた白銀の光がティアマトを覆いつくす。闇特攻を持ったカリバーンもまたティアマトキラーとなっており、そのHPを猛スピードで減らしていき、ようやくティアマト戦が終了するブザーが鳴るのであった。



 シークレットクエスト【反逆のティアマト】をクリアしました

 攻略メインクラン【桜花】に所属しているメンバー全員にスキルポイント100ポイント付与

 本レイドに参加したクラン並びにパーティー全員にスキルポイント80ポイント付与


 世界初シークレットクエスト【反逆のティアマト】クリアボーナス

 攻略メインクラン【桜花】に所属しているメンバーに選択スクロール付与

 本レイドに参加したクラン並びにパーティー全員にランダムスキル書付与



「馬鹿な、我が負けただと……!? ありえん。あの女ならばいざ知らず、こんな小娘とよくわからん人間ごときに……」


「ティアマトさんのことはドラゴンの長老さんから聞きました。前の魔王さんがティアマトさんを狙った理由も。でも、ティアマトさんが魔族を増やしすぎなければ何も起こらなかったはずです」


「では逆に聞こう。貴様ら人間はこれ以上人間が増えると食料が足りなくなるといわれて、子供を増やさなくなるのか?」


「そ、それは……」


 アイリだけでなく周りのプレイヤーもティアマトの問いに対し、即座に答えることができなかった。産業革命以降、爆発的に増えた人口によって引き起こされた食糧問題や環境問題は彼らが子供のころから習っていることだ。では、人間が子供を産むのをやめることができるのかと言われれば答えはノーだろう。だが、その答えはティアマトが行った過ちを肯定することとなる。


「できないであろう。それも当然だ。それは生物がもつ本能。子孫繁栄はわが権能。無限に増やし続けていく欲求は誰も封じることはできん」


(うっ……反論できない……!)


 ティアマトへの反論に行き詰った時、突如として花吹雪が舞いその中から白魔導士アンブローズが姿を現す。


「やあ、初めましての方も、久しぶりの方も。白魔導士アンブローズ、只今参上」


「アンブローズさん!」


「貴様は……!?」


「おっと、真名をいうのは無しだ。今回は本来の予定よりも3か月くらい早くの登場。いわば顔見せのようなものだ」


「何をしに来た」


「な~に、弟子たちが活躍したと聞いたら様子を見に来たくなるのが心情というものだろう」


「ならば帰れ!お前がいるとたいていろくなことにならない」


「つれないねえ。さてと、私から君たちへ言えるアドバイスはたった一つ。これは現実ではなくゲームだってことさ。そして、私はたいていのことができる」


「メタ視点で考えろってこと?」


「ゲームだったら、どうやって解決する?ってことか」


「倒せない相手なら封印が鉄板だよな」


「それができないなら、いっそのこと別の惑星に飛ばすとか?」


 アンブローズの助言を受けてざわざわとプレイヤーたちが案を出し合っていく。多少の際はあれど、それらの意見のほとんどが封印か追放の中で、アイリは自分の答えをたたき出す。


「アンブローズさん」


「なんだい。私ができることなら何でもするよ」


「ティアマトさんの権能を封じることはできなくても弱めることはできますか」


「理論上は可能だ。中身の入ったコップの水を別のコップに移し替えるようなものだからね。だけど、彼女ほどの権能となると、彼女自身から認められるほどの大器がないといけない」


「私、【ティアマトの権能(弱)】持っています」


「よろしい、器としては十分だ。では、ティアマトが無限に子孫を増やさせない、つまり生み出せる上限がつくまで弱体化させる」


 アンブローズが杖を振りかざすと、ティアマトの体から赤黒い光が放たれ、アイリの体へと入っていく。


【ティアマトの権能(弱)】は【ティアマトの権能】になりました

【ティアマトの権能】……召喚獣のクールタイムが大幅に減少する。さらに召喚獣の能力を向上させ、通常攻撃に毒付与効果が追加される。


「確かに子供を生み出すという熱にうなされるような衝動はなくなった。だがアイリ、なぜ、わらわを殺すでもなく封印するでもなく追放するでもない方法をとった」


「だって、何百年もあそこにいたのにまた封印とか追放なんて可哀そうだから……悪さしないなら一緒に暮らした方がずっと良いよ」


「弱体化したとはいえ、再び逆襲するかもしれんぞ?」


「そのときはまた皆で止めます」


「皆か……久しく忘れていた言葉だ。ならば、お前の行く末、間近で見てやろう」


 アイリは【ティアマト召喚】(MP消費200)を覚えた


 ティアマトが消え去り、地上に平穏な時間が訪れる。そして、アイリがアンブローズに礼を言おうとしたとき、すでに彼の姿はなく、花びらだけが宙を舞っていた。

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